MCU「ロキ」シーズン1 - 感想

日記です。感想です。


▽はじめに

〇MCUとは~ロキを説明するということは

一応、マーベル映画を知らない人向けに簡単なあらましを書いておこうと思った。
書くことで改めてわかったのは、ユニバースものの説明よりも、ロキというキャラクターの現状はとてつもなく複雑でややこしい人物であること。
ロキを全く知らない人に、しっかり紹介するつもりで思い返して、彼の性格以上に複雑なバックボーンを再認識してみてほしい。なんなら、自分で書き起こしてみてほしい。きっと、より立体的な面白さを味わえると思う。

説明するのに複雑すぎて長文になってしまったので、ここでは簡易版にしておく。
説明の詳細版はコチラ

以下、作品紹介文。
2021年6月よりディズニープラスで独占配信された、マーベル・スタジオによる全6話のドラマ。
今作の主人公であるロキは、今まで私たちが見てきた映画のロキとは(ある意味)別人である。彼が死ぬ前、『もしも違う人生を歩んでいたら?』という違う選択をした”もしも”のロキを描いた物語なので、今までの”ロキ”とは同じようで違う人物ということになる。
「エンドゲーム」で別の人生を歩んだロキだが、ドラマの製作によりこの展開に収集を付けられることが明らかになった。
ということで、半分ぐらいは、シリーズ鑑賞済みの私たちが知っているロキではあるが、ほとんど新しいキャラクターと言ってもいいぐらい、このドラマは全く新しいストーリーが描かれている。

〇あらすじ

悪戯の神ことロキはアベンジャーズに捕らえられていたところを逃げ出すが、TVA=時間取締局なる組織に捕まり、運命通りに行動しなかった罪で”剪定”を言い渡される。協力すれば猶予を与えると告げられるが、組織が追っていたのはもう一人の”ロキ”だった・・・。
奇妙な時空旅行を経て、ロキがこれまでの道のりと自己を振り返る。その先に思い起こされる感情とは何だったのか。

〇作品情報

監督:ケイト・ヘロン
筆頭脚本:マイケル・ウォルドロン
共同脚本:ビジャ・K・アリ、エリッサ・カラシック、エリック・マーティン、トム・カウフマン
製作総指揮:ケヴィン・ファイギ、ルイス・デスポジート、ビクトリア・アロンソ、スティーヴン・ブルサード、ケイト・ヘロン、マイケル・ウォルドロン、トム・ヒドルストン
共同製作総指:ケヴィン・ライト、トレバー・ウォーターソン

プロダクション・デザイナー:カスラ・ファラハニ
衣装デザイナー:クリスティーン・ワダ
舞台装置:クラウディア・ボンフェ

主演:トム・ヒドルストン
共演:オーウェン・ウィルソン、ソフィア・ディ・マルティーノ、ググ・バサ=ロー、ウンミ・モサク、ジョナサン・メジャース


▽理不尽な判決

悪戯の神、裏切り王子、トリックスター。様々な呼び名で愛され、予測不能な行動で見る者を惹きつけてきた、ロキという男を主人公に据えたこのドラマ。さぞおかしくもエキサイティングな展開になると想像した大方の予想を裏切り、ドラマはまさかのSF青春物語となっていった。

のらりくらりと生きてきた男の一大決心。それはアスガルドでの成り上がりだった。しかしそれは失敗に終わり、その後も兄への当てつけのように地球征服に取り掛かるも、またしても悲願を成就させる事は出来なかった。そんな彼が逃げた先に待ち受ける運命は、これまでの人生のしっぺ返しのようだった。進むべき道から外れた罪で、この世から抹消すると宣告される。計画通りに行動しなかったと、本人の意思を真っ向から否定され、存在自体すら否定されてしまう。ヨトゥンヘイムでの生まれ持った権利も、玉座を目指す願いも、せめてものあがきも、これまで何かと否定されてきたロキだったが、ここまで理不尽な判決はかつてないものだった。

▽ソウルメイトとの出会い

窮地に立たされた彼に救いの手を差し伸べたのは、メビウスという男。予想外にもロキのファンだという彼は、利害関係を踏まえた上で助けたものの、実のところこれまでユニークな悪戯をしてきたロキへの興味が勝って、判決を覆したようであった。映画を見てきた私達同様、ロキの人生を知った上で近づこうとするその無邪気さに親しみが湧く。ドラマのパンフレットには、事件の手がかりを集め調査する『探偵のよう』だと記載されているが、どこか真実を見通しているような、落ち着いた眼差しはまさに探偵のようで、信頼できる気がしてくる。そう感じたのはロキも同じようで、何度裏切っても結局は信頼してくれるメビウスのことをロキの方も信じられるようになって、いつしかお互いを尊重し、鼓舞し合うような関係に発展していく。問題を抱える人物を、何が起こっても繋がりを保とうとする優しさ。それと同時に、家族とは違って、利害の一致を踏まえた協力関係である打算的なところもあるのが、これまでのロキの人生には居なかったタイプだと思えるし、だからこそ友達になれたのだと思う。やっと見つけた友達。

パンフレットによると2人の相性の良さは、演じるトム・ヒドルストンとオーウェン・ウィルソンの実際の関係性による部分もあるという。撮影中、オーウェンと10分間、詩を読んでからセットに戻ったり、舞台版ハムレットの経験談を交えるなど、仲の良さが伺えるエピソードが紹介されていて、とても良かった。詩を読んだ後は「どこかエネルギーのあるシーンになる」らしい。
中でもひと際惹かれる話があった。ある日の撮影中、とても寒い夜だったのでトムは撮影の合間、体を温める為に近くの坂を走っていた。すると、気づいたらオーウェンが無言で一緒に走っていたとのこと。オーウェン曰く「(略)楽しそうだなと思うような感じ」で、自然とそうしたらしい。トムはそれを聞いて、「彼の心を捕まえたと思ったのは、その時です。がっちりとね。夜中の2時に僕らは何も言わないで、ひたすら坂を上ったり下りたりしていたんですよ!」と。めっっっちゃ素敵な良い話。このコラムの終わりは、「2人の絆は、演じるキャラクターにもすぐに伝わるほど強いものだった。」と締められている。役者同士のコミュニケーションが反映されていれば、"バディもの"の映画やドラマはより味わい深くなるのかもしれない。今作の2人にも、どこか相性の良い雰囲気や距離感が、画面を超えて伝わる感覚があった。

▽”同じ”じゃない2人

ソウルメイト以上に大きな存在となるキャラクターも登場した。シルヴィと名乗る彼女は、本来の道とは違う人生を歩んだもの=変異体の、女性版ロキである。幼少時に”剪定”され、憎しみを増長させながら一人で時空を彷徨い生き延びてきた、復讐だけが希望となったバージョンの”ロキ”。時間を混乱させている彼女を捕まえる為にメビウスは、目には目を、ロキにはロキをという事でロキを捜査に協力させていた。
ロキがそう簡単に従う筈もなく、一人で勝手にシルヴィを追いかけてしまい、2人は共に逃亡することになる。理不尽な判決に抗うという共通の目的があったが、それ以前に同じ”ロキ”であるから、お互いをすぐに理解し合っていく。滅亡寸前の惑星で遠慮なく本心で語り合った結果、他の誰よりも距離を縮めて近づいていく。
TVAに捕まり離れ離れになり、メビウスに本心を見抜かれるも、それらが背中を押したのか、シルヴィに対して愛情を伝えようとするロキ。剪定により告白を邪魔されてしまうが、それでも再び会うことが出来た2人は今度こそ復讐を遂げる為、最後の砦へ足を踏み入れる。
最後に待ち受けていたのは、想像を超えた力を持つ男による”提案”だった。この世を正しく導く”より大きな目的”の為、その男の仕事を引き継いでほしいというものだったが、その”より大きな目的”の為にロキもシルヴィも理不尽な目に遭わされてきた。憎しみを希望に生きてきたシルヴィは復讐を望むが、ロキはそれが最善だとは思えなかった。激しく争った末に互いの想いを確かめ合う。が、シルヴィは復讐を捨てることは無かった。

TVA本部に突き戻されたロキは、座り込んで考える。”これほど運命的な出会いはない”、と信じていたが、2人は”同じ”じゃなかった。やりたい事は同じじゃない、考えている事も同じじゃない。それでも相手を尊重することこそが本当に理解してあげることだが、ロキはそれが出来なかった。
しかしそれは成長の為の一歩で、宇宙の神様だろうが時空を超えた世界の真実だとかとは別の、普遍的な出来事だ。彼がその後も本当に成長し、彼女を尊重できるかは次のシーズンまでわからないが、少なくとも”同じじゃない”こと、自分とは”違う”ことを、知ることが出来た筈だ。
(そうであってほしいが、シルヴィの復讐した相手が実は機械の人形で、空虚なものだった、というタイミングで告白しようとしたと考えると、少し自分勝手過ぎないかと不安になってきた)

最終的にルールを守ろうとする。でもそれが上手くいかないのがロキらしくもある。
内面的な話を、世界を巻き込んで展開していくのは所謂”セカイ系”と構造が似ているが、主人公たちが住む世界は平凡な地球ではなく、時空を超えた場所であり、ロキ自身も一般人ではなく宇宙の神様なので、突飛な展開でも主人公がそれを成し得る説得力がある。

▽美術デザインによる説得力と舞台裏

内面のドラマ以外にも、このドラマには魅力が沢山ある。まず舞台や衣装など、美術の面だ。
時間取締局=TVAの本部は60年代映画のようで、パンフレット記載のインタビューによると、それほどCGには頼っておらず、ほとんどが実際に作られたセットでの撮影とのこと。時空を超えた世界の建物の中が、政府庁舎のような平凡な風景なのも、意図的な意匠らしい。受付の真ん中にある大きな丸いデスクは、お役所的な雰囲気と、どのドアから入って来たのかわからなくなるような不条理さ、混乱する感じを伝えることが求めれて、あの場所が生まれたとのこと。冷戦時代の東ヨーロッパの建築様式からのインスピレーションもあったとのことで、労働集約型であり、”より大きな存在のために個人の権利をはく奪する”ということ、らしい(ロキも身ぐるみ剝がされますよね!笑)。タイムキーパーなどのポスターは息苦しさを演出しているという。
そういうこだわりが説得力を生んで、スムーズに見る事が出来たのかもしれない。面白おかしいだけでなく監視されているのが無意識の内に伝わる。

ハンターB-15のネクタイはパンフレットを読んで初めて気づいたし、在り続ける者の衣装は確かにとても目を引くもので、印象に残っていた。

パンフレットでいえば、他にも気になる舞台裏が書かれていた。監督のケイト・ヘロンはドラマが作られることを聞いて、自分を売り込んで採用されたとのことだったが、採用直後は「本格的な企画書は作らないように」と言われていたそう。ということはやっぱり当初は、D.Bクーパー事件のような歴史上の出来事に干渉する、ドタバタ喜劇の方向だったのではないかと思った。本当のところはわからないが、言われたことを無視して本格的な企画書を作ったヘロン監督のおかげで、ロキの青春ドラマを見ることが出来たので結果オーライだと思う(笑)

「エピソード毎に雰囲気を変える」という意図も、ドラマならではで良い。

何も知らない世界に放り込まれるという状況が、鑑賞者と同じ視点になって共感できるし、それによりドラマの進行もやりやすくなっている。これも上手い。

▽未解決事件のように

失敗し続けた男に訪れた"もう一つの青春"を経て、駄目な自分を引き連れて行きながらアイデンティティを確立していく、再起の物語。
それがMCUというドSFの世界観で描かれる。見た事ない世界、60年代のようなシックで閉鎖的、それでいて、いつでもどこにでも行ける自由なシステム。
大事な友達を見つけて、成長するほど好きになった相手と出会い、別れる。これほど普遍的な青春ドラマである今作が、時空を超えて大きな存在を相手にするという展開と並行して描かれる、これほど”奇妙な同居”が成立しているドラマはそうそうない。
未解決事件のように、どこが面白かったのか書き起こしてみても、まだこのドラマの魅力を十分理解できていない気がする。これほど楽しむ余地があるなんて、とても素晴らしい作品だと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?