
不適切に思える上司の仕事の振り方が部署の業績や部下の成長に与える影響とは?
「些末なことにこだわり仕事量を増やす」「部下に思いつきの仕事を指示する」といった一見すると不適切に思える上司の仕事の振り方を経験したことはありませんか?
2025年の初論文レビューは、一見すると不適切に思える上司の仕事の振り方が部署の業績や部下の成長に与える影響について検証した論文についてまとめます。
分析までのプロセスが専門用語が多く研究寄りなので、結果だけ知りたい方は考察からお読みください!
論文名:上司の不適切な仕事の振り方が部署の業績や部下の成長に与える影響/萩原 牧子さんリクルートワークス研究所・主任研究員
研究の目的
「些末なことにこだわり仕事量を増やす」「部下に思いつきの仕事を指示する」といったような一見不適切と思われる上司の仕事の振り方が、部署の業績や部下の成長に与える影響について、ふだんの上司の指導のタイプ別に比較検証すること。
先行研究
① リーダーシップの行動理論
三隅・白樫(1963) の研究チームは、リーダーシップには「課題達成行動 ( Performance )」と「集団維持行動 (Maintenance)」の2つの要素が存在するとし、オハイオ州立大学の研究チームは「構造づくり」 と「配慮」の 2 つの要素があることを示した (Stogdill 1963)。
三隅・白樫(1963)の研究チームは、組織の監督者の行動を、目標達成機能の P 型、人間関係を維持-強化する機能のM 型、両方とも兼ね備えた PM 型で分類し、単純作業の生産性の実験研究を行った結果、もっとも生産性が高いのがPM型で、つぎが P 型、最低は M 型であることを明らかにしている。また、オハイオ州立大学の研究チームでも「構造づくり」と「配慮」の両方とも高い Hi-Hi 型のリーダーシップがもっとも効果が高いことを示している(Stogdill 1963)。
② 上司の圧力や与えられる仕事の難易度の効果
先述のように2つの要素で議論されることの多 いリーダーシップ行動であるが、実際の因子分析の結果では、3つの因子が抽出されていることも多い(例えば三隅1978; 三隅ほか 1982)。それは、1つ目の要素である「課題達成行動」のなかに含まれる「目標を達成させるための計画についての行動(Plan)」と、「業績をあげるように圧力をかける行動(Pressure)」が、別の要素として識別されるためである。これは、オハイオ州立大学の研究においても例外ではない(Bass 1981)。 山田(1987)は、この3 因子が、部下の職務満足に与える影響を分析し、圧力Pが単独ではモラールを下げる効果をもつが、Mと計画Pが併存すれ ば,プラスの効果に転ずるという興味深い結果を示している。
リーダーシップの行動理論から、三隅・白樫(1963)のPM理論の枠組みを活用して、上司のふだんの指導タイプを分類したうえで、不適切な仕事の指示が、部署の業績や部下の成長に 与える影響について比較検証していく。
調査対象者
正社員でフルタ イム(週5 日以上かつ35 時間以上)勤務の20 歳から49歳のホワイトカラーに限定した。結果、 分析対象者数は3837 名(男性 2607,女性1230) になった。
上司の仕事指示設問の基本分析
上司の仕事の指示設問は「あなたの直属の上司について、それぞれどの程度あてはまるかお答えください」に対して「常にあてはまる~全くあ てはまらない」の 5 段階で尋ねる形式で 18 項目ある(図表1)。

18 項目の仕事指示設問を主因子法(バリマックス回転)による因子分析を行うと、3 つの因子が抽出された(図表2)。第 1 因子は、部下が目標を達成するための支援行動に関する設問の因子負荷量が高く、第2 因子は、部下の成長支援や信頼といった設問の因子負荷量が高く、第 3 因子は、部下が効率よく仕事を進めることを阻害するような、不適切な指示設問の因子負荷量が高い。第 1 因子と第2 因子は、先行研究であげたリーダー シップの2 要素と類似してため、三隅らの研究チ ームのPM理論の枠組みを借りて、第1因子を「課題達成行動 P」、第2 因子を「集団維持行動 M」と置き、第 3 因子を「不適切な指示 L」と名付けることにする。


p103より抜粋
PM 理論の検証
上司の指導タイプを「課題達成行動も集団維持行動も高いPMタイプ」「課題達成行動は高いが、集団維持行動は低いPmタイプ」「課題達成行動は低いが、集団維持行動は高いpMタイプ」「課題達成行動も集団維持行動も低い pmタイプ」に分類した(図表4)。

上司のふだんの指導タイプ4分類が「部署の業績」と「部下の成長実感」に与える効果について、回帰分析を行った。その際、職場や仕事の質、上司自身もプレイヤーとしての担当業務をもつのか、メンバーの年齢や性別、企業の従業員規模をコントロール変数として投入した。部下の成熟度によって、効果的なリーダーシップ行動が変化するという条件適応理論(Hersey and Blanchard 1977)も考慮して、部下の年代別の効果についても検証する。

p105より抜粋
上司の不適切な仕事指示の影響
つぎに、上司の不適切な仕事の指示の影響を検証する。不適切な指示 L の因子得点を利用して、 0 より大きい場合をラージ L、小さい場合をスモ ール l として、先の上司の指導タイプ 4 分類との組み合わせで 8 分類を作成した。これにより、ふだんの上司の指導タイプによって、不適切な仕事の大小が、部署の業績と部下の成長に与える影響を比較検証する。先ほどと同じコント ロール変数を入れたうえで、回帰分析を行った(図表8)。

p107より抜粋
考察
分析の結果、不適切な仕事の振り方は、単独では部署の業績や部下の成長にマイナスの効果を持つことが明らかになったた。しかし、上司の普段の指導の在り方(PMの組み合わせ)と組み合わさると、そのマイナスの効果は小さくなるか、ほとんど見出されないことが示された。つまり、上司の指導タイプによって、不適切な仕事の振り方の影響は再解釈され、効果が変化する可能性があると考えられる。
さらに、上司が「部下の仕事状況を把握し」「相談するとすぐ結論を出し」「仕事の優先順位を明確につける」などの指示を行うことで、部署の業績にプラスの影響を与えることが確認されている。一方で、「任せる仕事の目的・背景から説明」「仕事の結果をフィードバック」「大きなミスにつながる前に介入する」といった指示は、部下の成長実感を促進する効果が高いとされている。
これらの結果から、上司の指導タイプや仕事の指示の仕方が、部署の業績や部下の成長に与える影響は多面的であり、上司の普段の指導の在り方が重要であることが示唆されます。
一見すると不適切と思われる仕事の振り方であっても、部下に挑戦の機会を提供したり、視点を広げたりするなど、状況によっては成長を促す可能性があるという発見が面白かったです!