18、デンマーク社会を支える「安心感」
もちろん例外もありますが、デンマーク社会は全体的にポジティブな価値観のサイクルで回っているとお伝えしました。
では、デンマーク社会を支えている価値観とはいったい何なのでしょうか?
一言で言えることではないのですが、ここではわかりやすく説明するためにあえてシンプルにお伝えしたいと思います。
デンマーク社会を支えている重要な価値は、以下の4つになります。そして、この4つの価値は相互作用し合っています。
1、安心感 2、主体性 3、平等 4、オープン
と言っても、ピンと来ないと思いますので、それぞれの価値について説明させていただきますね。まずは、安心感から。
1、安心感
デンマーク人の高い幸福度を支える価値の1つは、安心感です。安心感があるということは、言い換えると、不安がないということです。
以前、デンマーク人にインタビューしたときに「デンマーク人が比較的幸せなのは、大きな不安がないからだと思う」という返答が返ってきたのが印象的でした。「デンマーク人の心配事なんて、他の国の人の心配事に比べたらたいしたことないよ」と言っていた人もいました。
また、「いざとなったら国がサポートしてくれるという安心感がある」と言っていた人も多かったです。「デンマークで道を見失うのは相当に難しいよ」との一言も。
私がインタビューしたデンマーク人は、デンマークが高福祉社会で恵まれた国であることを自覚している様子でした。そして「税金が安くても不安を感じる社会よりは、税金は高くても安心して暮らしたい」と言っていたのが印象的でした。
「安心感を得るために、喜んで税金を払っている」という人は本当に多く、驚きました。デンマーク人の税金観は、日本人が一般的にもっている税金観とは非常に異なります。自分たちを代表して国のために働いてくれている政治家に感謝し、政府や自治体が安心できる社会をつくれるようにお金を手渡しているというイメージです。これは想像しにくいかもしれませんが、安心を得るために国に投資しているという感覚です。
「お金もほしいけれど、お金よりも安心がほしい」
「国にがっつり投資して、安心できる社会をつくってもらおう」
デンマーク人はそんな考え方をします。もちろん、それができるのは、信頼できる政治があってこそですが。
では、デンマークでは国がどのように安心感を与えてくれているのでしょうか。
ざっくりと見ていきましょう。
まず、デンマークでは医療が無料です。完璧とはいえない医療システムではありますが、医療は無料で、専門医にかかることも手術も無料です。子どもであれば歯の治療も矯正も無料です。最近でいえば、新型コロナのPCR検査も抗原検査もワクチン接種も無料です。出産も無料です。
ちなみに、私は出産時に子どもの黄疸の治療で1週間ほど入院し、最後には個室を当てられましたが、それも全部無料で、高福祉国家の凄さを実感しました。健康な2人目を産んだときは出産して数時間で自宅に帰され、それにもまた驚きましたが。デンマークは緊急時には無償で必要なものを提供し、必要がなければ税金を無駄に使わないという、とてもわかりやすい姿勢です。
また、小学校から大学までの教育が無料です。公立の学校がほとんどで、私立であっても国が補助金を出しているので、そこまでお金がかかりません。特定の進路以外は大学まで学費が無料です。さらに、学生は返済不要の奨学金をもらうことができます。
このような環境があるので、デンマークでは経済的な理由で子どもをもつことを諦める必要がありません。子どもを産んでも教育費の心配をする必要がないというのは、それだけでも、不安はずいぶん減って、人生が軽くなるような気がします。
また、条件付きではありますが、仕事を失っても手厚い失業手当を受給でき、経済的に困っても国から経済的なサポートを受けることができるので、満足できる暮らしはできなくても、よっぽどの事情がなければ路頭に迷うことはありません。
というわけで、安心感。
安心感こそが、デンマーク社会を根幹から支えている価値であるように感じます。
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