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上司と部下の交換関係の「質」はどう分けられるのか?

上司と部下の関係性に着目した、LMX(Leader-member Exchange)という理論があります。リーダー・メンバー交換関係、とも言われています。

端的にいうと、リーダーの与える報酬に対して、メンバーが提供する交換、の関係性のことを言います。この報酬には金銭や昇進だけでなく、信頼や尊敬なども含まれます。また、フォロワーが提供する交換には、業務の遂行だけでなく、リーダーへの信頼や忠誠なども含まれます。

今回は、LMXに新たな知見を提供した、比較的新しい論文をまとめます。

Buengeler, C., Piccolo, R. F., & Locklear, L. R. (2021). LMX differentiation and group outcomes: A framework and review drawing on group diversity insights. Journal of Management, 47(1), 260-287.

この論文は、「LMX分化」(LMX Differentiation)という新たな考え方を提示しています。

上司と部下の関係性を表すLMXですが、LMXの質は上司-部下によって異なる、との考えから、グループ多様性の分類にしたがって、LMXの質についての分類を理論モデルとして打ち出しています。


LMX差異化の概念とその意義

LMX差異化とは、同じグループ内でリーダーがメンバーと築く関係の質が異なることを指します。

具体的には、あるメンバーがリーダーと強い信頼関係を持っている一方で、他のメンバーとの関係がそれほど良好でない場合、LMX差異化が生じていると言えます。この差異化は、リーダーが限られたリソース(時間、エネルギー、注意力など)をどのように配分するかに起因し、結果としてリーダーと各メンバーの関係の質に違いが生まれるものです。

LMX差異化がグループに与える影響

論文では、LMX差異化がグループ全体の成果、協力、メンバーの満足度、一体感に与える影響について考察されています。一般的に、LMX差異化が大きい場合、グループ内で不公平感が生じ、協力や一体感が損なわれる可能性が指摘されています。しかし、全ての状況でネガティブな影響が生じるわけではなく、特定の条件下ではポジティブな影響も期待されるとしています。

グループ多様性の視点からのLMX差異化

特に本論文が注目しているのは、グループの多様性がLMX差異化の影響をどのように調整するかという点です。グループの多様性には、文化的背景、価値観、スキル、経験の違いが含まれ、これらの多様性がグループダイナミクスに与える影響は多岐にわたります。

多様なバックグラウンドを持つメンバーがいるグループでは、LMX差異化が必ずしもネガティブな結果をもたらすわけではなく、場合によってはポジティブな効果を引き出す可能性があると示唆されています。

例えば、文化が多様なグループでは、リーダーが各メンバーの個別ニーズに応じて関係を築くことで、メンバーは自分が尊重されていると感じ、パフォーマンスや満足度が向上する可能性があります。

理論的フレームワークの提案

著者らは、これらの知見を基に、LMX差異化がグループの成果に与える影響を説明するための理論的フレームワークを提案しています。

LMX分化(Leader-Member Exchange Differentiation)とは、リーダーがそれぞれのメンバーと異なる質の関係を築く現象を指します。

LMX分化には3つの構成要素があります。

分離:セパレーション(Separation):

  • グループ内の意見や価値観、信念に基づく不一致を表す。高LMXと低LMXのメンバー間で明確な境界が形成されることが特徴。これにより、内グループと外グループが形成される。

  • 負の影響として、モラルや結束力の低下、信頼の低下、関係性の対立増加、社会的・行動的統合の低下、離職率の上昇、タスクパフォーマンスの低下が考えられるとのこと。

種類:バラエティ(Variety):

  • メンバーが異なる種類の知識、スキル、経験を持つことを強調する。リーダーがメンバーの独自の能力や役割に応じて異なる関係を築くことで、グループ全体の創造性や意思決定の質が向上。

  • 正の影響として、コーディネーションの向上、タスクの対立(健康的な対立)、創造性やイノベーションの向上、意思決定の質の向上、複雑なタスクのパフォーマンス向上が考えられるとのこと。

格差:ディスパリティ(Disparity):

  • 社会的資産やリソースの不平等な分配を示すもの。特定のメンバーがリーダーの注目や機会へのアクセスなどのリソースを不均等に受けることで、グループ内に階層が形成され、競争や不公平感が生じる可能性あり。

  • 負の影響として、公正感や公平感の低下、コミュニケーションの質の低下、メンバーの入力減少、グループ内競争の増加、対人関係の破壊行動、離職率の上昇が考えられるとのこと。

1人のメンバーだけがリーダーとの関係性(LMX)が特に良好なグループでは、リーダーとメンバーとの関係性に大きな格差がある場合、LMX分化が「分離」や「多様性」として考えられることが少なくなる可能性があります(図1を参照)。

一方、2つのサブグループがそれぞれ大きさが同じで、リーダーとの距離感が異なる場合、このグループではリーダーとメンバーとの関係性の「分離」は大きいですが、「多様性」や「格差」は中程度にとどまります。このように、LMX分化がどのように機能するかを理解するためには、どの要素が強く影響しているかを明確にすることが重要です。

以下は、それぞれを図示したものです。

この研究の実務的なインプリケーションとして、リーダーはグループ内でのLMX差異化を意識し、それがメンバーの士気やパフォーマンスにどう影響するかを慎重にみる必要があると思います。

特に多様性が顕著なグループでは、各メンバーのニーズや期待に応じたリーダーシップを提供することが求められます。

さらに、リーダーは、差異化がチーム内での不公平感を生み出さないよう、コミュニケーションをできる限り透明性を確保して行い、グループ全体での一体感を保つ努力が必要かもしれませんね。


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