【ビジネスパーソンと共に学ぶオンライン座談会WAN University 「自治体と企業のマーケティング活動の違いとは?」】参加レポ
あなたが「住む場所」を選ぶとき、その理由はなんでしょうか。 ◯◯の近く、自然が多い、便利、子育てがしやすい、などなど。色んな理由がありますが、どんなに良い場所、土地、街であっても、「そういう場所がある」ということを知る機会がなければ、選択肢にすら入らないですね。
住む場所を決める、ということは、どの自治体の住民になるかを決める、ということです。では、自治体は「この街に住もう!」と思ってもらうために何ができるのでしょうか。
「誰をターゲットとし」「ターゲットにどう届けるか」。自治体は公平平等であるべきというその立場から、「誰を市民とするか」を選ぶべきではないその一方で、事業を行う上では「誰に向けての事業か」をはっきりさせる必要があります。
住民の幸福度を高めるという使命のために、自治体はどのように「マーケティング」に取り組めばいいのか。2020/5/15に「母になるなら、流山市」で有名な千葉県流山市マーケティング課課長の河尻和佳子氏によるオンライン座談会でたっぷりお話を伺いました。
体験レポをどうぞ。
講師について
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マーケティングとは
そもそもマーケティングとはなんだろう。
マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。
日本マーケティング協会 1990年
個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的ブロセスである
フィリップ・コトラー
「マーケティング」という言葉に対する認識の幅は広く様々な定義が存在するが、その共通項を挙げれば以下の通りだそうだ。
人の行動変容(その気にさせる)仕組みをつくること
①.魅力は何か
②.対象は誰か
③.どうやるのか
広告やデータ分析などもその一角である。「マーケティング活動を行う上で重要なのはその順番。失敗パターンとしてありがちなのは③(〇〇に広告を出そう など)から考え始めてしまうことだが、①②③の順に考える事が重要。」
こう表現すると難しいが、河尻氏の例えはとても分かりやすい。
「マーケティングは日常の中に転がっている。『モテたいから』という理由で手当り次第男性にアプローチをかけても、自分の魅力は何かを理解していなければ彼氏はできないまま。自分の魅力から誰にアプローチをかければいいかを絞って行動していくことでモテるようになる。モテるようになると、自分からアピールしなくても『あの人はモテるらしい』という噂が出回って売り込まなくても売れる『ブランディング』ができた状態になる。」
自治体と企業のマーケティングの違い
企業のマーケティング
目的:利益
対象 :顧客
ターゲット設定:詳細に必要
元手:商品・サービスの対価
市場:競合あり
自治体のマーケティング
目的:住民の幸福
対象:住民(企業や団体)エリア限定
ターゲット設定:やっていない※
元手:税金
市場:独占
※公平平等であるべきという立場から制限がある
企業と自治体のマーケティングの違いはこの通りだ。「自治体は『売るもの』はなく『住民・市民に満足してもらえるように正しく仕事をする』必要がある」
「仕組みとしては自治体も企業も似たようなものだが、自治体は公平平等であるべきなので、『誰を住民とするか』というターゲット設定はするべきではないが事業をやる上では『誰に向けてるの?』は必要。『誰に向けてのチラシですか?』と問う時『市民です』では誰にも届かないので、公平平等でいようとするあまり思考停止状態になってしまってはいけない。自治体がどういう戦略で住民全員の幸福を叶えるかで指標が決まる。」
流山市の事例
「ずっと住んでいる場所は良さが分かりづらい。多様な人(最近住み始めた人、元住民、外部の人など)、多くの人数に話を聞きその共通項を探すことで魅力が見えてくる。」そのために河尻氏は市民の声を聞くことを大切にしており、市民との交流を積極的に図っている。例えば、SNSで市民をフォローして意見を持つ人から直接話を聞く機会を設けたり、土日にイベントを実施し飲みながら市民と話せる機会を作ったり、市民が開催しているイベントに出向いて話を聞いたりだ。
「自治体の魅力として挙げられがちな3大要素は、緑が多い、子育てしやすい、治安が良い。このような表面的なものでは差別化にはならない。『子育て世代がターゲットです』では事実上ターゲティングできていないので、もっと具体的に絞る必要がある」
「日本全体の人口は変わらないので、市の人口を増やすにはどこかから来てもらう必要があるが、そのやり方が近視眼的になって近隣の自治体と食い合うのは良くない。住民は住む場所をエリアで見るので隣の自治体の人口が減るということは自分たちのところの人口が減ることに直結する。」
このような考えのもと、流山市がターゲットとするのは以下の通りだ。
・首都圏に住む
・子育て世代で
・3歳以下の子供を持つ世帯
こうしたターゲット設定をしっかりとする理由は、特定の住民を特別扱いするためでもなければ、それ以外の住民をないがしろにするためでもない。
「流山市の強みを考えれば、定住人口を増やしていくのが住民の幸福を考えるうえで必要だったから。人口を増やすのは、強みを考えたうえでのこと。」
その結果、流山市の人工は以下のように増加している
・人口約20万人
・年少人口增加数全国1位
・転入超過数全国8位(政令市除くと全国1位)
・合計特殊出生率1.67(全国1.42)
・県内人口増加率7年連続1位
知る→訪れる→好きになる→住む→ファンになる
「どんなに良い街であっても知ってもらえなければ、なにも始まらない」流山市では、ターゲットとする子育て世代にまず市を知ってもらうために、子育て世代が集まるイベントを例年は実施している(今年は未定)。
また住民に対しては、住むだけで終わらず満足度を高めるための工夫をしている。「街に愛着をもち住み続けてもらうためには住民のエンゲージメント(満足度+期待度)を高める事が必要。また、口コミを醸成することは持続的にファンを増やす効果がある。」
風土を無視しない魅力発信
「街の中の開発されたオシャレな部分を押し出しても東京の都会にはかなわない。風土を無視せずそこにしか無いオンリーワンの魅力を見つけ、それを加工編集の力で魅力的に見せる工夫が必要」
「流山市はみりん発祥の地。しかしそれをただアピールしても魅力が伝わりきらないので、『みりんマシュマロ』をつくって見せ方を変えて元の魅力とブランディングの力を掛け合わせて発信している。」
Q&Aセッション
河尻氏の一通りのお話のあとには河尻氏と受講者によるQ&Aセッションの場が設けられた。様々なQ&Aが繰り広げられた中の1つを取り上げる。
Q.「自治体として事業を行う上でやらないことを決めるには?」
A.「自治体の事業はやめるにもきちっとした理由が求められるので、やらないことを決めることは重要。仕事が増える一方でやめられないとなりがちなので、最初にやめ時を決めて始めるのも一つの手(いつまでにこのような結果が出なければやめる、など)。また、なんでも自治体がやるのではなく、ビジネスとして成り立つものは、市民に実施してもらうのも手。自治体の人手不足はこれからも進むことが予測されるので、主体的・能動的に行動してくれる市民を増やすこともこれからのために必要。」
まとめ
自治体の名前を聞くとすぐに「〇〇の街!」と自治体の特徴を言えてしまう河尻氏に、自治体に対する熱を感じた。座談会の中での「街はライフライン。ちゃんと暮らせて当たり前のものに普段は特別な感情を抱かない」という河尻氏の言葉が印象的であったが、私自身も普通に生活しているこの毎日の裏で自治体の職員の方々が日々さまざまな努力や試行錯誤を繰り返してくださっていることに、こうしてお話を伺って初めて関心抱いた。「自治体職員」という仕事に対して漠然と「安定した職業」という印象を抱いていたが、こうして街を作ってくれている方のお話を聞くことで、なければ暮らしていけないのに今まで視界に入っていなかった出来事の存在に気づき非常に面白かった。自分自身も世間も、「自治体」という存在に対する解像度をもっとあげていくべきだと感じた。住民と自治体がともに行う街づくりがもっと広がっていく未来が楽しみだ。
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