第百九話:夫が雇った弁護士
それからもメッセージや電話で脅されたり、暴言をはかれたり、でもその翌日にはオフィスを使いに来たりという日が続いた。何をされるか分からないので機嫌を取ろうとするものの、結局顔を見ると苛々してしまい怒鳴り合うということの繰り返しだった。スタッフのマイケルは、勝手に浮気を疑われているため、夫に理不尽に怒鳴られることもあり、オフィスの雰囲気は常に最悪で、早く夫との関係を解消しなければという気持ちだけが募っていった。
揉め事を避けたいという思いが強く、このまま諦めてくれないかなという期待も心の中のどこかにあった。ただ、夫はそんな風には思っていなかったようだ。ある日、夫の弁護士を名乗る人がレターを持ってオフィスに現れた。ダイレクターである夫の賃金未払いの件について早急な対応をするように、そうでない場合は裁判で争うことになるという旨が記載されていた。
このときすでにダイレクターからは外す手続きが完了しており、ダイレクターではなくなっていたが、弁護士からのレターということで私は気持ちを穏やかに保てず、知り合いの弁護士に転送してアドバイスを貰った。知り合いの弁護士はすぐに確認をしてくれ、弁護士事務所は存在するが、レターを作成した弁護士は弁護士協会に登録をされていないこと、またレターに誤字脱字が多くシリアスに考えなくてはいいのではないか。そもそもダイレクターですでになく、何の契約も結んでいないなら心配ないことなどを言われた。
一件落着と思いきや、同じような内容を夫が日本の本社のSNSのダイレクトメールや代表メール等に送り付けていた。さらには私を解雇して俺を雇ったほうが身のためだと力説しており、そのメールを日本から転送されて読み恥ずかしいやら申し訳ない気持ちになったのだった。
すでに揉めていること等の状況を説明していたので、ただただ身の安全を心配され、メールは無視するからと言われただけだった。以前から日本の社長と直接話をしたいと夫からは言われており、迷惑を日本側にかけてはいけないと思い軽くあしらっていたのだったが、それが裏目に出た形になってしまった。
そしてこんなメールを日本に送りつけたり、レターを弁護士に持ってこさせたりしながらも平気でオフィスを使いに来る夫をさすがにこの日オフィスを出禁にしたのだった。セキュリティーのガードマンに暴言を吐きまくり、ドアを壊されそうだったので、止めに出て行った私に「お前をこの国から追い出してやる!」と暴言を吐き、すごい剣幕で出て行ったのだった。