「はじめから完璧なんか期待してはいけない」

芸能事務所に所属してから2ヶ月半が経った。
演技の才能はあると勝手に思っていた。根拠はなかったけど。
けれど、全く、そんなことはなかった。

演技の先生からの集中砲火。
「全然イメージが湧いてこない」
「感情に矛盾を感じる」
「ちゃんとキャラクターを理解してる?」
…..先生のご指摘はごもっともで、全く理解できてないしイメージも湧いてなかった。

俳優になるには、演技力があればいいっていうわけじゃなかった。演技をする前に、読解力が必要だった。むしろそれが一番大切なのかもしれない。
台本の上の言葉を追いながら、まずはコンテクストを理解する。
森を見て、それから木を見ていく。そして、言葉に引っ張られないように、セリフに振り回されないように、感情を吹き込む。

なんて、なんて難しいことなんだろう…。
読解できなかったことが本当に、悔しい。
…..悔しい!!
全然才能ないじゃんか。根拠もなく自信を持っていた自分が恥ずかしい。
こんなんなら演技から離れたいよ。

帰りは悔しさと落胆が混ざり合った感情を歌にぶつけながら自転車を漕いだ。


次の日、たまたまジブリの「耳をすませば」を見ていた。
せいじのおじいさんが雫に言った言葉が刺さった。
「はじめから完璧なんか期待してはいけない。」

ああ、そうか、私はいつの間にか完璧を期待してたのか。
まだ踏み出したばかり。まだ自分の足りない部分に気づいたばかり。
1つ1つ足りない部分を克服していったらいつの間にか前に進んでいっているんだ。きっと。

嫌気さしてたのに、また映画に支えられた。
あーあ、だめだなぁ。
やっぱり映画の持つパワーには敵わないなぁ。
うん、私は、映画が大好き。

めげずに苦手に向き合おう。取り組み続けよう。
そしていつか映画の人になって、こんな風に誰かの心を支えよう。


姫野 由芙加

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