永遠に未完の挑戦
私を一番ワクワクさせるものは完成、完璧、終わりのない挑戦だ。
なんだか大きなことを…と思うかもしれないが、最後までどうかお付き合い願いたい。
完璧な音楽や完璧な絵画。
完璧なアイドルグループ、完成された夢の国。
誰にとっても「推し」があるように、きっとそれぞれにとっての「最高」は存在する。
でも、完璧は? 私は見たことがない。
そこにはいつでも新しい挑戦があり、私たちをそのたびに驚かせ、ワクワクさせて離さない。
人の考えつくモノにはいつだって様々な可能性と変化の余地が残されているのだというのが私の持論だ。
その中でも私がとりわけワクワクさせられている完璧のない挑戦「ミュージカル」について今回はお話したい。
そもそもミュージカルって何?
ミュージカルはパリなどで演じられていたオペラに源流をもつ舞台芸術だ。
遡るとオペラから派生した舞台芸術にヨハン・シュトラウス二世がウィーンで発展させたオペレッタがあるが、オペラよりも娯楽的な要素が多くエンターテイメントが増している点が特徴の芸術で、後にベルリンオペレッタで近代化した。これにボードビル、バーレスク、アメリカ独特のミンストレル・ショーの要素などを取り入れ1927年に『ショー・ボート』の登場によってアメリカで確立された舞台芸術の形式がミュージカルである。
日本で広がったミュージカルの形
現在、日本では東京の帝国劇場や日生劇場、赤坂ACTシアター、関西の梅田芸術劇場や九州地方の博多座等で様々なミュージカルが上演されている。2.5次元ミュージカルと言われるアニメや漫画の世界観を忠実に三次元に起こしたミュージカル作品の人気、ディズニーミュージカル映画による後押しも相まって、ミュージカル人気が高まっていると言えるだろう。そのなかでも今回は日本で生まれ、根付いた劇団の1つである宝塚歌劇団に着目する。
宝塚歌劇団は今年105周年を迎える兵庫県宝塚市に本拠地を置く歌劇団で、「花・月・雪・星・宙」と呼ばれる5つの組からなる。この歌劇団は、創立者小林一三の志す国民本位家庭本位の国劇を提供すべく、日々公演を重ねているがここでカギになるのが小林一三のさす「国民本位家庭本位の国劇」とは何を指すのかだ。小林一三は自身の著書「日本歌劇概論」のなかで「国民劇は保存すべき性質のものにあらずして国民思想の変化に伴い時々刻々と変化すべきもの」と主張しており、それは初演の時から常に意識されてきた。
宝塚歌劇団の初演『ドンブラコ』が演じられた当時の日本は、第一次世界大戦直前でいつか大きな戦争が起きるという中にあった。そのなかで「先に何か直接やってきたわけではない鬼(=敵)を、海を越えて退治する」桃太郎の姿はこれからの子供のお手本となる存在だと考えられた。さらに楽曲でも日露戦争直後の世相を受け、敵である鬼が暮らす鬼ヶ島での楽曲はロシア正教の讃美歌調にするなどの工夫が加えられている。多くの観客に、少女が一生懸命演じるけなげな姿と時代性の反映された家族皆で身に行ける演目として認められ、宝塚歌劇の歴史は始まることになったのだ。
その後もその時々の国民思想の変化に伴い宝塚歌劇の演目は変化し続けた。
その代表作に多くの人がご存知の『ベルサイユのばら』がある。1974年5月に初演を迎えたこの作品は1972年から『週刊マーガレット』で連載を開始した池田理代子作の同名漫画を原作とする演目だ。この作品が特に受け入れられた時代背景にあるのが1972年に成立した男女雇用機会均等法に代表される女性の在り方の変化があげられる。なかでも男装の麗人オスカルのセリフ「女にだって生きる権利はある。主張を述べる権利はある!」は多くの共感を呼んだ。当時人気の作品の舞台化ということで最初は否定的な意見もあったが、演出を担当した長谷川一夫の尽力もあり漫画独特の「目に星を飛ばす」表現の成功や、戦闘シーンの迫力を増すため観客を敵に見立て刃を向けるという新たな取り組みも行われた。結果として毎年のように赤字であった宝塚歌劇団の経営を立て直すことに成功した。さらに原作コミックの世界観をそのままできるだけ忠実に舞台に起こす取り組みは現在人気を博している2.5次元ミュージカルのそれの先駆けとも言えるだろう。
現在では、100周年を迎えた2014年度から観客動員数270万人をこえサービス産業生産性協議会の発表しているJCSI(日本版顧客満足度指数)でも三年連続一位の結果を残している。
完成のない「見果てぬ夢」
今回はミュージカルから完成のない挑戦について考えてきたが、これはなにも芸術やエンターテイメントに限った話ではない。ネオキャリアが挑む少子高齢化問題に始まる働き方改革や生産性の向上も同様である。企業やその地域性によって目指す理想は同じでもその最適な取り組み方は異なっているし、その時々で目指す働き方の在り方も改革され続ける。戦後の高度成長期に人が考えだした働き方は変化してきたとはいえここで限界を迎え破綻しているのが現状だ。この現状を打開していくには「終わりのない挑戦」を続け、人の発想に残された変化の余地と可能性を模索し続ける必要がある。私もネオキャリアという場所で新しい感動を与え続け顧客満足度の高い宝塚歌劇団のように、ワクワクをもってこの完璧のない課題に挑戦し続けたい。