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「成果主義」の2つの側面と上司・部下間の協力―成果主義の影響に関する実証研究―
この論文は、成果主義が職場の人間関係、特に上司と部下の協力関係にどのような影響を与えるかを分析したものです。成果主義が職場でのパフォーマンス向上を目的として導入される一方で、個人間の協力や信頼に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている点に注目しています。
論文名:「成果主義」の2つの側面と上司・部下間の協力―成果主義の影響に関する実証研究―/幸田達郎さん
この論文では、成果主義を賃金・処遇制度としての成果主義と、目標共有の仕組としての成果主義に2分し、上司・部下間における協力への影響を検討しています。
仮説
【仮説1】賃金・処遇制度としての成果主義と上司・部下間の協力の強さに関連はなく、目標統合の方法としての成果主義は上司・部下間の協力に正の影響を与える。
【仮説2】目標共有の側面としての成果主義は問題直面型のコンフリクト解消スタイルに正の影響を与える。
【仮説3】問題直面型のコンフリクト解消スタイルは上司・部下の協力に正の 影響を与える。
調査方法
対象:web調査を用いて、対象者条件に適合したモニターから統計的な就業者数の性年代比率に合致するように選択したランダムなサンプルを700件抽 出した。
尺度
本稿では、「上司・部下間の協力」「賃金・処遇制度の側面としての成果主義」「目標共有の側面 としての成果主義」「問題直面型コンフリクト解消スタイル」という4つの変数を扱うことになる。 それぞれの変数に関して5件法による質問項目を作成し、分析に使用した。
上司・部下間の協力
上司・部下間の協力については、上司と部下との関係を社会的交換としてと らえるLeaderMember Exchange(LMX)による尺度を中心に構成した。
賃金・処遇制度の側面としての成果主義
賃金・処遇制度の側面としての成果主義に関す る項目は事実関係を問うための項目により構成した。正亀(2008)による成果主義に関する調査で使用されたYes・Noを問う2点尺度の項目を5点尺度に修正したものを使用した。
目標共有の側面としての成果主義
目標共有の側面としての成果主義に関する項目は、資産特殊的な関係についての質問項目を因子分析によって整理し、さらに、その中から目標共有にふさわしい内容のものを使用した。
コンフリクト解消スタイル
コンフリクト解消スタイルについては、Blake & Mouton(1964)による、上司・部下の間での コンフリクト解消のスタイルの5つの特性を項目化して使用した。
※分析手順と結果の詳細について割愛しますが、詳しくみたい方はぜひ論文をご覧ください!
結果と考察
【仮説1】支持された。
【仮説2】支持された。
【仮説3】支持された。
業績による報酬の変化を穏当なものにすることによって賃金・処遇制度としての側面を抑え、 組織目標を適切に共有しながら組織の下方に向かって展開していく、いわば目標共有の仕組としての側面を強める運用が重要である。
公平で透明性のある評価基準を確立し、競争のデメリットを抑える工夫が重要である。
組織文化や上司のリーダーシップスタイルが成果主義の影響を緩和または強化する可能性も示唆されている。
感想
この論文は、成果主義を「賃金・処遇制度」と「目標共有の仕組み」という2つの側面に分けて考察する点は、現実的な運用においても参考になって、面白い視点だなと思いました。
特に、“協力” を支える制度的な仕組は、目標の共有の仕組であって、賃金や処遇制度ではないことが明らかになったことも、企業や組織の管理職やリーダーが部下との関係を構築する際に具体的な参考になる、と感じます。
個人的には、成果主義すぎる考え方がどちらかというと苦手だったのですが、成果主義は運用次第で協力関係を促進する可能性もあれば、競争を煽り協力を妨げる要因にもなり得ることを実証している点が印象的でした。
苦手な考え方や価値観も、いろいろな研究や視点から眺めてみると、発見があるものです。