7/21-8/4 子うさぎのジレンマ
7月21日(日)
母と津村記久子さんの講演会へ。
お会いするのはこれで三度目になるのだけども、毎回「神は人の形をしている……」と思う。「すいません、お願いしますー」で始まり、「すいません、ありがとうございました」で終わったのが津村さんらしくて笑ってしまった。ラブです。
こんなにおもしろい講演は生まれてはじめてだったかもとすら思う。谷崎潤一郎記念館主催の会だったので『細雪』の話に始まり、本屋大賞2位に輝いた『水車小屋のネネ』制作秘話や小説を書くときのスタイルなど、盛りだくさんであっというまの1時間半だった。あまりにおもしろいので前のめりで興奮してしまい、終了後は全身が汗ばむ有様だった。
「親ガチャとか、育った環境の影響は絶対に少なからずあるけれども、それでも自分でなんとかできることもあるんです。絶対にあるんです。それを音楽や文学が私に教えてくれた」と仰っていたところで不可抗力の涙がこみあげた。津村さんがずっと書いてきたことと同じやなと思ったのだった。
特に前職のとき、どれだけ津村さんの小説に人生を救われてきたか知れない。『ワーカーズ・ダイジェスト』は人生ベストに必ず入る。好きなシーンやセリフが多すぎるのでそれだけで記事を書きたいくらい。
今のわたしは彼ら彼女らに恥じない働き方をできているだろうか、と言いつつ、自分ではわかっている。
7月22日(月)
氷結のCMにレミオロメンの「南風」が使われている。
はじめて目にしたのはJR大阪駅。どこかから南風が聞こえる気がする……でもそんなはず……ときょろきょろしていたら、頭上の大液晶でCMが流れていた。もう20年近くも前の曲なのに、よくぞ掘り起こされておいでで!
本当に好きな曲なのだった。そもそもこのアルバムが好き。復活したらライブに行きたいのだけども。
7月24日(水)
名字のエッセイがバズって上司から指摘される夢を見た。
ばれたってかまわない、むしろちょっと誇らしいみたいな気持ちで目覚め、うわーっ夢かよ!と項垂れた。ここだけの話じつは結構手応えがあったのに、全然伸びる気配がない。そんなもんやんなー。でも何人かの方から力強い共感のコメントをもらえたのはすごくうれしかった。
ねむい、がんばれ、がんばれ、と思いながら働く。
夜、寝室で2時間ほどうたたね。
覚醒後に起きあがろうとした、というか起き上がったつもりだったのに体はまったく動いていなくて、目を開けたつもりなのに何も見えなくて、金縛りみたいな感覚に陥った。3度目のチャレンジでようやく体を起こすことに成功。
ぼんやりしたままシャワー浴びていると右目にシャンプーを入れ込んでしまい、激痛が走った。ちょっと、嘘みたいに痛い。身体を洗うのもそこそこに浴室を飛び出し、とにかくコンタクトを外さなければと焦ってやや無理に外すと、ぺりっと剥がれた感覚があってまたも激痛。そのあともしばらく地獄のような痛みがつづき、こんなに目が痛いのは生まれてはじめてで怖かった。調べると「失明の可能性も」とか書いてあって大いにびびる。
ひたすら流水で目を洗い、角膜保護成分の入った目薬をさして目を閉じる。ましになりつつはあるものの、就寝時もまだ痛い。
7月25日(木)
まだ目が痛くて、昼休憩に眼科を受診。無理にコンタクトを外したせいで角膜に傷がついており、そっちは大したことなさそうだったのだが、瞼をめくった裏が真っ赤に腫れあがっていた。シャンプーの成分による炎症だという。ほら、と炎症部がアップになった画面を見せられたが、そんなんこわくて直視できるわけないやろう。目を細めて雰囲気で「ほんとですねー」と言う。
3種類の目薬を1日4回、1週間さし続けることになった。シャンプーが目に入って受診って何……と、己の阿保さ加減にがっくりする。
7月27日(土)
ついに、子うさぎをお迎えする日。
そわそわと午前中に家を出て、ドライブスルーで買ったマクドナルドを食べながらお店へ向かう。
わたしたちが購入を決めたのは、ペットショップではなくうさぎ専門店。契約時もお店のうさぎが常に足元をかけ回っていて、癒されることこのうえなかった。
1時間余りていねいな説明を聞いたのち、ついにお迎えする子うさぎと対面。や、やっぱりかわいい〜〜!はじめて会った時よりもちょっと大きくなったんやね。ようやく500gを超えたばかりとのこと。
夜は友人たちと会う。
グランフロントのレストランでおいしいものを食べ、誕生日のお祝いまでしてもらった。ずっと欲しがっていたクレドポーボーテの下地と、外回り暑いよね、とSHIROのひんやりするローションをいただく。大学時代から通算10回、お祝いしてもらえるだけでもうれしいのに、的確すぎる贈り物まで選んでくれて本当にありがたい。
しかも家に帰ったら子うさぎがいる……!
こんなにうれしいことってあるんですね。深夜まで戯れる。
7月28日(日)
9時半ごろ起きて、子うさぎを眺め、また昼ごろまで寝て、子うさぎを眺めながらごはんを食べたりドラマを観たり本を読んだりし、ソファで眠ったら夕方。一日が一瞬で溶けた。
7月29日(月)
また丸亀の野菜かき揚げを食べてしまった。「やや〜かなり」の幅はあれど、食べると必ず気持ち悪くなるので控えるようにしているのだけども、定期的につい食べてしまう。
「ものすごくおいしい」と感じるわけではない、とわかっている。なのに、カウンターに並ぶ天ぷらの中でもひときわ存在感を放つボリュームを目の当たりにすると、これで180円はお得なのでは?と心が揺れる。つい手が伸びる。とにかくでかいので箸で割るのに苦労する。その頃にはすでに少し後悔していて、脂っこいな、多いな、と思いながらなんとか食べきると、十中八九、胸焼けしている。ばかっ!
今日の場合は時差があって、直後はまあまあ、という感じだったのに、帰路の電車でだんだん気持ち悪くなってきた。本を読んでもスマホを見ても悪化しそうなので、ひさしぶりにただ車窓をながめる。オレンジの夕日がきれいだった。
aikoの「ウミウサギ」をいつもの倍くらいの音量で聴く。何百回と聴いてきたはずなのに、これまで気づかなかったベースラインのうつくしさにはっとした。
これも野菜かき揚げの功名と思いたい。いつもは虚無でSNSをながめているか、焦点の合わない目で一点を見つめているかのいずれかなので……。
7月30日(火)
友人がくれたSHIROのアイスミントボディローションをちいさな容器に詰め替え、仕事用のリュックに入れた。
汗だくになった駅のホームでさっそく使ってみる。思いのほかさらりとした水に近いテクスチャー。こぼれ落ちそうになるのをあわててせき止めて首筋に塗る。強烈な既視感。なんやっけ、と思いながら電車に乗って思い出した。シーブリーズだ……!
中高生のときみんな使っていた。わたしはオレンジ(石けんの香り)だったな。夏場、かばんの中でこぼれて大騒ぎしている子が毎日ひとりはいた気がする。
冷房の効いたところで発揮する清涼感たるや、シーブリーズの超超上位互換という感じだった。
〜そして終業後〜
うだるような暑さの駅のホームで電車を待っていた。
電車が来るまであと10分もある。息ができないような熱気と湿度にうんざりしながら、ふとローションのことを思い出した。とはいえ風もないしこんなに暑いとね……と思いながら首筋に塗ってみると、びびった、数秒後には一気に冷えていた。なんなら首だけ寒いくらい。すごすぎないか。
夜、床に這いつくばって子うさぎを眺めながら寝落ち。4時間近く眠ってしまい、さすがに身体が痛かった。
7月31日(水)
細雪を読みながら寝落ち。
津村さんの講演時に購入してから読み進めていて、実におもしろいのだけども、何度も読みながら寝落ちしている。良い意味で(今のところ)大きな起伏がないので、お金持ちの四姉妹が送る優美な生活を覗き見させてもらいながら、気が向いたらつい眠気に身を任せてしまうのだった。いま中巻にさしかかったところ。
請われるままに見合いばかりして、一向に自分の意思らしきものを見せない三女・雪子の生き様に対して、津村さんが「人生に対して消極的であることもその人の選択肢」と仰っていたことを思い出す。はっとさせられた。積極的でいなければ、何か悪いことをしているような気持ちになってしまうのはなぜ。
8月1日(木)
良くしていただいている書店員さんと食事。結婚祝いにと大きな花束と食器をいただいてしまい、恐縮する。なぜこんなに良くしてくださるのか……。感謝。ノンアルコールで3時間ほどしゃべり通す。
8月2日(金)
ひさしぶりに自分比調子良く働く。毎日こうであってくれ。
早めに切り上げてまつげパーマにかけ込み、スシローでごはんを食べたのち、スタバに寄ってももフラペチーノ。浮かれた金曜日。
8月3日(土)
昨夜はやく寝たので9時過ぎに目が覚めた。起きたらかわいい子うさぎがいる!毎日うれしい。
パンがなかったので朝マックしちゃう?となり、マックデリバリーを頼んだ。配送料300円のみで届けてもらえるのだが、ホットケーキセット×2を頼むと(+カフェラテへ変更)合計金額が2,000円近くなり、そんなにするっけ!?とびびる。
とはいえ、涼しいお部屋で待っているだけでおいしいホットケーキが届いてありがたかった。休日の幕開け感。
神戸BALで友人への贈り物を選び、急遽予約した美容院へ。どうもまとまりが悪くて日々ストレスだったので、カラーとトリートメント、前髪カット。心持ち明るめ・透明感・赤ピンクっぽい雰囲気でお願いする。
髪はとぅるとぅる、カラーは理想通り、視界も良好になり大満足。期間限定のキャンペーンでサロン専売のシャンプー現品もいただけてお得な気分!美容にお金をかけるたび、わたしは働いていることの意味を強く感じる。
夜、地元に戻って先輩と友人と食事。
妊娠中の友人のおなかを触らせてもらう。彼女が12歳の時から知っているのでとても不思議な気持ち。子育てする彼女は容易に想像できるが、妊娠中となるとまた話が変わってくるのだった。
おなかの中に人間がいるってどんな感じ……?などこわごわと訊く。どうかこれからも健やかであるように。
夜は実家泊。父と一緒になんとなくオリンピックの柔道を見はじめ、目が離せなくなった。スポーツ観戦には興味がないと言いつづけているのだが、素人目にもわかる緊迫した試合だった。
8月4日(日)
家族総出(父母弟)で我が家に子うさぎを見にくる。実家でも12年ほどうさぎを飼っていたのもあり、みんなたちまちめろめろになっていた。
その頃わたしはというと、正直なところ、優越感でいっぱいであった。その子はうちの子です、いいでしょう。かわいいでしょう。
夫は不在だったのだが、出発前にスリッパやらお茶やらお菓子やらをすべて準備し、部屋中ぴかぴかにしてくれていて最高だった。
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子うさぎが来てからというもの、あんまりかわいいのでつい構ってしまい、本を読んだりドラマを見たり文章を書いたりする時間がめっきり減った。正直ジレンマを感じることもあるのだけども、そのすべてを凌駕するいとしさ、幸せ、よろこびに日々が満ちあふれている。
うちにやってきてくれて本当にありがとう。名前はういちゃんです。
ういちゃんのいる生活があんまりにも幸せで、このあいだ帰路でふと「自分の人生にこれ以上必要なものなんて何もない」とすら思ってしまいました。