国内旅行者数はいまだコロナ前まで回復せず~海外旅行も渡航・滞在費用の高騰で弱含み~
明治安田総合研究所 経済調査部のエコノミストである木村彩月氏から、調査レポートが届きました。
ポイント
・観光・レクリエーションを目的とした国内居住者の国内旅行消費額は過去最高額となったが、物価高に押し上げられた面が大きい。足元では、節約のため日帰り旅行にシフトする流れも
・海外旅行の延べ旅行者数は、渡航・滞在費用の高騰が重石となり低調。1泊あたりの支出額は過去平均から5~6割アップ。旅行費の値上がりが嫌忌され、海外旅行はさらに弱含む可能性も
・もっとも、日本の観光地にとっては、これまで海外旅行を好んでいた旅行者に再注目してもらうチャンスとも言える。インバウンドだけでなく、国内の観光客を呼び込む施策が求められる
1.国内延べ旅行者数はいまだコロナ前まで回復せず
観光庁の「旅行・観光消費動向調査」で国内居住者の旅行消費動向を確認すると、観光・レクリエーションを目的とした国内旅行における2023年の消費額は15兆1,045億円と、統計開始以来の最高額となりました(前年比+27.6%、 2019年比+9.6%)。
ただ、これは物価高の影響が大きくなっています。消費者物価指数 (2023 年平均)を見ると、国内宿泊旅行の消費額のうち約 1/4 を占める宿泊料が、2020年平均との比較で3割以上上昇しているほか、外食も約1割上昇しています。
国内旅行の延べ旅行者数(月次、12ヵ月移動平均)の推移を確認すると、2023年以降回復ペースが落ちており、い まだに2015~2019年の延べ旅行者数の月次平均(30,824 千人)を下回っています(図表1)。
また、国内の延べ旅行者数を宿泊、日帰り旅行別に比較すると、足元では日帰り旅行の伸びが拡大傾向となる一方、 宿泊旅行は低調な推移となっています(図表2)。 旅行費用のみならず、物価が全般的に上昇していることに伴う実質所得の減少が背景にあるとみられます。
2.海外旅行の1泊当たり支出額は約5~6割アップ
2023年の国内居住者による海外旅行の消費額は2兆878億円と、2019年(3兆6,953億円)比で▲43.5%となりました。コロナ感染症拡大に伴う入国制限の解除がGW以降であったことも影響していますが、渡航・滞在費用の高騰も重石となっています。海外旅行の1回1人当たり旅行支出は、2023年が320,917円、直近の2024年1-3月が303,744円となっており、平均宿泊数で除した1泊当たりの旅行支出はそ れぞれ60,550円、65,462円と、2015年~2019年平均費用 (40,433円)から5~6割程度増加しています(図表3)。旅行先として人気のある国の多くが日本を大きく上回る物価高に見舞われるなか、円安も進行していることで円建ての旅行費用は高騰を続けています。
そうした中、2024年1-3月の海外への延べ旅行者数は2,454千人と、2019年同期(3,809千人)比で▲35.6% の大幅減となりました。すでに世界各国で入国や移動制限が始まっていた2020年同期(2,494千人)も小幅に下回ってい ます(図表4)。法務省出入国在留管理庁の公表データによれば、2024年6月の出国日本人数(速報値)は93.0万人と、 前年同月比では+32.3%となったものの、2019年比では▲38.8%と、コロナ前を4割程度下回る推移が続いており、 海外渡航者数は足元でも伸び悩んでいます(図表5)。昨年の水準を上回る150円台の円安が継続していることに鑑みれば、海外旅行者数はさらに下振れする可能性も考えられます。
もっとも、日本の観光地にとっては、これまで海外旅行を好んでいた旅行者に再注目してもらうチャンスでもあります。 2023年の日本人延べ宿泊者数の都道府県別の値を確認すると、コロナ前 (2019年)の水準まで回復した都道 府県は半数以下(22都道府県)にとどまっており、地域差も大きくなっています(図表6)。物価高が懸念される中ではあるものの、旅行者の関心が国内に向いているこの機を逃さず、国内居住の観光客を呼び戻すための施策が求められるでしょう。
コラム ~一人旅のシェア拡大が続く~
観光庁の「旅行・観光消費動向調査」では、一人旅が拡大しつつある様子も確認できます。国内の宿泊旅行における同行者の内訳を見ると、「自分ひとり」と回答した割合が2018年の7.1%から、直近の2024年1-3月には9.4%と、緩やかなペースではありますが着実に上昇しています(図表7)。コロナ禍では、単独で行動する“おひとり様”のライフスタイルがいっそう広く定着しました。気兼ねなく自分のペースで旅ができる一人旅のシェアは、コロナが明けた今後も拡大していきそうです。
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