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組織におけるリーダーの「自信の源泉」とは何か。
組織におけるリーダーとは、どんな必要要因が思い浮かぶでしょうか?率先してまとめる、積極的に発言する、責任を負う、周囲を観察する….人によって、色々なキーワードが思い浮かぶのではないかと思います。
今回は、リーダーの自信の形成要因を探求している論文をまとめます。
論文名:組織におけるリーダーの自信の源泉/池田浩さん、古川久敬さん
リーダーの自信とは?
リーダーの自信(confidence of leader)とは、リーダーに必要とされる具体的な役割行動についての可能感を指す。池田・古川(2005)は、リーダーの自信を測定する尺度を開発し、リーダーの自信が、他者との関係性領域(メンバーの育成支援、メンバーとの関係構築、組織内外から支援取り付け)の3次元、および課題遂行領域(メンバーへの権限委譲、問題対処行動、職場内での目標設定、革新行動)の4次元から構成されていることを報告している。
リーダーの自信が、最終的にリーダー行動の個人差を説明できるとすれば、リーダーの自信を規定する要因、つまりリーダーの自信の源泉を明らかにす る必要がある。
リーダーの自信の源泉
リーダーの自信の源泉の第1は、自己の経験の結果が成功的であることによる。従来の関連研究のいくつかは、個人が目標や課題を達成することで自己評価を高めることを明らかにしている(Fry,1976)。これは、課題を達成することで、次の課題においても達成することができるという期待が高められるからである(和田,1992)。
リーダーの自信の源泉の第2は、経験のプロセスからの学習である。本研究では、学習方略として、「経験の振り返り(self-reflection)の頻度」と「経験の意識化(経験間の共通性および差異性の認識、多角的視点)」に焦点を当てる。
以上の議論に基づき本研究では、組織リーダーが自信を獲得するうえで、過去の経験のなかでも「経験の結果」の成功の度合いと「経験のプロセス」の意識化の度合いに着目する。
調査方法
2002年11月から12月にかけて、2通りの方法で調査を実施。企業関係者に調査を依頼した後、管理者に該当する対象者に調査票211部が送付され、171名の回答が返送された(回収率81%)。また、外資系企業で開催された2日間のリーダーシップ研修に参加した20名の管理者に対して、研修初日の終了後に調査票を配布し、研修2日目の終了後に全員の回答が回収された(回収率100%)。
調査内容
リーダーの自信尺度
池田・古川(2005)によって作成されたリーダーの自信尺度が用いて、管理者としてどれくらい確実にできると考えているかの程度を「確実にできる=5」から「できない=1」の5件法で尋ねた。
他者および自己期待の充足度
他者期待と自己期待それぞれ合計8項目を設定。これら8項目について、現在管理者としてどの程度充たしていると思うかについて「非常に充たしている=5」から「全く充たしていない=1」の5件法で尋ねた。
経験の振り返りの頻度
管理者になってからの職務経験のなかで、「最も嬉しかった経験」および「最も厳しかった経験」について一つずつ想起してもらった。そして、それぞれの経験について「今でも、その経験についてよく思い出すことがある」「その経験について、よく部下や同僚に語り聞かせることがある」の2項目について「非常によくあてはまる=5」から「全くあてはまらない=1」の5件法で尋ねた。
経験の意識化
経験の意識化尺度の項目は、古川(2002)のコンピテンシーラーニングの概念に基づいて作成。(a)共通性:「人の話を、自分のことと重ねながら聞くことが多い」など5項目、(b)差異性:「よその職場と、自分の職場との違いを知ることに興味がある」など3項目、(c)多角的視点:「どのような問題も決定するときは、その問題のあらゆる側面から考える」など6項目について、それぞれ「非常によくあてはまる=5」から「あてはまらない=1」の5件法で尋ねた。
フェイスシート
年齢、性別、管理者の職位、管理職経験年数および職種を尋ねた。
結果
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・リーダーの自信の源泉要因の相対的な強さを見ると、リーダーの自信の高さに対する他者期待と自己期待の充足の効果が、経験の内的処理(経験のプロセスの振り返りの頻度や意識化)のそれよりも高いことを示していた。
・さらに、期待充足においては、他者期待の充足の効果性が、自己期待のそれを上回る傾向が認められた。
→リーダーは経験の結果を通して他者期待を充足し、役割行動を行えるという認識を高めるようになると考察できる。
・経験のプロセスからの学習の効果であるが、経験間の共通性の意識化は、5次元のリーダーの自信に関与し、中でも革新行動の自信には相対的に強い関係性を示していた。
→この結果は、多様な経験間の共通性を認識することで共通原理や法則性の抽出につながり、組織の変革にかかわる革新行動の自信の獲得につながることを示唆している。なお、経験のプロセスの振り返り頻度の効果も、嬉しかった経験のみが他者との関係性領域に対して効果を示すパターンが確認された。しかし、厳しかった経験の振り返りの頻度は、すべてのリーダーの自信に対して全く関係性は認められなかった。
このことからも、
✔ リーダーの自信は、経験そのものよりも「他者期待に応えた成功体験」によって形成される。
✔ 経験の振り返りが有効なのは、異なる経験の共通点を意識し、そこから原則や学びを抽出すること。単に振り返るだけでは効果が薄い。
✔ 「厳しい経験の振り返り」は自信向上にはあまり貢献しない。
このことから、リーダーの育成においては、「他者からの評価や期待に応えられる経験」を増やすことが自信を高めるカギとなり、経験を振り返る際は共通するパターンや学びを意識することが重要だといえます。
確かに自分自身も振り返ると、他者からの期待に応えて、喜んでもらえた時、チームとして喜びを分かち合えた時、貢献できたと感じた時に自信が育まれていったなあと思います。改めて自信とは、自分一人だけで育むのではなく他者の存在が重要であるということに気づきました。
そして、「困難な経験を振り返ること=成長」ではなく、むしろ、ネガティブな経験を何度も思い出すことは、リーダーの自信には寄与しない可能性があることも興味深かったです。