スマホで撮った星空の写真に、技術革新と淘汰の恐ろしさを見た
スマホでオリオン座を撮る
11月のはじめ、夜空を見上げると一足先に冬の星空・オリオン座が見えたので、買ったばかりのPixel 6 Proのカメラを向けてみた。
撮影後の画面を確認してみると、特徴的な星空がきっちり写っていることが確認できた―――しかも、夜景モードでなく通常モードで。
もちろん夜景モードであれば、もっと煌びやかな星空を撮ることができた。
スマホで星空が撮れることの意味は、カメラの仕組みや歴史を知らないとピンとこないかも知れない。
星空を撮るのは難しい
基本的に撮影技術というものは、暗い場所を撮影するのが難しい。
理由は、写真は可視光線の光を記録することで成り立っているから。だから光がそもそも少ない場所は記録が難しい。
ちょうど人間が夜だと周囲が見えないのと同じ。
安価で手に入るほどほどの性能のカメラでは不十分。
高性能で大きなレンズの、高級カメラが必要になる−−−それが暗所撮影の常識だった。
中でも星空はカメラ撮影の難しい暗所の代表格と言っても過言じゃない。
暗所撮影に耐えうる専門的で高級なカメラと撮影の知識がなければ、何も映らないない真っ暗な写真しか撮れなかった。
それが、だ。Pixel 6 Proハイエンドとはいえ、たかがスマホのカメラで撮影できてしまう時代になった。
技術革新的に恐ろしいってもんじゃない。
しかもPixel 6 Proはハイエンドと言っても10万円をちょっと超える程度の値段である。
カメラ性能が劣る、Pixel 6 との値段差はせいぜい5万円くらい。
高級カメラは10万円20万円じゃ済まない価格帯の世界であったことを踏まえれば、Pixel 6シリーズはたかが 5万円でこのクラスのレンズを追加できるとも言える。
この点においても凄まじい価格破壊ではなかろうか。
10 年もすればミッドレンジやローエンドクラスのスマートフォンにも、このレベルのカメラレンズが搭載されていると考えるのが自然。
その時には、ハイエンドのスマートフォンにはもっと高性能なレンズが搭載されてるに違いない。
私は一眼レフを愛用した世代だったけど、ここまでスマホカメラの性能が進化されてしまうと、高級カメラでなければならないニーズがどんどん狭まっているように感じる。
この製品を事業の主力とする企業はますます辛くなってくるのではないだろうか。
技術革新・淘汰が激しいカメラ業界
カメラ業界の技術革新・淘汰に思いを馳せてしまうのは、私が高校時代が所属していた写真部の、銀塩フィルム最後の世代だったからかもしれない。
私の下の世代から、写真部のカメラは全てデジタルになった。
イノベーションで淘汰された企業として教科書的によく取り上げられるのが、カメラのデジタル化に伴いアナログカメラのフィルム事業が淘汰されて倒産したコダック社の例である。
(対照的にこの嵐を乗り越えた富士フィルム社の事例と共に語られるのが常だ)
デジタルカメラが出始めた当初、アナログをカメラを手がける人々の多くはデジタル技術をバカにしていたのを、幼かったながらに覚えてる。
画質が悪いとか、鮮やかな色彩が出せないとか、フィルムから写真を現像するときのような調整ができないとか。
でも結局は素人目には分からないほどデジタルカメラの技術は発展し、極ニッチな用途を除いてアナログカメラ市場は消滅してしまった。
他方、デジタルカメラ市場が安泰だったかといえばそんなことはなかった。
携帯にカメラ機能が搭載された頃、携帯のカメラで撮影できる写真なんてショボいクオリティだ、と専門カメラを愛好する人間は思っていたはず。
がしかし、気がつけば携帯・スマホに搭載されるレンズのクオリティも上がっていて、日常のちょっとした光景を撮るのなら十分なレベルに。
それこそ星空撮影や望遠撮影のようなニッチな用途ではなければ、専門のカメラを持ち歩く必要性も見えなくなってまい。
そこそこの性能しか持たないコンパクトデジタルカメラの市場は、誕生から二十数年程度で衰退してしまったように見える。
私自身、数年前に星空や望遠撮影に専門のカメラを購入したけれども。
逆に言えば、そうでなければスマホで十分だと認めていた。
そんな胸中でいたところに、このPixel 6 Proのカメラ性能である。
・・・ちょっとした気分転換に星空や望遠を撮りたいと思った程度なら、スマホのカメラでもできてしまう。
10年後、これまでは高級カメラじゃないと絶対にニーズに耐えられないと考えられた市場に、スマホに搭載されるカメラでも耐えうるようになったニーズはますます増える。
そうなったとき、高級カメラを手がける企業はどれほど生き残れるだろうか。
これまでもカメラ技術を手がける企業は技術革新の度に淘汰されてきたけれど、またひとつ大きな淘汰の波が来る予感がした。
競合が追いつく可能性に向き合わなければ生き残れない
競合のやつらは低スペックだ、我が社のハイスペックな技術は素晴らしい、だから負けるはずがない――― 【今】は確かにそうかもしれない。
しかし、何年経ってもその認識で思考停止してしまい、気がつけば競合技術にスペックですら追い抜かれて淘汰されてしまう事例がカメラ業界にはとても多い。
アナログからデジタルへの移行。専門カメラからスマホ搭載カメラ。
新しい技術革新によって低い性能の製品から追い込まれ、気が付けば当初から想像も付かないレベルのハイスペックの製品まで食われ尽くす。
これを繰り返すカメラ業界は、常に絶望的な撤退戦を強いられる過酷な戦場のようだ。
でもこれはカメラ業界に限らず、今や全ての業界で共通的なことでもある。
10年、いや僅か5年もすれば競合はわが社の技術に追い付き、追い抜くかもしれない。
そうなった時に会社の事業をどう転換するのか。
かつての富士フィルムのように、強者の驕りに陥ることなく、競合技術のポテンシャルを冷静に評価し対応できた企業だけが生き残れるんだろう。
スマホで撮ったキレイなお星さまの写真とは裏腹に、そんな弱肉強食の殺伐とした競争社会に思いを馳せてしまうのだった。
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