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ワークショップ実践者のファシリテーションにおける困難さの認識はどんなものがあるか?

今や、さまざまな場面でファシリテーション力が求められます。
会社での会議、ワークショップ、関係調整….etc.

ファシリテーションの困難さはどのようなものがあるでしょうか?
私自身も、場づくりをする中でファシリテーションの難しさを感じる場面がいくつかあります。

この論文は、さまざまな領域でワークショップを行う実践者(初心者から熟達者まで)を対象に、ファシリテーションにおいて認識されている困難さの実態を明らかにしています。

論文名:ワークショップ実践者のファシリテーションにおける困難さの認識/ 安斎勇樹さん、青木翔子さん


ワークショップを実践する上で重要な技能

ワークショップを実践する上で重要な技能は、事前の企画段階におけるプロ グラムデザインと、当日の運営段階におけるファシリテーションの2点がある(堀・加藤 2008)。

プログラムデザインとは、ワークショップのコンセプトを設定し、趣旨説明やアイスブレイクで構成される「導入」 のパート、話題提供や意見交換などで構成される「知る活動」、個人やグループでアイデアや作品を制作する 「創る活動」、そして発表と振り返りからなる「まとめ」 の4段階のプログラムを設計し、タイムテーブルを構成すること。

ファシリテーションとは、事前に設計したプログラムに沿って進行しながらも、当日の状況に応じて指示を変更したり、参加者に問いかけや助言をしたりすることで、学習や創造の過程をより促進するための一連の働きかけを指す(安斎 2013)。

ファシリテーションの困難さの先行研究

ワークショップの実践者の育成が困難である理由は 様々なものが考えられるが、その一つにはワークショ ップのファシリテーションの困難さが挙げられる。広石(2005)は、ワークショップのファシリテー ターには単に参加者の学びを支援するだけでなく、知識を教授する役割(Instructor)や、地域社会等との協働を企画する役割(Coordinator)など、多様な役割が求められること、またその行為は状況に埋め込まれており、現場の暗黙知(臨床の知)に委ねられていることを指摘している。

また、実践される領域が例えば学校教育なのか、まちづくりなのか、企業内の商品開発のための実践なのかによっても、ファシリテーターに求められる振る舞いや役割は異なるものになるだろう。

研究の方法

ワークショップの実践者がファシリテーションのどの場面においてどの程度の困難さを感じているのかを明らかにするために、領域や経験年数を問わず、ワー クショップのファシリテーション経験のある実践者を対象にウェブによる質問紙調査を行った。
質問内容は、性別、年齢、職種、ワークショップの実践領域、経験年数などの基本情報のほか、当日のファシリテーション場面において、ワークショップのプ ログラムの各フェーズにおいて感じている困難さを5件法で回答を求めた。

p233より抜粋

インタビューは、平成29年8月〜11月に実施した。質問紙調査の回答者のうち了承が得られた16名を対 象に半構造化インタビュー調査を行った。具体的には、質問紙調査で得られた各フェーズの困難さの数値の結果 と自由記述の回答をもとに(1)それぞれがどのような 困難さか(2)その困難さの要因は何だと考えているか (3)それについてどのように対処しているかについて 聞き取りを行った。

p234より抜粋

分析と結果

インタビューイーがファシリテーションに対して困難さを認識していると考えられる発話を抽出し、困難さの内容をコーディングした。生成された66のコードを類似概念で分類したところ、34種類の困難さのカテゴリが生成された。さらにそれらをカテゴリの内容・関係性によって類型化したところ【動機付け・場の空気作り】【適切な説明・教示】【コミュニケーションの支援】【参加者の状態把握】【不測の事態への対応】【プログラムの調整】【その他】の7グループに類型化することができた(表3)。

p234より抜粋
p235より抜粋

さらに、ワークショップの実践領域の違いによって、これらの困難さの傾向が異なることが明らかになった。

ワークショップの実践領域ごとに比較すると、ファシリテーションの困難さにはワークショップにおいて達成すべき目標の基準、実践に関わる人々の人間関係や利害関係、参加に対する強制力、参加者の多様性の程度の違いなどの変数が影響することが示唆された。例えば、企業内人材育成のファシリテーターは、参加が強制であるがゆえに、動機付けや場の空気作りに特に困難さを感じていることが示されている。

また、経験を積むことでこれらの困難さは軽減されるが、熟達するにつれて初心者や中堅者には見えていなかった新たな困難さが認識されることも明らかになった。

学び・気づき

ファシリテーションの課題の類型化の中に、「場の空気作り」や「不測の事態対応」という言葉があることからも、技術的なスキルだけでなく、ファシリテーターとしての柔軟性などの在り方が重要であることが学びでした。

ファシリテーターは単純な「スキル」だけではなく、実践を通じて自身の「在り方」もアップデートしていく姿勢が必要であることに気づかされます。

また、初心者、中堅者、熟達者それぞれが異なる課題に直面することが明らかになり、成長過程で新たな視点が求められることにも着目したいですね。自分は果たして今、課題を整理するとするなら、どこにいるのだろう….。

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