見出し画像

IBSA柔道グランプリ・ヌルスルタン2022

5月22日〜5月31日でカザフスタンへ遠征へ行ってきました!
今回はその遠征の振り返り、柔道編です。

今大会への参加の主目的は、試合よりクラス分けの受検でした。
IBSA JUDOでは2022年から新しいクラス分け基準を適用しています。

これによって、これまでのB1〜B3のクラスは全てリセット。全ての選手が新たにクラス分けを受け直さなければならなくなりました。

今秋に控える世界選手権に向けて、そこに出場を目指す選手はそれまでにクラス分けを受けておく必要があります。
クラスがどちらになるかはっきりしない選手や、そもそも出場資格を満たしているか分からない選手は特に重要な手続きになります。

今回私が派遣されたのも、出場資格を満たすかどうかが怪しかったことが大きかったようです。
私自身それは自覚しており、この約半年間、このことばかりが気になっていました。

とりあえず、今回のクラス分け受検によって、その心配は払拭されました。
それが試合2日前のこと。


そこから試合に向けての気持ちを作っていくのはかなり難しい。もちろん、試合に出ることになっても問題ないような準備をしておかなければならないことは重々理解していましたし、そうしようと思っていましたが、正直ムリです。

そして、今回はかなり長時間の移動。ただでさえ仕上がっていない体に疲労も加わり、体の調子は最悪でした。
減量がなかったのが唯一の救いです。いや、減量があればもう少し緊張感を持って遠征に臨めたかも?

試合3日前から試合前日にかけて、1時間ずつ事前練習を行いました。

初日はとにかく体が重い。すぐ疲れる。ストレッチに力を入れつつ、打ち込みと動きの確認、投げ込みを少し。
2日目は幾らか改善。投げ込みを多めにしながら調整。3日目・試合前日になると、クラス分けを通過したこともあり、前2日よりかなり動けるようになりました。本調子とはいかないまでも、前の日よりも着実に動けている実感があったので安心。ストレッチを多めに入れて試合に備えました。

そして試合当日。
いつも通りのルーティーン的なアップから打ち込み。調子はかなり良い感じ。その後対戦相手の対策の確認。前日の夜にドローの結果を見てコーチの先生方と相手を研究していたので、その振り返り・再確認です。
私は、試合の中で「ここだけは徹底する」ということをひとつ決めておくことが重要だと思っています。
ちなみに、一回戦のポイントは「釣り手を伸ばされないように、自分の引き手側へ相手を引き出すこと」

幸い試合順が遅かったため、ゆっくり時間を使えました。一度温めてから休憩。試合が近づいてくると再度動かしつつ、ポイントを再確認。

組み合わせ。出場選手は10人で、前回より増えましたが、まだ少なめです。


一回戦の相手はイランの選手。
旧66kg級のアジア・オセアニアチャンピオンです。
試合内容は背負投げで技あり、その後大外刈りを返して一本勝。
概ね試合の運びなどは良かったですし、背負投げでポイントを取った時の技の流れも良かったように思います。欲を言えば一本を取れるようにもっと懐に入り込みたかったですが。

反省としては、途中何度か釣手が伸ばされてしまったこと、大内刈りが上向に力が入ってしまっていること、返し技が中途半端であること、などです。今後しっかり修正していきたいです。

二回戦の相手はドイツの選手。
旧73kg級で東京2020時点の世界ランキング1位の選手です。日本チーム内では通称「ニコライさん」。
ドイツチームは東京パラでのホストタウンの上越市に何度か合宿に来てくれていました。その際に数度乱取りをしたことがあり、ニコライさんもそれを覚えてくれていました。

試合内容は背負投げから袈裟固めで合技一本勝ち。いかにも"私の試合"というようないつものパターンです。反省としては指導をひとつとられたことですが、それさえも様式美と言えるような気がします。
もちろん、改善できるよう努めますが。

二回戦の様子

これで決勝進出。表彰台は確定しました。これまで(東京国際を除けば)国際大会で、準決勝以上に進んだことがなかったので、思っていたよりあっさりと決勝に進んだことに自分でもびっくりしていました。

決勝ラウンドは午後からということで、一旦ブレイク。ストレッチをして、スイッチを切ります。
昼食は軽く食べたあとは、眠らないように先生方と雑談したりオープニングセレモニーを鑑賞したりしていました。

オープニングセレモニーの様子

午後のスケジュールを見ると、J2-73kgの決勝は一番最後。午後の部が始まってからも、1時間半近く待つと予想されます。
ですので、ゆっくりとまたストレッチから始めます。朝と同じようにルーティーン的なアップから打ち込み。そして動きの確認です。

決勝戦の相手はカザフスタンの選手。
旧60kg級でランキング2位、世界選手権優勝の選手で、去年突如として66kg級に上げてきました。私の知る限り、それ以降(失格による不戦敗を除いては)彼は負けていませんでした。今年2月のドイツオープンでも73kg級で優勝しています。
そして何より私が一番苦手なタイプの柔道をする選手です。
長身で、釣り手で肩越しに帯を持って、巻き込み系の技をかけてきます。さらに、パワーも強そう。
さらに言えば、大会開催地はカザフスタンの首都・ヌルスルタン。完全アウェーです。

の割には、あまり緊張していなかったように思います。コーチの先生方のおかげでしょうか、リラックスして試合に臨めました。

決勝戦開始前

試合内容は序盤から帯を持ってくる相手に苦戦し、小内刈りに合わせて裏投げを仕掛けますが、こちらが先に畳に落ちていたようで技ありを奪われます。私としては完全に投げたつもりだったので、審判の「技あり、白」の発生に少し動揺しました。この瞬間首が空いていました。気をつけます。

しかしこの技ありで相手が緩んだのか、私が焦ったのか、次の開始際、背負投げで技ありを返しました。身長の割に低く入ったこともあり、かなり横にかわされていましたが、押し込むことができました。

最後は相手の小内刈りを再び返して技あり、合技一本です。
これはうまく反応できたと思います。しっかりと腰を落として受けることができたのが良かったです。

しかし、この判定には映像確認で約1分半を要しました。その間会場の各所から「Waza-Ari! White!!」と声が聞こえてきて、ずっと負けたのかもしれないと思っていました。アウェーは怖いですね。
もちろん自分では投げたつもりでしたが、1度目のこともあるので、確信は持てません。

ようやく主審が動きました。

「技あり、合わせて一本、白」

「マジかぁ…」そんな気分でした。後から映像で見ると電光掲示も白の一本、観客は超拍手です。
「まぁ、仕方ないか」くらいで礼をしようと一歩下がった時、勝ち名乗りの審判の手がこちらに上がっていることに気がつきました。
「え、オレ?」一度困惑しつつも、礼をしている時は「やったぜ」的なことを思っていたと思います。

決勝戦の決着

しかし、相手は納得しません。そりゃそうです。今のは審判が良くない。
後から映像を見ると、完全に私のポイントなのは間違いありませんが、試合当事者はどちらも自分が投げたつもりでいますし、ましてや審判が「白」って言ったのに、青の方に手が上がれば、困惑するでしょう。
審判の言い間違いと掲示板係の方のミスによって微妙な感じで、私の初の世界タイトル獲得は確定しました。

この試合の良かった点としては、相手の変則的な組手や技に対して冷静に対処できたことや、しっかりと腰を落として待つことができたことなどが挙げられます。反省点としては、途中技ありをとった背負投げ以外にほとんど技が出せていないこと。変則的な組手の相手にどう技を仕掛けていくかを今後しっかりと研究していく必要があります。
全試合を通して良い点悪い点はありましたが、ひとまず「優勝」という結果を掴むことができてとても嬉しく思います。


決勝が終わって、さあ、ここから大変です。
最後の試合ということは、その後すぐに表彰式。しかし、私は青の道着を着ています。表彰式は白の道着です。

めっちゃ急いで着替えます。その間、ずっと係のおじさん方の「Yujiro~!!!!」と私を呼ぶ声が聞こえてきます。「Wait a minute!」と私を急かしにきたボランティアの女の子に伝えながら練習会場で着替えました。

表彰台に上がった経験なんてほとんどありません。以前から表彰式には靴を履いて行けと教わっていたので、コーチの先生が預かってくれていた靴を慌てて履きながら入賞者の列に並びました。

すぐに表彰式が始まり、表彰台の後ろに立ちます。そこで気づきました。
誰も靴履いてない!!
3位の選手が表彰台に上がりますが、裸足。表彰台の下に靴はない。反対側を見ると2位の選手は表彰台の後ろにまだ立っていますが裸足!

こっそりモゾモゾと靴を脱ぎます。
名前が呼ばれるまでには間に合いました。何食わぬ顔で表彰台の一番高いところへ。次からはせめて脱ぎやすいサンダルくらいにして様子見しよう、そんなことを考えた初めての1st place…

表彰式の様子

メダルをもらったあとは、国歌の演奏です。東京パラリンピックでは君が代を聞けなかったことをとても悔しく思いました。それ以来、国際大会の表彰台で君が代を聞くことがひとつの目標になっていましたが、こんなに早く聞けるとは自分でも思っていませんでした。

君が代
念願の表彰台での君が代

階級が変わり、クラスが変わり、自分にはもうチャンスがないのかもしれないと、半ば諦めていたこの半年。
試合に出るだけが柔道じゃないと考えて稽古を続けてきましたが、やはり諦め切れはしないのか、ずっとモヤモヤした気持ちでいました。

今回再びチャンスが巡ってきて、しっかりとそれを掴むことができた。もちろん今回の大会はグランプリの中でも出場選手が少ない方ですし、強豪選手が全員出揃っているわけでもありません。さらに他の選手も調整不足が見て取れる選手が多くいました。なにより私自身がこの半年の中途半端な稽古や今回の試合に対する姿勢や調整方法など、まだまだ改善できる点、成長できる箇所がたくさんあります。

パリに向けて挑戦する資格を得た今、もう迷わずに「目標はパリでの金メダル」と言うことができます。その目標を達成できるよう、今後も努めていきたいと思います。

表彰式の後、記念写真を撮ってたら照明を落とされました…


クラス分けに関して考えたことは後日改めてnoteに書いておこうと思います。いろいろと考えては迷った約半年でしたが、ここで考えたこともきっと財産になるはず。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?