なぜ、Zebras and Companyを立ち上げたか 〜多くの人の挑戦を後押しし、手触り感のある社会を作るために〜
「挑戦を応援できるベンチャーキャピタル(VC)の仕組みは素晴らしいが、VCの対象にならなくても、社会的に意義があり、かつ経済的に成長する企業がある。」
「そうした企業に対して資金や経営資源・ノウハウが提供される仕組みが弱い。」
そんなことを感じ始めたのは5,6年くらい前のことでした。
本稿では、自分がなぜ、Zebras and Companyという新しい会社を立ち上げ、何をしようとしているのか、その経緯と思いを書いてみました。
2015年:ある起業家の講演の衝撃
「こんなに違うことを考えている経営者がいるのか...!」
2015年、ある地方の著名起業家の講演を聞いた時に、自分がそれまで見てきた“スタートアップ”、“VC”の常識と、その起業家が話す経営姿勢があまりに異なっていたために、大きな衝撃を受けたことを未だに鮮明に覚えています。
経済産業省を退職して1年弱が経った頃。ようやく“ビジネス”というものに慣れ始め、ちょうど、ベンチャー投資の実務を学びつつ、支援先の企業と一緒に、悪戦苦闘しながら事業開発に取り組んでいた時でした。
その経営者が言っていた具体的な例をあげると、
「意思決定、経営判断は『100年続くのは何なのか』という軸。
ベンチャー企業の社長には、”ブランド化して、いろんなものにマークつけて売れば良いのに”と言われた。
でも、それは、ブランドを早く償却させている。
”モデルを一つ作ったんだから、他の地域に拡大していけば良いじゃん”という声もある。
でも、それではブランドストーリーもぶれるし、品質も下がる。
長く続くように、ぶれないようにと考えてやってきた。」
「100年続く会社であるために、早々に次の世代に引き継げなきゃいけないと考えている。
老舗の会社は、社長が常に次の代のことを考えている。
自分の個人技で大きくしないことを意識している。」
「急成長した後に業績が下がったら、働いている人や供給者の人が困る。
だから、上ぶれることも含めて、業績の変動はできるだけ抑えたい。」
といった内容でした。
(出典:写真AC)
スタートアップが大切にするような、
「自分たちの経営資源を何でも良いからできる限り有効に使って、とにかく早くスケールする。」
「多少のリスクは気にしない(できない)。事業とは、崖の上からから飛び降りながら、飛行機をつくるようなものだから。」
といった感覚とは大きな乖離がありました。
その頃から、経営における意思決定の軸は多様であること、
構造的に(個人の特性・性格などでなく)、VCが重視せざるを得ないことを意識し始めました。
たとえば、VCは、自分たちの投資家へのリターン・説明責任のために、3-5年程度ので上場を目指し、10-15倍程度のリターンが見込める企業に投資して、株主価値の最大化を求めていくことになります。
必然的に、意思決定の軸は、さきほどの起業家がいう「100年続くか」といったものとは大きく異なったものにならざるを得ません。
どちらが良いというものではないですが、時に、具体的な意思決定の場面では、これが大きな意見齟齬の原因になります。
(出典:写真AC)
VCが持つ強みと制約
私自身、2014年にVCに転職して以降、その職業、そして金融という仕組みに強い魅力を感じてきました。
前職のVCは、まだ投資先が設立される前のフェーズで1,000〜3,000万円の投資をコミットすることもあり、
また、一緒に働かせていただいた著名なキャピタリストは、精緻な事業計画が無い段階で、出会って数十分話しただけで数億円の出資をコミットすることもありました。
同時に、何度も創業・新規事業に寄り添ったことがあるVCのサポートを受けることで、投資先の成長が促進されること、窮地が救われている状況も目の当たりにしました。
(“構造的に”、融資を提供する金融機関では、こうした手厚いサポートができないことも、VCに転職して実感しました)
そして、そうして投資された企業のうちのいくつかが、サービスを公開し、実績をあげ、数年のうちに新たな社会の仕組みを作っていくことを目撃してきました。
そうした仕組みを見れば見るほど、「VC」という仕組みのすごさと、それがごく一部の、限られた対象にしか提供され得ないことへの歯がゆさのようなものを感じてきました。
著名キャピタリストの存在
もう一つ、今回のチャレンジをしようと背中を押された要因の一つが、一緒に働かせていただいた、その著名キャピタリストの存在です。
彼は、独立系VCの草分け的存在で、今でも日本を代表するキャピタリストですが、彼が独立した頃の話を直接・間接に伺えば伺うほど、今、自分がやるべきことがVC業界の外にあるような気がしてきました。
もちろん、シリコンバレーに比べて日本のスタートアップエコシステムは未成熟だと言われていますし、資金流入も少ないと言われています。
一方で、ものすごい優秀な方々が、起業家・ベンチャーキャピタリストとして参入してきていて、自分が提供できる付加価値はあまり大きくないということも、4年間のVC生活の中で実感してきました。
独立系VCを創成期に立ち上げ、今のVC業界を作ってきた方々のように、新しい領域に挑戦し、新たな仕組みを作っていった方が良いのではないか。
いつしか、そんな風に思うようになりました。
私たちが目指すもの
「VCの対象にならない企業の中で、社会的に意義があり、かつ経済的に成長する企業を応援していく」
一言でそういっても、非常に範囲が広く、かつ、対象も曖昧でした。
そんな時にヒントをもらったのは、今年で還暦になる先輩経営者でした。彼に対して問題意識をぶつけた際、彼は
「その役割は、昔は地域金融機関が担っていたんだよ」
と、静かに呟きました。
彼自身、類似の課題意識を持って自身の事業に取り組んでいたところであり、その人の事業の動向を見たり、特に地域で創業・成長支援を行なっている方々との意見貢献を経て、大きな示唆を得ました。
今回の会社のミッションの一つは、地域金融と地域における経営資源・ノウハウの流通を改善していくことであると感じています。
率直にいって、自分たちが挑戦しようとしている領域は、あまりにも広すぎる、まだまだ対象が絞れていません。
今回、資金調達を行う中でも、多くの方々から、もっと対象を絞るべきだというアドバイスをいただきましたし、「利益を最大化する」、「勝ち抜く」のであれば、そうした方が良いのではないかと自分も考えています。
一方で、私たちが「経済的成果とともに、社会的インパクト(影響)を追求する」企業を応援するのと同様に、私たち自身も社会的インパクトを追求しています。
下図で示す通り、こうした領域への資金供給の増大と、そうした経営を志す経営者・サポーターを増やしていくことを目指しており、
そのためには、あえて対象を絞り切らずにムーブメント・コミュニティづくりに取り組むことで、より多くのプレイヤーを呼び込めるのではないかと考えています。
(出典:Zebras and Company)
まだまだ役人だった頃の感覚が抜けきっていないのか、自分個人の感覚としては、このZebras and Companyは、公共的な性格を合わせ持つ組織であると感じており、
様々な方々に「対象が広すぎる」とお叱りを受けながらも、現時点においては、あえて広いかまえで、事業に取り組んでいこうと考えています。
(数年以内に、より市場が細分化・セグメント化されていくようにしていければと思っています)
手触り感を持って挑戦していくということ
私は、経済産業省にいるときには、「日本をよくしていくことはかなり難しい」と感じてしまっていました。
どんな社会課題でも、数多くの関係者が、構造的に縛られたインセンティブに沿って動いており、デッドロックに陥っている。
そして、そうした構造下においては、自分自身が直接及ぼせる影響は極めて限定的である。
そんな風に感じていました。
一方で、経産省を退職してからの7年間で、たとえ小さくても、自らの手触り感を持って挑戦していくことの楽しさと、
そうした挑戦のうちのいくつかが、人々を笑顔にでき、社会を少しだけよくできるということを経験してきました。
そうした“手触り感”を持って、楽しく挑戦できる人を増やしたい。
それが、私が、このZebras and Companyを通じて取り組みたいことの一つです。
(先ほど示した図に「挑戦機会の拡大」が掲げてあるのは、こうした背景によるものです)
(撮影:澤圭太)
「仲間と作る現実は、自分の理想を超えていく」
まだまだ航海は始まったばかり、どんな荒波が待ち受けているか、自分たちでも、どきどき・わくわくしています。
(どちらかというと、どきどき・不安の方が大きいです)
「仲間と作る現実は、自分の理想を超えていく」
最近伺った、とある先輩経営者の言葉を胸に刻み、ぜひ、多くの方々と一緒に、この取り組みを進めていければと考えています。
ぜひ、みなさんも、今日から本格始動するZebras and Companyというこの会社に、関わっていただけたら嬉しいです。
<同社のプレスリリースはこちら>
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000081881.html
<同社のWebページはこちら>
http://www.zebrasand.co.jp/
<日経新聞にも取り上げていただきました>
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC201J40Q1A620C2000000/
<Forbes Japanにも取り上げていただきました>
https://forbesjapan.com/articles/detail/41940/3/1/1