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リーダーは、集団状況と集団メンバーのアイデンティティを把握することが、メンバーへ良い影響を与える!

私は現在、立教大学大学院リーダーシップ開発コースに通っている修士2年生です。大学院の名前の中に「リーダーシップ」という言葉があるように、リーダーシップについての学びも深めています。

リーダーシップ研究は、リーダーの行動がどのような過程を経てフォロワー集団の生産性に影響するのかという、リーダーシップ有効性のメカニズムに関心が向けられるようになってきました。

近年では、集団メンバーの自己概念がリーダーシップ過程に果たす役割が注目されています(e.g., Lord & Brown, 2004; van Knippenberg, van Knippenberg, De Cremer, & Hogg, 2004)。

今回は、メンバーの3つのアイデンティティ・ レベル(個人・関係・集合)に焦点を当て、集団状況が特定のアイデンティティを顕現させること、また顕現したアイデンティティが特定の集団状況とリーダーシップ・スタイル選好との関連を媒介する過程について検討している論文をまとめていきたいと思います。

論文名:「集団状況と集団メンバーのアイデンティティがリーダーシップ選好に及ぼす影響」川口司寛さん・坂田桐子さん


集団状況と3つのアイデンティティ・レベル

この論文の肝でもある、3つのアイデンティティ・ レベル(個人・関係・集合)の定義について説明します。

そもそもアイデンティティは、個人の行動を規定するものであり、さまざまな社会的状況によって変化することが指摘されています(Kihlstrom & Klein, 1994 ; Lord & Maher, 1991)。

また、アイデンティティには、個人的自己と社会的自己の2つのとらえ方があると言われています。

個人的自己は、他者と比較することによって自己の特有性を強調するものである。
社会的自己は、他者や集団メンバーシップとの関係を通じた自己概念に基づくものであり、類似性や他者との結びつきを強調するものである。

Banaji & Prentice, 1994

そして、社会的自己を関係的自己と集合的自己の2つのレベルに区別して捉えることが多いと述べています。

関係的自己とは、重要な他者との交流 や他者との役割関係から得られる自己概念であり、集合的自己とは、所属する集団やカテゴリーの一員としての自己概念である。

Brewer & Gardner, 1996; Sluss & Ashforth, 2007; Brickson, 2000

ここでは、Brewer & Gardner (1996)に沿って、3レベルのアイデンティティについて述べています。

個人的アイデンティティ

・個人的アイデンティティが顕現すると、人は独自の自己に焦点を当て、自己を基本的に独立的で自立的なものとして捉える。目標は自己利益の獲得であり、自己評価は習慣、能力、目的、パフォー マンスなどの個人間比較に由来する。

関係的アイデンティティ

・関係的アイデンティティが顕現すると、人は上司-部下、同僚-同僚といった役割関係に焦点を当てる。個人は相互依存し、相互作用の本質や潜在的な個人的関係や個人的親密さを認識する。目標は二者関係の利益であり、自己評価は役割関係責任を果たすことに由来する。

集合的アイデンティティ

・集合的アイデンティティは、社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory; Tajfel & Turner, 1986) が想定する社会的アイデンティティに準じる概念であり、集合的アイデンティティが顕現した人は、集団や社会的カテゴリーなどのプロトタイプ的メンバーシップに焦点を当てる。

本研究ではBrewer & Gardner (1996)の知見を基に、目標達成集団において関 係的アイデンティティが顕現する状況を考えています。

先行研究

メンバーのアイデンティティとリーダー シップ選好の関連についての先行研究をいくつか述べています。

・De Cremer & VanVugt (2002)は社会的ジレンマ状況で個人的アイデンティティが顕現したメン バーは、外集団に所属する外部リーダーや実験者に指名される指名リーダーを好み、集合的アイ デンティティが顕現したメンバーは、内集団に所属する内部リーダーや投票によって選ばれる選出リーダーを好むことを示した。

・Platow & van Knippenberg (2001)は、集団同一視が低い条件では、公平リーダーが最も評価され、内集団ひいきリーダー、外集団ひいきリーダーの順に評価が低くなるのに対し、集団同一視が高い条件では、内集団ひいきをするリーダーと公平なリーダーは外集団ひいきをするリーダーより高く評価されることを見出している。

・Hogg & van Knippenberg (2003) は、メンバーの集団アイデンティティが顕現化した場合、集団プロトタイプ性の高いメンバーの社会的魅力が最大となり、そのメンバーの影響力が増加し、リーダーとして選好される傾向が高まることを示している。

本研究で取り上げるリーダーシップ

この論文では、「メンバーへの接し方」 と「促進する集団機能の種類」の2次元のリーダーシップ行動に注目しています。

「メンバーへの接し方」 はリーダーが集団メンバー個々人に対してどのように接するかの行動次元であり、「促進する集団機能の種類」はリーダーが集団全体をどのような方針で統率するかに関する行動次元です。

「メンバーへの接し方」の次元として、個人化(individualized)リーダーシップと脱個人化 (de-individualized)リーダーシップを取り上げています(Dansereau, Yammarino & Markham, 1995 ; Turner, 1987 ; Hogg, Martin, Epitropaki, Maankad, Svensson & Weeden, 2005)。

個人化リーダーシップとは、メンバー同士を違う個人としてとらえ、リー ダーとメンバーの関係がメンバーごとに異なり、 さらに、集団内での二者関係をそれぞれ違ったものとして捉えるリーダーシップである。(Dansereau,Yammarino & Markham, 1995)。
脱個人化リー ダーシップは、リーダーがメンバー全員を均等、平等に扱い、個人的アイデンティティから社会的アイデンティティへの移行、内集団メンバーへの同調、および内集団の規範に沿った行動を促すリーダーシップ・スタイルである(Turner, 1987)。

「集団状況と集団メンバーのアイデンティティがリーダーシップ選好に及ぼす影響」p15より抜粋

仮説

論文では以下の6つの仮説を立てています。

仮説1:個人間比較状況のとき、集団メンバーに他のアイデンティティより個人的アイデンティ ティが顕現する。
仮説2:個人間協力状況のとき、集団メンバー に他のアイデンティティより関係的アイデンティ ティが顕現する。
仮説3:集団間比較状況のとき、集団メンバーに他のアイデンティティより集合的アイデンティ ティが顕現する。
仮説4:個人間比較状況のとき、リーダーを必要とする程度が低く、それを個人的アイデンティティが媒介する。
仮説5:個人間協力状況のとき、メンバーを個人化し、集団維持に配慮するリーダーを選好し、それを関係的アイデンティティが媒介する。
仮説6:集団間比較状況のとき、メンバーを脱個人化し、目標達成を促すリーダーを選好し、それを集合的アイデンティティが媒介する。

結果

実験室実験を行った研究1と実在集団を対象とした研究2の2回実施をしています。詳細は割愛しますが、結果は以下となりました。

仮説1:一部支持する
仮説2:支持する
仮説3:支持する
仮説4: 個人間比較状況に相当する因子は抽出されなかったため、仮説4は検討できなかった
仮説5:集団維持型リーダーを必要としているという点では仮説5を支持したが、脱個人化リーダーを必要とするという点では仮説5を支持していない
仮説6:支持する

考察

実験室実験を行った研究1
・集団間比較状況が集合的アイデンティティを、個人間協力状況が関係的アイデンティティを、個人間比較状況が個人的アイデンティティを顕現させることが概ね示された。
実在集団を対象とした研究2
・因果関係の検討はできないものの、検討不可能であった個人的アイデンティティを除き、研究1の結果と一貫する結果を得た。
・集団目標達成に向けてメンバー間が協力している集団(目標達成・協力集団)で、集団維持を重視しメンバーを平等に扱うリーダーが好まれることが示されたが、これは目標達成に邁進している集団でも、そこにメンバー間の相互依存関係がある場合には、集団維持やメンバー間の平等な扱いをリーダーに期待しがちであることを意味している。

貢献
・これまであまり検討されてこなかった集団状況と関係的アイデンティティとの関連を一部明らかにした。
・集団状況及びその状況下で顕現したアイデンティティが、特定のリーダーシップ選好に結びつくことを、目標達成-集団維持、個人化-脱個人化という基本的なリーダーシップ次元において示した。
・集団状況とリーダーシップ選好との関連の一部が、集団メンバーのアイデンティティに媒介されることを示した。


この論文の結果から、リーダーは集団状況を知ることで、 メンバー一人ひとりにどのようなアイデンティティが顕現しているのか、集団全体やリーダーに対して何を期待しているのか、さらにはメンバー自身がどのように行動するのかを予測することができることに繋がります。

必要ならば集団状況に適したリーダーシップ・スタイルを用いることによって、メンバーからの支持を得ることができ、ひいてはメンバーへの影響力を強めることが可能になると述べられています(e.g., Haslam & Platow, 2001)。

リーダー自身が、集団状況を知ることでメンバーへの影響力につながっていくことを自覚するのは、はとても重要だと思えた論文でした。


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