樹海の瘴気。
とある美少年が樹海で修行をしていたと言う。
彼は剣術の鍛錬をしていて、愛刀は華やかで美しいが、どこか儚さも感じる。
その美少年は武士、三英傑の一人の小姓とも言える。
例え彼が黄泉路に彷徨っても闇を斬り裂き、果敢に闘えるだろう…
しかし彼が修行する樹海は不意打ちの罠があるという事。ある時間帯になると瘴気が湧き出て、脱出できない者は死に至るでしょう。
紹介してなかった、その美少年の名は蘭丸、容姿端麗で才知溢れる武士である。里を歩けばナンパされる事もあり、おなごと見間違える程、中性的な見た目である。
修行に没頭して刀を振り捌く中で、気配を察知した……
木の陰に潜める黒い影、そう狼が数十匹いるのだ。
蘭丸を四方八方囲み、襲い込もうとしている、
蘭丸「このままでは、餌食とされてしまう……」
狼「ウォーーーーン!!」
吠えた後に一斉に襲い掛かりました。
ビュン!ビュン!ビュン!
迅速に駆ける狼に対し、蘭丸は咄嗟に刀を出した。そして勢い付けて愛刀を旋回したのだった。
狼はそれに怯え、瞬時に去って行った…
蘭丸「ハァ、これにて一件落着か…」
蘭丸は肩の力が抜けて、このまま修行を続行した……
時は日暮れ。
夕焼けの空を見上げて、そろそろ帰らなければ信長様に迷惑を掛けてしまう、ここで修行を終える事となった。
しかし視界が悪くなり、煙っぽいもの湧き出てきた…
蘭丸「こ、これは……瘴気!?」
瘴気である事に気付き慌てて脱出しようとした、しかしその瘴気はどんどん強まっていき、蘭丸に悲劇を襲いかかる。
蘭丸「なぜこんな樹海に瘴気が……しかも強くなってる……こ、これじゃ方向が分からなくなる………」
蘭丸は身体が思う様に動かせなくなり、呼吸困難となった。
目眩をする様になり、泥酔しているみたいだった。
人の気配もなく、助ける人はいないのだった…
蘭丸「ゴホッ。ゴホッ。瘴気が強い……このままだと…野垂れ死んでしまう……」
視界は瘴気で覆われていて、彼の意識は朦朧となり、あの世へ導かれてしまう……
蘭丸「あぁ………信長様………ご、ご、ごめん…なさい…………蘭は……ここで……散ります……」
バタンッ!!
気を失い、黄泉路へと引きずり込まれてしまった…
蘭丸「あ、あれ……い、生きてる……い、いや何か…違和感が…」
蘭丸は目覚めたと思いきや、異世界に吸い込まれた様な感覚だった……辺りを見渡すと荒廃した人里、周りの人は白装束の姿で決まった方向に歩いていた。
蘭丸「白装束……蘭は…死んでる?」
勿論、蘭丸も白装束の姿だった…
焦燥感が増して、理性が失うほど頭が真っ白になった。
蘭丸「あーーーーーー!!!!!」
発狂したが、この淀んだ空気は変わらない。
深呼吸して、落ち着いて白装束の人の後を追っていった。
周りの人は無表情で、魂が抜けている様に見えた。
蘭丸「あ、あの、あなた達は何処へ行かれるのですか?」
白装束の人「……………」
話を聞く素振りもなく、まるで耳が聴こえないかの様な態度だった。蘭丸は白装束の人々と同行して、向かう先まで付けて行った。
すると目の前に壮大な河が流れていた。白装束の人が舟に乗り対岸へ向かう姿を見て、蘭丸は愕然とした…
蘭丸「三途の川だ、これを渡ると冥界へ辿ってしまうということですか………蘭は信長様に会いたいです!ここで死ぬ訳には行きません。」
三途の川だと気付き、あの世に行く事を拒み、目を覚ます方法を探ったのだ。上流へ登っていけば何か手掛かりがあるかもしれない…もしかすると源流という所に辿り着くかもしれない。
蘭丸「あ、あれ?身体が思う様に動けない!?」
気配はあるが、姿形は見えない者に引っ張られ、三途の川から遠ざかっていた。
蘭丸「あー。ちょっと……な、何かに取り憑かれている!?」
そして彼は意識を失い、この異世界から放り出されたのだった…
暫くしてから…
蘭丸は目を覚ました。しかし辺りを見渡すと未踏の森だった。鬱蒼とした木々、月夜に照らされ見上げた先は無数の星が舞っているように見えた。
蘭丸「姫君は今頃、何をなされているのか……信長様が恋しいです…」
すると笛の音色が微かに聴こえてきて、樹木の脇で人影らしき者が見えてきた。
??「影……推参…」
蘭丸「あ、貴方は?」
半蔵「服部半蔵……漆黒を好む忍びだ。」
蘭丸「半蔵殿!?ご無沙汰しております。」
半蔵「久。」
蘭丸は半蔵との再会にホッとしました。
半蔵は喜怒哀楽がハッキリしないので、何を考えているのか分からないが、この方に助けられた気がする。
蘭丸「半蔵殿はいつからいらしたのでしょうか?」
半蔵「お主が倒れた直後からだ。瘴気が強いから移動させた。」
蘭丸「ありがとうございます!!ホントに助かります!!」
半蔵「良し。ならば去れ。」
蘭丸「わ、分かりました。ところでここは何処ですか?」
半蔵「伊賀の麓…」
蘭丸「伊賀ですか!?忍びに相応しい所ですね!」
半蔵「うむ。」
半蔵はそのまま消えていった、再会したのは嬉しいが、その反面いずれかは敵として闘うかもしれない…という不安も残っていた。
蘭丸は哀しい気持ちになり、涙腺から雫が溢れ出そうになった。
蘭丸「もう帰還しよう。遅くなっては信長様に迷惑を掛けてしまう…夜明けまでには間に合うかな…」
蘭丸は安土城へ帰還して行ったのだった…
災難続きで命拾いした一日で、二度とこんな経験はしたくない。それでも伊賀から見る夜空は綺麗に澄んでいた。