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【本】悲しみの秘儀-悲しみを通じてしか見えてこないものが、 この世には存在する。
随筆家の、若松英輔さんが好きです。
初めて若松さんの言葉に触れた時、自分の身体の体温が少し上がった感覚があったのを覚えています。
今回は、若松さんの本の中でも私が一番お勧めしたい「悲しみの秘儀」についてご紹介したいと思います。
若松英輔(わかまつ・えいすけ)
1968 年新潟県生まれ。批評家。慶應義塾大学文学部仏文学科卒業。「越知保夫とその時代 求道の文学」で第14回三田文学新人賞受賞。 著書に『井筒俊彦 叡知の哲学』『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)、『魂にふれる 大震災と、生きている死者』『池田晶子 不滅の哲学』(トランスビュー)、『吉満義彦 詩と天使の形而上学』『内村鑑三をよむ』(岩波書店)、『涙のしずくに洗われて咲きいづるもの』(河出書房新社)、『生きる哲学』(文春新書)、『霊性の哲学』(角川選書)などがある。
どんな本?
大切なものを失ってしまった悲しみを、宮沢賢治、須賀敦子、神谷美恵子、プラトン、ユングなどの詩や文学を通して若松さんの「悲しみ」への言葉が26編綴られています。
もともとは、日経新聞で連載していた人気エッセイを本にしたものです。
若松さんは、奥様を癌で亡くしておられます。 「悲しむ」とは何なのか、「希望」とは何なのか、「孤独」とは何なのか。悲しみを通じてしか見えてこないものが、 この世には存在する、と若松さんは言っています。
この本の何が響くのか
言葉に表すことのできない感情というものを誰しも抱いたことがあると思います。
私もどうしようもなく苦しくて辛いとき、誰とも話したくなくなるとき、涙が止まらなくなるとき、「悲しい」だけの感情ではない何かが襲ってくる経験をしたことがあります。
そういうとき、そこから逃げようとすればするほど、より深い海に落ちていってしまう感覚がありました。そうはいっても、真正面から眺めるには怖い。
若松さんのこの本を読むと、そんな感情から逃げるでもなく向き合うでもなく、ただその説明できない感情と共に在るという、在り方に気づくんです。
若松さんのこの本は、悲しみという1つの感情だけで、本当に多種多様な「言葉」が散りばめられています。ああ、こういう表現方法があるのか、とハッとさせられることも多々あります。
それまでは自分の中から一刻も早く無くなってほしかったものですら、これだという言葉の表現に出会うと、自身のかけがえのない、唯一無二の糧になることもあります。
私は、若松さんのこの本を読んで、様々な悲しみや、言葉にできない感情を自分の糧にしてきたなと思います。
若松さんの発する言葉をご紹介
最後に。若松さんの呟いていた言葉で心に残っているものをいくつか紹介して終われたらと思います。
生きるのが苦しい、そう感じているなら、どこかに慰めの言葉を探すのではなく、未来の自分に手紙を書くように小さな文章を書いてみるがいい。この苦しみを分かってほしい、そう感じるときこそ真の理解者を内面に探すのだ。すると君は苦しみを乗り越え、いつしか誰かの理解者にさえもなっているだろう。
— 若松 英輔 (@yomutokaku) April 6, 2024
大切な人がいるなら、どう愛するかを考えるよりも、愛すると何か、その本質を考えた方がよい。良かれと思ってやったことでも自己満足の領域を出ないかもしれない。どんな本を読むべきかを考える前に「読む」とは何かその本質を考えた方がよい。その小さなの営みは人生を深い場所から変える力を持つ。
— 若松 英輔 (@yomutokaku) March 18, 2024
多くの人に伝わることが必ず
— 若松 英輔 (@yomutokaku) December 21, 2023
真実だなんて
言わないでください
一人にだけ
伝えたいこと
一人の人にだけ
伝わることだってあるのです
それにどうしても
言葉にならないこともあるはずです
そもそも真実は
言葉になるのでしょうか
真実だと信じて疑わないものも
事実に過ぎないのではないでしょうか
若松さんは、大変なことがあっても頑張ろう、とは決して言わないんですよね。大変なことがあったとき、悲しもうよ、悲しいんだから、無理に元気に明るく振る舞う必要なんてないよ、と寄り添ってくれる感覚があります。
だからこそ、落ち込んでいたり、悲しみの海にいる時、ありのままを受け止めてくれるような言葉を表現している若松さんに触れると、不思議と「自分だけではないんだ」という安心感が生まれます。
どれだけ大変なことがあっても、きっとこのままでも大丈夫だ、と小さく背中を押してくれるような言葉があると思います。
気になった方は、よければお手に取ってみてください◎