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やさいクエスト(第二回)

 Ⅱ.第一章 希望をはこぶものたち(1)

 夢を見ていた。
 何かが、そう『何か』が自分の手のなかで光り輝く夢。
 それが何であるのか、どうして自分が持っているのか、そのあとどうなるのかも、わからない。ただ自分の持つ何かが、輝きを放つ。
 このところ毎日のように見る夢を、今また見ていた。だんだんと強く大きくなっていく光で周りが満たされ、すべてが光に満たされたところで、いつも目が覚める。その時を見計らったかのように。
 この夢の始まりも終わりも、いつも同じだった。
「おいキャベツ、もうすぐ試合が始まるぜ。起きろ」
 不意に声をかけられ――やはりいつもと同じ場面で目を覚ますことになった夢の主キャベツは、寝ぼけまなこで辺りをうかがった。見慣れた我が家とはどうも様子が違う。
「試合……試合。そうか、僕はお城に来ていたんだっけ」
「フッ。御前試合の直前に昼寝とは、余裕だな」
「昨日は気持ちが高ぶっていて、なかなか寝付けなくてね。つい……」
 今日この日、お城では武闘大会が開催されていた。
 戦士キャベツは順調に勝ち進み、残すは決勝戦のみ。準決勝と決勝のあいだに設けられた休憩の時間、キャベツは居眠りをしてしまったようだ。
「しかしジャガイモ、君が来たということは」
「ああ。キミの次の相手はこのオレ、つまり決勝はオレたち二人の戦いになるわけだ」
 キャベツとジャガイモ、両者はよき友人であり、またライバルでもあった。これまでにも幾度となく競いあい、切磋琢磨して剣の腕を磨きあってきた、そんな仲だ。ただ。
「今日こそは勝たせてもらうぞ、ジャガイモ」
「そうはいかない。特にこの試合だけは、絶対に負けるわけには」
 これまで何度となくジャガイモに戦いを挑んできたキャベツだったが、ほとんどの場合、勝つのはジャガイモの方だった。
 実力の差はわずかだ。それはキャベツにも、おそらくジャガイモにもわかっている。キャベツはいつも惜しいところで勝利をさらわれてしまうのだ。紙一重の差がどうしても埋まらない。
 対戦成績では圧倒的にジャガイモが有利だ。とはいえキャベツが勝つことも、もちろん有りうる。戦士として、優勝に憧れないわけではない。
 しかし今日のジャガイモの気勢は並々ならぬものだった。無二の友であるキャベツも、ジャガイモがこの試合に力を注ぐ理由はよく理解している。
 ああは言ってみたものの、今回ばかりは確実に友人に花を持たせるべきか――キャベツはふと、そんなことを考えた。
「おっと、キャベツよ。ひとつ言っておくが……」
「わかっている。手加減は無用、だろう?」
「その通りだ。まったくお前はすぐ顔に出る。オレとキミの仲だ、どっちが勝っても恨みっこなしだぜ」
 考えるだけ、野暮だったか――。
 キャベツとジャガイモは固い握手を交わすと、決戦の舞台へと歩み出た。

 烈しい戦いだった。
 両者一歩も退かず息もつかせぬ剣戟が幾度となく繰り返され、声を上げて応援していた観客たちもやがては静まり、勝敗の行方を固唾を飲んで見守っていた。
 闘技場には剣を打ち合う音だけが響く。ジャガイモの流麗な剣捌きを、力の十分に乗った斬撃で押し返すキャベツ。事態が膠着するかと思われたとき、先に距離を取ったのはジャガイモだった。
「そろそろ決着をつけようぜ」
 もう互いに息が荒い。キャベツもまた、潮時だと踏んでいた。
「ああ。こうして構えるのは何度目だろう」
 得意の構えから最後の一撃を繰り出す、二人の戦いにおける作法のようなものだった。いつからそうなったかはもはや覚えていない。
「はああああッ!!」
「うおおおおッ!!」
 裂帛の気合い。両者同時に地を蹴り、剣と剣が瞬刻重なり合う。ひときわ硬い音が張り詰めた空気を割いた刹那に二振りのつるぎの片方が宙を舞い、固すぎず柔らかすぎず水はけのよい良質の土にその刃がぐさりと突き刺さった。
 その場にがくりと膝をついたのは――キャベツ。
「勝者、ジャガイモ!」
 ピーマンに代ってその職に就いたズッキーニ大臣が、ジャガイモの手をとって高く掲げる。
 観客たちはまず、どよめきをもって勝者を見つめた。どちらが勝ってもおかしくない、それほど実力伯仲の戦いだったのだ。
「フッ。勝利の女神はオレに味方したようだ」
「君の方が一枚上手だった、それだけさ」
 ジャガイモが手を差し伸べ、キャベツがそれに応える。
「ではこれより勝者ジャガイモに王のお言葉が与えられる。しかと聞くがよい」
 二人が息を整えたところで、改めて王の御前へと促されるジャガイモ。ジャガイモはこれから、この闘技大会の真の目的でもある大命を仰せつかるのだ。
 キャベツは敗者として潔く、かつさりげなくその場を離れるつもりでいた。足取りは重いが、こればかりは仕方がない。
「……待ってくれキャベツ。少しばかり、キミも残ってくれないか」

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神月裕
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