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研修の離脱防止には心理的安全性や行動意図が重要!?

研修で習得した知識やスキルは、実際にどのように職場に活かされるのか?また、研修で離脱してしまう人はどうすれば離脱を防げるのか?

このことについて初任教員を対象にした論文があったので今回はそちらをまとめます。

論文名:初任教員の研修転移プロセスにおける行動意図の役割/上岡伸さん


研究目的

本研究の目的は、初任教員が受講する校外研修の転移プロセスを自己調整学習の概念によって定義し、研修の改善に取り組む際の指標として行動意図が有用であるかを検討することである。

そもそも初任教員の研修転移はどのようなプロセスとして捉えられるのか、そして、研修改善の指標となり得る研修転移の先行要因は何か、この2点を検討することにした。

この論文では、「研修で習得した知識やスキルが、実際の職場でどの程度一般化され、維持されるか」を研修転移(training transfer)という概念として扱っている。(FORD and WEISSBEIN 1997)

教員研修の転移とは、研修内容と現場の問題意識とを関連付けて実践する段階(泰山 ほか 2020)において、研修での学びが職場における SRL(自己調整学習)に貢献するかどうかを意味するものとして検討することにした。

自己調整学習

バイエルン州の教員を対象に行われた募集型のオンライン研修では、受講した教育実習生575名のうち34.1%が途中で離脱している(STILLER and BACHMAIER 2017)。 離脱の要因について、研修に対するコミットメントの 低い受講者はリスクが高いことや、勤務時間の長い受講者は研修時間が長くなるとリスクが高まることが分かっている(SITZMANN 2012)。

離脱を抑止する方法として、先行研究では自己調整を促す介入の有効性が報告されている(SITZMANN and ELY 2010)。自己調整とは、「個人が目標を設定し、目標に対する進捗を比較し、目標と現状との間に不一致 があれば行動や認知を修正する」過程であり(レビュ ーとしてLORD 2010)、特に「学習者たちが自分たちの目標を達成するために、体系的に方向づけられた認知、感情、行動を自分で始め続ける諸過程のこと」を自己調整学習(SRL: Self-Regulated Learning)という (ZIMMERMAN and SCHUNK 2011)。

RQと仮説

RQ:管理職、指導教員、同僚へのフィードバック探索は、職場におけるSRL(自己調整学習)のサブプロセスであるか。

仮説:研修直後の行動意図が高い者ほど、職場における SRL(自己調整学習)を行う傾向にある。

方法

調査は、研修直後の当日調査と三カ月経過後の追跡調査の2回行った。教育センターが研修日ごとに受講者の研修効果を把握するために用いる記名式アンケートの Web フォームの末尾に、本調査に関する別セクションを設け、Google Forms によるオンライン調査として実施した。

調査対象者:
令和3年度に新規採用された教員を対象に実施する初任者研修の受講者のうち、公立学校教員計223名(小 学校教員94名,中学校教員50名,高等学校教員56名・ 特別支援学校教員23名)を調査対象とした。

調査内容

(1)行動意図:荒井・菱木(2019)と山内(2013) を参考に「今後、業務の中で教育クラウドを利用するつもりだ」の1項目について、1.全くそう思わない ~5.非常にそう思うの5段階で評定を求めた。この項目は上岡(2022)の当日調査で用いられたものであり、本研究ではその調査データを使用する。

(2)職場における自己調整学習:先行研究では職場におけるSRLを測定するためにいくつかの尺度が開発されているものの(e.g., FONTANA et al. 2015; KITTEL et al. 2021; LIN et al. 2018)、仕事上の特定の課題遂行に特化したSRLを問う尺度は見当たらなかった。そこで、 FONTANA et al.(2015)と MILLIGAN et al.(2015)の開発した SRLWQ の SRL に関する下位尺度から、TYNJÄLÄ (2013)の3-P モデルにおいてプロセス段階に属する 行動や認知活動に関する8項目(項目番号: 13, 16, 23, 24, 37, 38, 43, 44)を参考に、「教育クラウドの活用」 という特定の課題遂行に関するSRLを尋ねる8項目を 新たに作成した。この8項目について、過去1ヶ月間 を振り返って普段の取組にどの程度当てはまるのかを、 1.全く当てはまらない~5.非常に当てはまる、の5段階で評定を求めた。これらの項目は追跡調査でのみ使用した。

(3)フィードバック探索:フィードバック探索の項目として、SPARR et al.(2017)の用いた項目と SRLQW の WLA 尺度第6項目を参考に「●●に教育クラウドを活用した自らの取組について意見を求めている。」 を作成した。なお「feedback」の訳語については、中原(2010)の内省支援に関する項目を参考に「意見」 を用いた。項目の「●●」に、「管理職」・「指導教員」・ 「同僚(指導教員を除く)」をそれぞれ当てはめた計3 項目について、1.全く当てはまらない~5.非常に 当てはまる、の5段階で評定を求めた。これらの項目は追跡調査でのみ使用した。

結果


p233より抜粋

校外研修を、職場における SRL(自己調整学習)を促進するための手段の一つとして捉え、知識・技能・ 態度の獲得とともに、行動意図の形成に焦点化した研修改善を行うことで、教育センターは初任教員の職能成長に寄与することができる。そのためには研修の企画段階で、当該研修がどのような課題解決を目的としているのか、解決に向けて推奨すべき行動は何なのかが明確になっている必要がある。

「教育クラウドの活用」の文脈において、指導教員とその他の同僚へのフィードバック探索は、職場における SRL(自己調整学習)のサブプロセスであった。ただし、フィードバック探索はパフォーマンスを高める上で有用でありながらも、同時にプライドや自己イメージが傷つくリスクを伴う(ASHFORD et al. 2003)。

対人リスクの影響を抑え、職場での支援の授受を増やし、そしてフィー
ドバックを有効に機能させるためには心理的安全性(psychological safety)が保障されていることが望ましく(EDMONDSON and LEI 2014)
、心理的安全性はリーダーの言動によって築くことができると考えられている(EDMONDSON 2018)。

今回の調査結果は、初任教員に職場でのSRL(自己調整学習)を促す上で、心理的に安全な恐れのない組織づくりが有益である可能性を示唆している。



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