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【ショートショート】マジパンおやじ

 この日、大家族として度々テレビ等で紹介されている小海家では年中行事の1つであるクリスマスパーティーが開かれる。
そしてクリスマスケーキ到着前に男4人、女5人の子供達による「マジパンおやじ」争奪戦が行われていた。
この兄妹が「マジパンおやじ」と呼んでいる物はクリスマスケーキの上に乗っている食べられるサンタクロースの事で、親の予算以内でのプレゼントの調整や部屋の飾り付け以上に兄妹にとって大事な物であった。
ケーキの配分が少ない分、1つしかない「マジパンおやじ」を誰が貰うかで毎年兄妹同士の醜い言い争いが起こり、勝者は年越しまで悦に浸り、敗者達は涙目でそれぞれのプレゼントを眺めながら眠るのであった。
少し前髪が気になりだした次男も、普段大人しい四女もこの「マジパンおやじ」ばかりは譲れなかったのだ。
「お兄ちゃんが掃除サボった分私がやってるのよ!」
「お前さぁ、たかしにこっそり電話してただろ。友達の所には1回5分までって決まりだろうが。何で30分も話してんだよ!?色気付きやがって!」
「靴下もお下がりなんだぜぇ。マジパンおやじくらいくれよ。」
「夏休みの宿題手伝ったでしょ?」
「私のコーラ飲んだでしょ?」
「一昨日お前のだけ手羽先一本多かった!」
毎年これだけの言い争いの後、結局最後はじゃんけんで「マジパンおやじ」の所有権は決まるのだが、言い争いが省かれる事は常に無かった。

 目も耳も塞ぎたくなる様な応酬が続く中、玄関のドアが開き父親が帰ってきた。
「ただいまぁ、いやぁ、疲れた。ケーキ買ってきたぞぉ!」
これだけいる中で1人足りとて父親に「おかえりなさい」を言う者は無く、玄関へ飛び出た三男が父親からケーキの箱を奪い去り居間のテーブルの上へ置くいて箱を開けると兄妹全員が集まって「マジパンおやじ」の状態を確認する為にケーキを覗き込んだ。
今年の「マジパンおやじ」は頭から白い毛の様な物が生えていた。
父親が「ケーキ屋さんも大変みたいでなぁ、今年はデコレーションが少し違うけど味は変わらないとよ。ここのケーキは美味しいからなぁ。皆よかったなぁ。」と言った。
その後、小海家は頭から炎を上げて崩れ落ちていくサンタクロースを眺めながら楽しいクリスマスイブを過ごしたのだった。




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