「日本人は全員アニメ観てるわけではないのよ」青年海外協力隊になる前、2か月間1人旅した話⑫
↓前回(寝台列車に乗って、ハノイからフエに移動。ベトナム人とトランプ)
ハノイから統一鉄道に乗って約13時間半。
時刻は午前9時半をまわったところだった。
やっとフエに到着した。
同じ寝台車に乗っていた、社員旅行中のベトナム人グループはもういなかった。
私が二度寝している間、フエの前に停車したどこかの街で降りたらしい。
フエ駅を出ると、バイクタクシーのおじちゃん達から「タクシー?タクシー?」としきりに声をかけられる。
私が予約していたユースホステルは駅から徒歩30分くらいのところにあるので、客引きはすべてふりきってずんずん歩いてゆく。
歩いたほうがボラれる心配がないし、確実だ。1人旅しているときは、5キロ以内だったら歩いていた。
交差点で信号待ちをしていると、背後からバックパックを背負った男性が現れた。
彼と目が合った瞬間、言葉を交わさずとも分かった。
この人もバックパッカーで1人旅をしているのだ(初対面同士でもお互いバックパッカーで1人旅をしている場合、目が合うと謎の仲間意識が生まれる)。
「やあ」
彼が声をかけてきた。
「やあ」
私も返事をする。
「どこから来たの?」
「日本。あなたは?」
「ブラジル人だけど、今はアイルランドに住んでる。1人旅してるの?」
「そうだよー」
彼の名前はオーグストというらしい。
しばらくオーグストと一緒に話しながら歩いた。
どうやら彼も、私と同じように統一鉄道に乗りフエまで来たようだ。そしてフエで泊まる場所を予約しておらず、探しているらしい。
「君の泊まるユースホステルって、まだ空きある?」
スマホで見たところ、男女共用のドミトリーは空いている(私は女性専用のドミトリーを予約していた)。
というわけで、オーグストと私は同じユースホステルに泊まることになった。
ユースホステルに着いて、荷物をおろしたあと、フエの街をオーグストと観光することにした。
フエは、1802年から1945年まで続いたベトナム最後の王朝・阮(グェン)王朝の都があったところだ。
グェン王朝の王宮などが世界遺産に登録されている。
王宮は約600m四方の城壁に囲まれている。
城壁や門の装飾、竜のモチーフが多く使われていること、中国の影響を強く感じられる。
また、門のいたるところに漢字で何か書かれていた。調べてみたら、ベトナムでも1945年のベトナム民主共和国の独立まで漢字を公式の表記文字として使っていたらしい。
現在ベトナムでは漢字は使われておらず、アルファベットに似た文字「クオック・グー」が使われている。
オーグストと話しながら、城壁をぐるっと1週した。
オーグストは日本のアニメが好きで、自分が好きなアニメのタイトルをつらつらと並べ始めた。
「進撃の巨人と、東京喰種と、フルメタルアルケミストと・・・」
「フルメタルアルケミストって何?分からない」
「これだよ」そう言ってスマホで検索した画像を私に見せた。
「あー!!鋼の錬金術師か!」
鋼の錬金術師、英語だとFULLMETAL ALCHEMISTっていうらしい。知らなかった。
だんだんマニアックなアニメのタイトルを並べ始め、私が「うーん、分からない」と言うと、
「ニセ日本人」
と呆れ顔で言われた。
・・・日本人はみんなアニメを観ているわけではないのだよ!笑
私の英語力的に雑談を英語でやり続けるのは限界があるので、オーグストと一緒にアニソンを歌うことにした(オーグストはアニソンをちょっと日本語で歌える)。
アニソンを歌っていたら、あっという間に王宮を1週してしまった。
フエに滞在していた2日間は、たまにオーグストと一緒にベトナム料理を食べたり、彼が行きたがっていた廃墟の公園(マニアックだけどそこそこ有名な観光スポット)におもしろそうだからついていったりした。
フエのあと、私はホイアンという都市へバスで移動したのだけれど、結局オーグストとはこのバスの中まで一緒だった。
ホイアンより30kmほど手前にあるダナンという街でバスが停車したとき、彼は「またどこかで会おうよ」と言って降りた。