【本】社会科学の考え方-研究の「方法論」を理解する重要性を考える-
私は現在、立教大学大学院のリーダーシップ開発コースに在籍している修士2年生です。今年、修士論文を執筆するにあたって「研究」にまつわる色々な本を手にしているのですが、その中でもこの本が非常にわかりやすく、面白かったので、今回はこの本を元に社会科学の考え方について、まとめていきたいと思います。
この本は、社会科学における研究の「方法論」を解説することを目的としている本です。
そもそも社会科学とは?
そもそも社会科学とはなんでしょうか。この問いだけで1冊の本があるくらいなので、ここでは深く入り込みませんが、文部科学省の定義を参照します。
わかりやすい図があったので、そちらも参照させていただきます。
めちゃくちゃ簡単に言うと、人間や集団の諸関係、特に社会の構造・機能などを研究対象とすること、だと思っています。
方法論とは何か?
この本の目的は、冒頭でも述べたように「社会科学における研究の「方法論」を解説すること」です。
方法論=認識論+リサーチ・デザイン手法+手法である、と述べています。
一つずつ見ていきましょう。
この方法論という骨組みがしっかりしていないと、手法やリサーチデザインを個別に学んでも整合性が取れなくなってしまい、リサーチを効果的に行うことができません。
後ほど触れますが、どの手法も認識論的立場の違いによって使い方が異なります。自分が世の中をどのように捉えているか、ということを理解すること、明確にすること、はとても重要なのです。
この方法論をまずは理解することが、問いやリサーチ・デザイン、手法のロジックをしっかりと通すことに繋がります。
認識論とは?
先ほど、どの手法も認識論的立場の違いによって使い方が異なる、と述べましたが認識論とはなんでしょうか。
再掲載になりますが、認識論とは、「我々は世の中をどのように認識することができるのか」という問いに対する考え方のことを言います。
そして、認識論を理解するためには、存在論と調査手法の関係を理解するとわかりやすいです。下記の図が関係の図なのですが、そもそも認識論と存在論が互いに結びついていて、存在論がより根本的な概念になります。
私たちが世の中について何をどのように知ることができるかという点についての考え方は、存在論的立場によって規定され、存在論には基礎づけ主義と、反基礎づけ主義があります。
基礎づけ主義とは、私たちの知識や考えは、強固な疑いのない真実という基礎の上に組み立てられているとみなす考え方のことを言います。基礎づけ主義の立場でも、そこからまた実証主義か、批判的実在論かにわかれます。
反基礎づけ主義は、その問題となる社会的事象が存在するかどうかは、私たちの解釈によるという考え方のことを言います。反基礎づけ主義に立つ人は、人々がどのようにその出来事を解釈しているか解釈しようとしているかという点に着目した立場となるので、認識論は解釈主義となります。
実証主義と批判的実在論とは?
実証主義と批判的実在論についても、これだけで本が1冊かける内容のものなので、ここではさらっと説明にします。
実証主義者の特徴は下記と、本には書かれています。
・質的データに加えて数値データを積極的に収集し、客観的・科学的に物事を証明する傾向にある。
・事実についての問いと、価値や規範的な問いを分けることができると考えており、現実問題の把握を追求していく実証的研究と、哲学的な研究との間に線を引く。
・社会科学は価値中立な方法で行うことが可能だし、そうでなければならないという心構えを持っている。
・実証主義は、「科学的に」因果関係を明らかにしようとするため、社会に対して何らかの影響を及ぼそうという営為である「政策」について研究する分野においては特に大きな力を持っている。
次に、批判的実在論について見てみます。
批判的実在論者の特徴は下記と、本には書かれています。
・量的、質的手法のどちらも、目に見えない構造を明らかにする上で意義がある場合においてのみ、批判的な視点を持ちながら理論と関係づけられる形で活用される。
・実証主義者と同じ存在論的立場に立つが、直接的には見えない構造が重要であり、理論や遡行推論を通じてそれを理解し表現することを重視する。
専門用語満載でまとめてきましたが、研究者が自分の存在論・認識論立場を意識することは自らの研究の土台になります。
そして、この本にも書いてあってとても納得したのですが、自らの存在論・認識論的立場を理解することは、他者との違いを理解することにもなるということ。
相手が解釈主義の立場で研究をしているのか、実証主義の立場で研究しているのかによって、当たり前ですが意見は変わってきます。そもそも立場が違うのに、「間違っている」と真っ向から否定するのも変な話ですよね。
認識論の違いは考え方の違いであってどちらが優れている、という話ではありません。そのことは、常に、忘れないでいようと思います。