わたしらしくいることとは。
ベンランダのお花に水をあげようと思ったら
ベランダにセミが仰向けになっていて
まだ足が開いているからきっとまだ息をしていて
どうしようどうしようと
朝から「セミ ベランダ 逃す」で検索した
でもとりあえず水をあげようって
またベランダを開けたらもういなくなっていて
なんだか安心したけれど
きっとあんなに弱っていたから
もうすぐあの子は死んでしまうんだと思ったら
なんだか急に切なくなった
セミの人生はとっても短い
人間からしたら
わんちゃんだってねこちゃんだって
きっとわたしたちより先に旅立っていくんだ
そう思うと
人間ってなんて贅沢な生き物なんだろうか
わたしは今日もひんやりした家の中で
アイスコーヒーを飲んで
お腹が空いたらご飯食べて
気の向くままに生きられてるってのに
それでもこの夏の暑さに
文句ばっかり言っている
蛇口をひねれば水が出て
食べ物に困らない程度に稼げて
毎日飢えずに生きられている
それだけで幸せなんだということを
いつからか忘れてしまう
生まれたばかりの人間は
誰かが見守ってくれなきゃ
いつ死んだっておかしくない
それでも今生きているのは
一人で歩けるようになるまで
誰かがそばにいてくれたから
そんな感謝すらも時に忘れてしまう
年を取ればとるほど面倒臭いことばかり考えて
面倒臭いことに蓋をする
いっそのこと何も知らないほうが良かったのか
わたしの目がたくさんのことを見てしまったから
わたしの耳がたくさんのことを聞いてしまったから
わたしの口がたくさんのことを話してしまったから
”わたし”はそうやって身体ばかり大きくなって
心はどんどん複雑になって成長することに怖気付く
”いつも笑っていたい”
”いつも優しくありたい”
”なるべく人と争いたくない”
”悲しい思いをしたくない”
そう思うことはいけないことか
自分に対する甘えなのか
いや違う
そう生きることで
わたしらしくいられるのなら
それで良い
否定することはない
自分を否定してしまうことがなによりいけない
せっかく人間に生まれたのだから
そんなふうにわがままに生きてもいい
存分に人間を楽しまなきゃ損だろう
ただ一つ
忘れなければそれで良い
それは
”人間に生まれたこと”
”今ここで息をしていられるのは
わたし以外の誰かのおかげなのだということ”
由佳