試合弁当は肉巻きおにぎり
中学生はバスケットボール部
うちの中学生は、背は大きい方ではなく、闘争心は私の子と思えないほどかけらもなく、心優しい。
彼が生まれて2日目に、産院の小児外科のドクターに呼ばれて、息子さんは先天性の内反足ですね、と言われた。見ると、左足だけ不自然に内側に足が向いている。運良く、ドクターが専門医を紹介してくれて、1ヶ月検診を待たずに大学病院でギブスをつくり定期通院し、毎朝毎晩教えられたマッサージと運動をくりかえした。3歳になる直前、「もう通院しなくても大丈夫でしょう。おそらく不自由なく運動もできますよ」と先生が言ってくれて、とてもうれしくて、帰り道に二人で手を繋いで、やったね、やったね、とスキップしたことを覚えている。
彼の左足は一見では気づかない程度に、ほんの少し指がおかしな方向をむいているものの、運動することには何の支障もなく、彼自身もそうしていろんな人に救われた記憶など全くなく、毎日勉強する間も惜しむように部員のみんなと夢中でバスケを楽しんでいる。私はその姿を見て、幸運だった出会いとドクターたちに心から感謝する。
「軽食」弁当は何にしよう?
上の子たちはテニス部で、大会の時は一日中、何試合もあった。試合時間も、あっという間に終わることもあれば恐ろしく長引くこともあった。それに比べてバスケは試合数が極端に少なくて、試合時間も決まっている。そうなると、当然試合の時のお弁当の量も全然違う。だからバスケの試合のときは、お弁当というよりもむしろ「軽食」という方が近い量で十分というわけだ。
アドレナリンが出ている間は、お腹が空いたことに気づかないから(ジョギングし終わったばかりのときの私がそうだというだけなんだけど)、まとめてドカンと食べるより、一口サイズのほうが、好きな量調整しながら食べやすい。
そもそも、体育館の端っこやギャラリーの狭い通路に座り込んで食べるってことは、大々的にお弁当を広げるスペースもないわけだ。
遠い遠い記憶のかなた、私がバレーボール部だったときも、確かそうだった。
(タンパク質+炭水化物)×一口サイズ×好物=?
私は栄養学を専門的に勉強していない。だから、試合の後なら、筋肉細胞を修復させるタンパク質、疲れているからエネルギーを回復するために炭水化物もあるといいだろう、ぐらいのふわっと感で考えている。
試合の合間、もしくは試合が終わり解散するまでのさほど時間がない中で食べるお弁当は、なにがいいだろう。そんな時までちゃんと野菜を食べようね、なんてヤボなことは言わない。
タンパク質といえば、肉。
炭水化物といえば、米。
食べやすいといえば、おにぎり。
そして我が家の中学生が好きなもの。
そうだ、肉巻きおにぎり。
と、いともたやすく「試合の時の軽食弁当」は決まった。肉巻きおにぎりは、夫が子どもの頃に自分の父親に(私が結婚した時はすでに他界しだいぶ経っていたので、私自身は会ったことがない)何度か作ってもらったことがあり、当時はそれを気に入って「ゴジラの卵」と呼んでいた、と以前聞いたことがある。肉巻きおにぎりは、いつの時代も育ち盛りを大いに刺激するらしい。
マイナーチェンジは続く
そういうわけで、肉巻きおにぎりを作る回数が格段に増えた。
それなりに作り慣れていると思っていたが、大間違い。作る頻度が上がれば上がるほど、いろいろと見直す点が増える。
最初は、俵形にごはんを成形し、十字に薄切り肉を広げて全方位包み込むやり方だった。ごはんをお肉で完全に包む理由は、ごはんがお肉から出ていると味付けでタレをからめるときに汁気を吸って崩れやすくなるからだ。そうして包んだものをフライパンで焼き、醤油やみりんで味付けしてタレをからめて完成。これが一番作り慣れた方法だった。
もう少し手間をかけずに、一度にたくさん作れないかなと考えてやってみたのは、海苔巻き方式だ。まずは巻きすにラップを敷き、その上にご飯を乗せ、ご飯を筒状にする。それを今度は、数枚並べた薄切り肉で、海苔巻きのように巻く。
細長い海苔巻き状になった肉巻きをフライパンで焼き、味付けして、一口サイズに切る。悪くはないが、よくもない。
ごはんを巻きすで巻く、ここの部分で手間が減っている気がしない。お肉で巻く時もごはんだけだとちょっと強度が足りない。適当なサイズに俵形に成形した方が、お肉も巻きやすい。よって不採用。
ご飯をお肉で完全に包み込まなくてよければ、もう少し手軽だ。でも型崩れのリスクがある。それが起きるのは、フライパンで全面を焼いたりタレをからめたりして、肉巻きを動かすことが原因だ。じゃあ、動かさなければいいわけだ。
というわけで、今はオーブンまたはトースターで焼く、ということに落ち着いている。型崩れもしづらく、一度にたくさん作れる。焼いている間、他のこともできる。
その他にも、ごはんが酢飯になったり、お肉を全方位でなくただ一方向にくるくる巻くだけになったり、タレをからめやすくするために肉を巻いた後に薄力粉をまぶしてから焼肉のタレをからめるようにしたり、肉の種類をかえてみたりと、小さな改良は続いている。
そしてそんなことを、食べている中学生本人は全く知らない。知る由もないだろう。それぐらいがちょうどいい。このマイナーチェンジは、私の個人的な探究心にのみ、突き動かされているんだから。
肉巻きおにぎりのつくりかた
<材料>はとてもシンプル。
炊き立てごはん
市販のすし酢
お好きな薄切り肉
市販の焼肉ダレ
塩、コショウ、薄力粉
・使うお肉は、冷めても脂の白浮きが少ないロースかモモがおすすめです。
(動画を撮った日は、当日の朝にお弁当だということがわかり、豚バラしかなかったので豚バラに。焼いてすぐ食べるなら、ジューシーな豚バラはとてもおいしいです)
・焼き上がったら、金網にとって冷ますのがポイント。そうすることで、上下から蒸気を逃して冷めやすくなるだけでなく、余分な脂も落とせます。
・熱いうちに切ってしまうと型崩れしやすいので、食べやすい大きさに切りたい時は完全に冷めてから。包丁は、ごはんの粘り気を濡れたキッチンペーパーで拭きとりながら切ります。海苔巻きを切るときと、同じ要領です。