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ウルルでのガイド経験を通して学んだストーリーテリング技術

野心に燃える若き新人ツアーガイドは、いろんな先輩たちの話を切り取り、貼り付け、資格講座の話を引っ張り出しては付け加えて、どうしたら伝わるか経験を重ねた末に、半年後には、私の担当したバスでの登山者激減にもかかわらず、満足度アンケートでも高い評価をいただけるようになりました。
私が観光業についた理由に直結する成果であって、単純にとても嬉しかったのに加え、テクニックの部分ではどんな職業にも応用できる部分があると思うので書き留めておきます。

まず考えたのは、話を聞いてもらわなければ始まらない、ということでした。
ツアーシャドーイングをして気づいたのは、意外と観光客のみなさん話聞いてないなということでした。早々にイヤホンをつけたり、長旅の疲れで眠ってしまったり…登山が目的の人であれば特に、バスはただの移動手段。わかる。わかるけど…それじゃわざわざ余分にお金出して日本語のガイドツアー頼んだ意味なくない?

まずは、いかに人の耳を惹きつけるか。
まず一番最初に笑ってもらうことが大切だと思いました。
いわゆるアイスブレイク。
基本中の基本、しかしとっても大事。
この人、面白い。面白い事言いそうと心のどこかに印象づけることで聞いてもらえる率がかなり上がります。
私の場合はまず挨拶2パターン
すごく元気に「みなさんこんにちわ!」といって
・何も返ってこない、もしくは声が小さい
→帳簿を何度も確認しながら小さい声でぶつぶつ「あれ、おかしいな…40人くらいいはず…え、もう一回…?」と小芝居を挟んでもう一度
→たいていクスクス笑いが起きて一回目よりも返事をしてくれる人が増える
→「あー!よかったー!全員置いてきたかと思ってびっくりしましたよー」とまた小芝居。
・元気に返ってくる
→いつもはみんな疲れてるから「こんにちは…(ボソッ)」ってしか返ってこないんですよ!すごい!優秀!と大袈裟に褒める。
演技力が問われます。思い切りやらないと寒い感じになります。
うまく決まると次の日のサンライズではもうお決まり感がでて、挨拶するだけでちょっとウケます。
まずは挨拶で一発、入園で一発、そして本格的に長いドライブが始まるまでに押しのもう一発。そこまでで笑いが一回でも起きれば行けると思っていました。
経験豊富なちょっと怖めのドライバーと一緒になってしまって緊張していた時、「お前のガイディングはいいな。笑いが起きる。大事なことだ。ここの日本語ツアーは笑いが足りない」とお褒めの言葉もいただけたので、やはりアイスブレイクは大事です。
演技力と思い切りがとても大事です。お手本はUSJのターミネーターの前座のお姉さん、綾小路さんです。
研修とかの前によくあるようなゲームとまでは行かなくても、少し声を出す等参加型の方が一体感が増します。
1人対大勢の時だけでなく、一対一、例えばオンラインでのレッスンや商談、手家電のセールスでも同じでした。まず1番最初の目標は、相手の笑顔を引き出すことです。

そして次に気をつけたのはスケジューリング。
全体の流れの中で確実にお客さんが話を聞いてくれるタイミングを探す、そしてその後に余韻を残すことでした。
私の場合は、初めのアイスブレイク→長いドライブが始まった時に「疲れた人は寝てても大丈夫ですよ」という声かけをした上で、元気な方向けに、窓の外に今現在見えている動植物の話などのトリビア的なことをラジオ感覚でお話し→一つ目の散策に入る→少し歩いてリフレッシュした後の一番いいタイミングで今後の予定などの事務的な話を手短にしてから、ちょっと声色を変えて本題に入ります。
簡潔にわかりやすく、順序立てて。
話終わったら、散策で疲れたと思うのでゆっくり休んでください、と黙る。
さっきまで喋っていた人が急に黙ると、直前に聞いたことが頭に残ると思うんです。その時間をゆっくり考えたり、一緒に来た人とそのことを話題にする時間にしたり、思い思いに過ごすうちに、サンセットの神々しいウルルが見えてくる。歴史を聞いて色々と考えた後だと、一番最初に公園に入ってすぐ、興奮とともに見えたウルルとは少し違って見える。
こうしてその時その時起こっていることにそって、その時のスケジュール、声色などでメリハリをつけながら話を進めることが大事です。
現在これは英語や日本語講師の資料作成に生かしています。

最後に、気をつけすぎなくらいに気をつけていたのは、語感に、責めるような雰囲気が入らないようにすることです。
感覚的な表現で申し訳ないのですが、何か言いにくいことを伝えようとする際、現状に対する憤りが言葉に出てしまうと、どうしても聞いた側は攻められたような印象や反論したい気持ちになってしまいます。
具体的にいうと、相手の思いを代弁した上で、問題の致し方なさを言語化すると納得して貰いやすいと思います。
例えば私はよく、ウルルに登らないでくださいというアナウンスメントをする際、日本の山岳信仰と現地の信仰の衝突だと思っています、と語っていました。日本人は「神聖な山ならば是非登りたい」と思うのに対して「神聖な場所なので登らないで(めちゃくちゃ簡略化してます笑)」という現地の人の思いの違いなんだと話すと少し理解が深くなるように思いました。来てくれた人の、ありがたいと思う気持ちや、登りたいという気持ちも汲み取るように、どうしてこうなってしまっているのかを、分かりやすく、相手が受け入れやすく話すことに努めました。
そして「せっかく余分にお金出して日本語ツアーに参加したんだから私と麓散策してここの文化を学びましょうよ」という、ポジティブな部分に焦点を当てて、なるべくライトに話すように努めました。
それまでに信頼関係ができていると、それで笑って一緒に来てくれたりするのです。
元パートナーにもこれすごく使ってたけど、だんだん私が疲れてやめました。相互にこういう伝え方ができる関係だといいですね…

とまぁとても基本的な事ですが、こういった話術というか、人との話し方はここで培ったので、もし今接客業で悩んでいるよ、って方のお力になれればと思います。


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