上司と部下の関係性を表す、LMX(リーダーシップの交換モデル)とは何か?①
リーダーシップの研究は、これまでは、リーダーがある種の行動をとれば、そしてそれがリーダーの置かれた状況からの要請に適合したものであれば、フォロワー(メンバー)はそれに対して一様に反応するということを前提としてきた(服部,2020)と言われています。
しかし、現実の集団においてリーダーが直面するのは年齢・性別・パーソナリティなどさまざまな点において多様なフォロワーたちであり、職場で形成されるあるリーダーと複数のメンバーとの間の関係も等価のものとはなりません。
こうしたリーダーとフォロワーとの関係の質のばらつきに注目し、リーダーシップをリーダーとフォロワーの相互作用に見出す研究で最も研究蓄積があるのが、リーダーシップの交換モデル(LMX; Leader Member Exchange)と呼ばれるアプローチです。
「一人のリーダーと複数のメンバー」という関係性ではなく、「一人のリーダーと一人のメンバー」の関係に焦点を当てたのがLMX の特徴です。
上司と部下の関係性を表すLMXという概念について2回に分けて、まとめていきたいと思います。
参考文献:『リーダーシップ論における相互作用アプローチの展開』(小野善生,2011)
代表的なリーダーシップの定義
そもそも、リーダーシップとはなんでしょうか。
ここでは代表的な4つの定義をご紹介したいと思います。
定義を眺めていただくとわかると思うのですが、リーダーシップは決してリーダーと呼ばれる人たちだけが発揮するものではないことが伝わるかと思います。
LMXの定義
本来、リーダーシップはリーダーがメンバー複数に等しく関係を構築することが前提ですが、LMXではその関係が一つずつ異なることを前提とした垂直的二者連鎖(Dansereau et al., 1975)として捉え、その差異をリーダーとメンバー間の社会的交換関係(Emerson, 1987)の違いから説明するもの、と言われています。
具体的にどのようなものから構成されるのかというと、相互的支持、信頼、連帯感、裁量範囲、注意、忠誠という6つの要因が多くの研究で共通して指摘されているそうです。
定義に関しては,LMXの諸研究を渉猟したScandura, Graen and Novak(1986)の定義が最も明確かつ詳細にLMXを定義しているという情報を発見したので、そちらを記載します。
少し定義が難しいので、一つずつ見ていきましょう。
イングループとアウトグループ
リーダーとメンバーの関係はIn-groupとOut-groupの2つに分かれると言われています。
In-group:リーダーとフォロワーが相互の信頼感、敬意、きずなで結びついた関係を構築している
・リーダーからより多くの支援や情報を受け、より高い信頼を得る傾向がある
・組織の重要な情報にアクセスしやすく、リーダーとのコミュニケーションがより頻繁に行われる
Out-group:リーダーとフォロワーの間には仕事上必要な最低限の交換関係が成立している
・リーダーからの支援や情報が少なく、信頼も低い傾向がある
・組織内での重要な情報へのアクセスが制限され、リーダーとのコミュニケーションが限定される場合がある
In-groupだと感じているフォロワーは、リーダーとの関係性も近く、特別感を感じられてポジティブな感情を持つかもしれませんが、Out-groupだと感じているフォロワーは、疎外された感覚を持つかもしれません。
もちろん、全員と平等な関係性を築くことは難しいですし、関係性に濃淡が出てしまうことは多かれ少なかれあることですが、In-group、Out-groupという概念やLMX理論による交換されているものの多寡を認知することで自身のより効果的なマネジメント行動にも繋がります。
LMXおよびリーダーシップ形成モデルの展開
Graen and Uhl-Bien(1995)は、リーダーシップ形成(Leadership Making)モデルの発展を以下の図にある4つの段階から説明しています。
こうしてみてみると、VDL→LMXと、発展していることがわかります。
LMX理論は、リーダーシップを「人間関係は報酬の交換で成立する」という交換理論から捉えたものです。
「リーダーが提供する報酬」には給料や昇進、重要な仕事の割り当てといった目に見えるものだけでなく、信頼や尊敬、注目などの心理的な報酬も含まれます。
「フォロワーが提供する交換」には業務の遂行だけでなく、リーダーへの信頼や忠誠などが含まれます。
リーダーとメンバーの間では、幅広く、さまざまなものが交換されているということがわかります。
今回は、そもそもLMXとは何か?について説明しましたが、次回は、LMXを高めるには?についてまとめたいと思います!