【自分たちが気付いてないこと】に気付く必要性 #女性に活躍してほしい理由
今回の記事は日経COMEMOのお題
「#女性に活躍してほしい理由」への投稿です。
私の職種であるエンジニアは、日本全体の管理職における女性比率に負けず劣らず低迷している業界です。
なのでしばしば
「なぜこの業界に女性(のみならず、シニアなど多様な属性)の視点が大事か?」
「ます多様な人が活躍する必要があるのか?」
といったトピックが議題に上がります。
一方で当事者の一例たる女性自身から逆に
「なんでそれ(=多様な視点)が必要なの?」
「正直、今のままで悪い理由が分からない」
との声も聞きます。
かくゆう私自身も、昔はこのニーズにピンと来ていませんでした。
ですがIT業界の意思決定のリアルな場を見聞きするようになった今となっては
・意思決定者が偏っていることで、生み出されるプロダクトや施策は女性や多様なユーザーのニーズに応えられていない
・一方で、ニーズに応えてもらっていない当事者自身がその事実に気付き辛い
・それでも、社会から新しいプロダクトや施策の利益を受け取れる層と受け取れない層の格差は影ながら進行している
と、日々危機感を募らせています。
今回はスマホを代表例として、女性活躍のみならず、意思決定に多様な視点が欠けることによる社会的不利益について、改めて指摘したいと思います。
大ヒットAndroid端末・IS05は何故発売前は酷評されたのか
私が「この業界には多様な視点が足りてない」と最初に気付いたきっかけ。
それは10年前にシャープが発売したAndroid初期の製品「IS05」を巡るネットの反応がきっかけでした。
IS05はメディア発表当初、ネットのガジェットブロガーを中心に酷評の嵐でした。
それは、同タイミング発表された兄弟機IS04があり、これと比べてIS05は
・画面は小さい
・CPUスペックは低い
ということで、「ハイスペックなIS04と比べて魅力がない」といった批判が巻き起こりました。
しかし蓋を開けてみれば女性層を中心にIS05が圧倒的な大ヒットを記録。
IS05は女性層からすれば、IS04に比べて
・画面が小さいから手の小さい女性にも扱いやすい
・ハイスペックはいらない。その分バッテリー持ちがいい方が嬉しい
といったメリットがありました。
当時(そして残念ながら今も)ネットで先端テックガジェットを批評するような人といえば、大抵がハイスペック好きな男性です。
世の女性たちの多くが感じていたIS05のメリットが、彼らには完全に見えていなかったのです。
「視点の偏りで失われたヒット商品」に、我々は気づけない
ここまでエピソードだけなら
「批評家に屈せずユーザーニーズを掴んでIS05は大ヒットを記録しました、めでたしめでたし」
に終わる話です。
しかし想像してみてください。
もしシャープの製品企画にゴーサインを出す責任者が、IS05を酷評した世のハイスペック好き男性ブロガーと同じような価値観の人ばかりだったとしたら?
IS05は、せっかく担当者が「これは女性に受ける!」と思っても
責任者が「こんな低スペックのものが売れるわけない」と却下されて幻に終わっていたかもしれません。
シャープがIS05をもし出さなかったら、他社がその分その女性層を狙った製品を出せたでしょうか?
いいえ、永遠にどこの会社も女性好みの製品仕様であるスマホを出さなかったかもしれません。
そしてこの「もしも」は決してあり得ないことではなく、むしろ恐ろしいほど当たり前にこの業界で起こっています。
エンジニアとして仕事をしていて実感するのは
「多くの意思決定において、最先端テック大好きな男性視点に偏っており、多様なユーザーニーズに応えられていない」
ことです。
IS05はこんな業界の中で、偏った意思決定に負けることなくユーザーニーズを掴む製品を出せた、むしろ稀有で幸運な例です。
「IS05がボツにされた世界」
いや、そもそも「IS05のような製品自体を誰も企画しない世界」
そんなことの方が当たり前なんです。
ニーズに応えないことは格差を産む
そしてこの問題で最も恐ろしいことは
「意思決定層の偏りによってプロダクトや施策が無くなってしまったことによる損失」を
「不利益を被った当事者層すら気付けない」ことです。
私は女性以外にもテクノロジー業界で不利益を被っている層が多々あると考えていますが、その中でも特に大きな層として「シニア層」があります。
世界最高齢プログラマーとして有名な若宮正子氏は、講演などで折に触れて下記のような指摘をされています。
シニアは指先が乾燥しているから、スマホの画面をスワイプしてもなかなか反応してくれないし、目や耳が悪くなるとアプリで何が表示されているかもわかりません。
私含め、テクノロジーの最先端に携わる人が若い年代が多いです。
なので、スマホそのものがシニアに使いやすい仕様になっていないのですね。
しかしシニア層は、自分たちのニーズに応えたスマホが登場しないことで「自分たちは困っている」と言うでしょうか?
むしろ「別になくてもいい」くらいに言う方が多いのではないでしょうか?
子供世代が老いた親に「スマホを持ってよ」と頼んでも
「ガラケーで十分」とすげなく断られた話はよく聞くパターンです。
しかしシニアに適したスマホがないことの不利益は気付かないところで確実に進んでいます。
コロナ禍の時代では、物理的接触が憚られました。
なのでITを駆使して行政の申請を行ったり、リアルで会うかわりにテレビ会議できることが重要になりました。
でも、スマホを使いこなせないシニアは、感染リスクを承知でも物理的接触に頼らざるを得ません。
奇しくもコロナはシニア層にこそリスクが高いにも関わらず、です。
これはまさに
「テクノロジーの世界で意思決定が若い層に偏っている」
ことで、
シニア自身が「テクノロジーを使えなくて困ってる」と気付かないままに
「シニアがテクノロジーの恩恵を受けられない不利益を被っている」
と言える事態です。
【自分で気付けないこと】に気付く大事さ
女性や多様な視点の重要性を語るトピックに対する反対意見の一種としてあるのが
「少数派当事者が別にいままのままで困っていないと主張している」
といったものがあります。
しかしテクノロジーの世界で顕著なように、意思決定の多様さに欠けることで、意思決定に参加できない層が受ける不利益の恐ろしさは
「当事者自身も気付かないまま、格差が進む」
ことにあります。
「使い辛い」「こんなニーズに応えてもらう必要がある」などと、
当事者自身が自ずから問題提起すること自体、不可能に近いのです。
「多様さに欠けた集団で何かの意思決定をしている」
こと自体が
「自分たち以外の視点が欠けることで、見えないところで悪い結果をもたらしているかもしれない」
ことである。
IT業界や企業の管理職、政治家に多い高齢男性が引き起こすこの問題ばかりがクローズアップされますが
(実際に社会へ及ぼす悪影響が最も大きいがここの偏りであることは確かですが)
これは必ずしも彼らだけの問題ではなく、私たち自身の誰もが起こし得ることです。
例えば女性であっても、専業主婦なママさんばかりが集まったPTAの会では、働く女性の意見やパパさんの意見が無視されてしまう・・・なんてみたいなことがあり得ます。
何らかの特定の属性で集団が固まった場合には高確率で起こりうる事象でしょう。
まずは一人一人がこの事象を認識し
「これって、自分とは全然違う人の視点ならどう思うんだろうか?」
「自分とは違う視点がないと、自分とは違う誰かにとって、どんな悪いことが起きるのだろうか」
と常日頃から自戒し、考える視点を持つことが大事なのではないでしょうか。
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