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夫を拒絶した私と、悲しみと、愛情

この本を図書館で見つけたとき、タイトルの秀逸さに思わず笑ってしまった。

『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』

なんともストレートに痛いところを突いてくる。
「まさに私に必要な本だ」と、思うママも多いかもしれない。
私もそのうちの一人であった。かつては。

冒頭、著者は出産後にどんなささいなことで、苛立つようになったか、夫を罵らずにはいられなくなったか、ということを綴っている。

それだけ聞けば、「おぉ、怖っ」と思われるかもしれない。やっぱり女は、子どもができると変わってしまうのだ、などと言われそうなものである。

確かに、出産という人生の一大イベントをへて、まったく何も変わらずにいられるかというと、「それは無理だ」と言わざるを得ない。
(この文を書いている私は、三児の母である。)

けれど、けっしてまったく別の生き物に生まれ変わり、夫をゴミみたいに扱うようになるわけではない。

先に挙げたタイトルをもう一度よく見てほしい。

『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』

たしかに夫を憎く思っている。
でもね、憎く思いたくないから、こんな本が必要なのである。

大半のママは、夫を愛していると思う。
(少なくとも私は、愛している。)

愛しているから結婚したのだし、この先もずっと愛していたいのである。

それなのに、出産というあまりにもインパクトの強い出来事が、私たちに愛を貫かせてくれない。
だから、つらい。

この本の著者も、自分がいかに夫に苛立つかという話をしながら、でも夫を愛しているし、本当はとてもいい人なのだとしきりに訴えている。
言葉の端々から愛情がにじみでていて、そこがまた胸を突く。

*

次男が生まれてしばらくたった頃だった。

私は夫に触れられることに嫌悪感を抱くようになっていて、それをどう伝えるべきか頭を悩ませていた。

触られたくないと思うことは、夫を嫌いになったこととイコールではなかった。
好き嫌いとはまったく関係のないところで「触れられたくない」という強烈な感情が湧いていて、自分ではコントロールできなかった。

触れて欲しくない、けれど夫を傷つけたいわけでもない。

「今は、触ってほしくない」
「あなたにも、長男にも触れられたくないの」と、私は言った。

そのどちらも嘘ではなかったし、あなたを否定しているのではないと伝えるための苦肉の策だった。

でも、ある日。

キッチンで作業していた私の胸に夫が触れようとしたその瞬間。
なにか考える間もなく、私は夫の手をはたき落としていた。

自分がなにをしたのか、わからなかった。
反射的としか言いようがなく、けれど強烈な嫌悪感を持って、私は夫を拒絶していた。

そのときの夫の顔を、私は今も覚えている。

驚きと、悲しみ。

でも。

夫もまた私を見て、気づいたのだと思う。

夫を拒絶し、傷つけたはずの私自身が、深く傷ついているのだということに。

なにも言えなかった。
夫も、私も。

*

さいわい私たち夫婦は、この危機を乗り越え、あらたなパートナーシップの段階へと歩を進めることができた。

もう私は、夫を憎く思うこともなければ、拒絶することもない。
ハグしてくれる夫に愛情を感じるし、セックスレスとも無縁の夫婦生活を送れるようになった。

どうやって乗り越えてきたのかは、長い物語になるので他の機会に譲るが、なにかひとつ言うとするなら「その瞬間だけの相手をみて判断しないで欲しい」ということだ。

あなたたちには歴史があるはずだ。
知り合ったばかりの頃、付き合っている最中、結婚してから、子どもができてから。

彼は、彼女は、どんな人だった?
今この瞬間、どんなにひどい相手だったとしても、そこには理由があるのかもしれない。

「この人はもう変わってしまったのだ」とか、「もう愛情がなくなったんだ」とか、見限ってしまうのではなく、あなたが愛したその人を、信じ、愛しつづける努力をやめないでほしい。

愛しつづけることは簡単ではないけれど、ひとつひとつハードルを乗り越えていったその先にあるのは、穏やかで満ち足りた愛おしい世界だから。

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