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「農業女子」という枠組みに違和感を感じる理由

私は家業として和牛の繁殖経営に携わっています。今日は少し本音を語らせてください。

最近、「農業女子」という言葉をよく耳にするのですが、なぜかしっくりこない。実は業務上の都合で、私自身も「農業女子」としてカテゴライズされたメーリングリストに登録せざるを得ない状況にありますが、その違和感は日々強まるばかり。現場で働く一人の農業経営者として、率直な思いを共有させていただきたいと思います。

私たちの農場での役割分担

夫との二人三脚で経営している我が家の和牛繁殖牧場。私は牛のお世話に加えて、主に経営面の数字の管理や事務面を担当しています。ただし、これは単なる「事務作業」ではないと自分では思っています。経営判断に必要な情報収集、数値分析、そして自分なりの見解を付け加えながら、夫の意思決定をサポートする—そんな役割を担っているつもりです。

また、農業の傍ら、私はリモートワークを活用したアシスタントとしてもお仕事をさせていただていおり、この両立の経験から、日々強く感じることがあります。それは、性別に関係なく、仕事内容やその結果で評価される環境がいかに大切かということです。

誤解されがちな「経営者の妻」という立場

面白いことに、私の仕事内容を説明すると「あ、経営者なんですね」と誤解されることがよくあります。でも、実際はそう単純ではないんです。私たち夫婦は、それぞれの得意分野を活かしながら、互いを補完し合って経営を成り立たせています。この「共同経営者」という微妙な立ち位置が、なかなか理解されにくいのが現状です。

「女性だから」という枠組みの違和感

先日、例の農業女子向けメーリングリストに、ある農機具取扱いセミナーの案内が届きました。情報収集や業界動向の把握のために登録は必要なものの、その内容に私は大きな違和感を覚えました。案内には「初めての方にも安心して参加いただける農機取扱いセミナー」という文言が踊っています。

この案内文を読んで、私の中で様々な疑問が湧き上がりました。なぜ「農業女子」だけを対象にする必要があるのか。なぜ「初めての方にも安心」という表現が必要なのか。そもそも、農機具の取り扱いに性別は関係あるのでしょうか。

実務上の必要性から、このような女性限定の情報網に属さざるを得ない状況。それ自体が、現代の農業界が抱える課題を象徴しているようにも感じます。

「特別扱い」が生む逆効果

このような「女性向け」という括りは、確かに参加のハードルを下げる効果があるのかもしれません。しかし、それは同時に「女性だから特別な配慮が必要」という意識を、無意識のうちに強化してしまう危険性も孕んでいます。

私が違和感を覚えるのは、このような取り組みが、結果として「女性は農機具の操作が苦手」「女性には特別な配慮が必要」という固定観念を強化してしまう可能性があるからです。本来の目的である「誰もが自分らしく活躍できる農林水産業の実現」とは、むしろ逆行しているのではないでしょうか。

農業もビジネス、そしてプロフェッショナルの世界

私が思うに、農業は れっきとした「ビジネス」の一つです。他の職業と同様、プロフェッショナルとしての姿勢や技術が求められる分野です。確かに、現場では伝統的な知識と最新技術が混在していますが、これは製造業やITなど、他の業界でも同じことではないでしょうか。

にもかかわらず、なぜか農業は「特別」として扱われ、さらには性別によって役割が固定化されがちです。この現状に、一農業経営者として違和感を覚えずにはいられません。

これからの農業に必要な視点

もちろん、歴史的背景から、性別への配慮が必要な場面があることは理解しています。私自身、業務上の必要性から「農業女子」のネットワークに属していることからも、その意義を否定するものではありません。

しかし、それは「分ける」ことが目的ではなく、むしろ「誰もが活躍できる環境づくり」のためのステップであるべきではないでしょうか。技術研修であれば、性別ではなく技術レベルや経験値で分けた方が、参加者それぞれの成長につながるはずです。

おわりに

この思いを記事にすることを躊躇する部分もありました。現在の立場上、あえて声を上げることへの迷いもありました。でも、この違和感を抱えたまま黙っているのは、どうにも気持ち悪くて。戸惑いながらも、結局筆を執らずにはいられませんでした。

性別ではなく、一人の農業経営者として。そして何より、農業という素晴らしい仕事に携わる一人のプロフェッショナルとして、これからも歩んでいきたいと思います。

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