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大人の遠足―佐賀 肥前浜ほろ酔い旅 Sep14.2025

時々、何の予定も無い休日に電車やバスに乗って近場の、だけどあまり行ったことのない街へと出かける。大人の遠足というやつだ。

路線図とにらめっこして、この辺りなら日帰りでも行けそうだと目星をつける。見慣れた駅と駅の間に聞きなれない地名が無数にあって、どんな街だろうかと思いを巡らせる。

普段はもっぱら車で移動するので、公共交通機関を使うというだけで何だかわくわくする。その空間の中に自分達しか居ないプライベートな車とは違って、色んな他人と空間を共にする。時間だって自分たちの思い通りにはいかない。そんなささやかな不便すら旅の醍醐味となる。

先日は、佐賀県鹿島市のJR肥前浜駅へと行ってみた。鹿島市と言えば、酒蔵の集まる酒処、3月の酒蔵開きにはこの小さな駅に10万人もの人が押し寄せるそうだ。また、肥前浜駅には角打ちがあるらしいという情報を得ていたので、日本酒を堪能することを主な目的にして向かった。

電車に乗り込み、どんどん広くなってゆく景色に時折目をやりながら編み物にいそしむ。普段は、本を持ってゆくこともあるし、行先の情報をスマホで調べていることもある。この日はあまり調べずに行ってみようと思い、電車の乗り換えや時刻を調べた以外はほとんど情報を調べずに向かった。

電車に揺られること二時間とちょっと、編み物に集中していたからあっと言う間だった。降り立つと小さくてかわいらしい駅舎がお出迎え。さて、どこに行こうかと駅で観光地図を手に入れる。

せっかくなので、あの有名な祐徳稲荷には行っておきたいが、その前にどこかで昼食でもと、とりあえず地図を頼りに歩き始める。観光客もちらほらいるが、それにしても静かな街だ。

駅から5分ほど歩くと伝統的な街並みとして国の指定を受けているという通りに辿り着く。道の両脇に白壁の古い酒造や元魚市場などの建物が立ち並ぶ。これがちょっとした観光地なら、おしゃれなカフェや雑貨店などに改装されているところなのだが、肥前浜はそうではない。何を売っているのかよく分からない商店が時々ある程度、ほとんど寂れているのだが、それがまた味わい深くていい。

そういえば、私はここへ来る前日にふと思いついたことがあった。それは着いた先で宝くじ売り場を見つけたら、スクラッチを買おうということだ。こういう時は当たるのだという謎の自信すら覚えながら、もしも当たったら美味しいものでも食べて帰ろうと心に決めていた。

しかし、この静かな街には当然宝くじ売り場などありそうにない。まあそれも運かと思い、昼食を食べてから祐徳稲荷へと向かった。祐徳稲荷へはバスで10分ほどで行くことができる。バスが一時間に一本くらいしかないのが難ではあるが。

稲荷というのは、どうにも緊張する。身近に稲荷というものがなかったせいなのか、狛犬のあるはずの場所に見慣れないほっそりとしたお狐様が鎮座しているのなんかを見ると、なんだかそわそわしてしまう。

祐徳稲荷は想像以上に立派な神社だった。極彩色の見事な装飾が施された本殿がそびえたつ。どこからやって来たのか、ここにはアジア系の観光客がたくさんおり、写真を撮っている。その日はほとんどがシャッターを降ろしていた参道も、その広さから往時の賑わいを想像することができる。

その稲荷を参拝した直後、見つけたのだ「宝くじ」の文字を。参道の鳥居を出てすぐの土産物屋と奥が食堂という店に、なんと宝くじののぼりが立っている。行きにも通ったのにさっきはなぜか目に入らなかった。

本当にこんなところで宝くじが買えるのか?と半信半疑で、店のおばさんにスクラッチはありますかと声をかけた。すると、ちゃんと買えるという。ここは慎ましく、一枚のスクラッチと店頭で蒸していた酒饅頭をひとつ購入する。

おばちゃんが酒饅頭を取り出している間にスクラッチを削る。緊張の一瞬。

出た!アタリ!200円?!さっきおばちゃんに払った200円が返ってきた。200円と酒饅頭を手渡しながらおばちゃん、「いつもは白だけなんだけど、今日は珍しく紅の饅頭もあるのよ!」と。

狐につままれたような、というのはまさにこのことなのか。稲荷に一杯食わされたようで、しかし、当たったことに違いはないし、運が多少良いらしいことには違いない。この可笑しな出来事に笑いながらほおばった酒饅頭はほかほかで美味しかった。

それなりに街歩きを楽しんで早々に駅に戻ってきた。目的は本日のお楽しみ、駅の角打ち。帰りの電車まではゆうに一時間半ほどある。帰りの電車ぎりぎりまでお酒が楽しめるというのはいいものだ。目の前がホームだから、よほど酒に呑まれなければ、乗り遅れる心配もない。

地元の6つの酒蔵の飲み比べセットにこれまた地元の粕漬などの珍味をあてに、明るいうちから呑みを楽しむ。ああ幸せ、これを幸運と呼ばずなんと呼ぶ。

良い感じに酔いが回って来たところで、電車の到着5分前。さっと会計を済ませて、目の前のホームへ移動する。思いつきで来た割にバスも電車のタイミングも絶妙で、これもお稲荷様のご利益かしらと感謝しながら帰路につく。今回の遠足も大満足の一日だった。


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yuki
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