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第37回全日本視覚障害者柔道大会

9月11日に東京・講道館で開催された第37回全日本視覚障害者柔道大会に出場しました。

全日本大会は年に一度開催されており、現役選手だけでなく、柔道を始めて間もない選手から本格的な競技活動を引退した選手まで、国内の視覚障害者がオープンに参加できる大会です。

IBSAによるクラス分け基準変更と体重別階級区分変更を受け、今回大会からは、体重別階級が従来の男子7階級、女子6階級から、男女各4階級に変更、視力によるクラス分けは行わず計8階級と、無段者の部、シニアの部(今回は参加者なし)が行われることになりました。

今大会はクラス分けを行わないことや、クラス分け基準に適合しない選手も参加できることなどからか、国際大会の直接的な代表選考ではないという通達がされていますが、次のような文言が要項に記されています。

・ 2022年度の後期強化指定選手選考の参考資料とする。
・ 東京国際オープントーナメント大会の出場権の参考資料とする。
・ 2023年3月31日までに開催される国際大会出場候補の参考資料とする。
大会要項:選手選考

特に2つ目の東京国際オープンの選考には大きな影響があるものと考えられます。
今年12月に開催予定のこの大会は、国内では初めてIBSA公認の大会として開催されるため、国際ランキングポイントが獲得できるほか、国際クラス分けも実施されます。
国内での開催であるため、連盟としても多くの選手を出場させるでしょうから、パリへの出場を狙う選手にとっては大きなチャンスとなります。

私にとっても意味合いの大きな大会です。
階級を変更したことにより、国内での勢力図は大きく変化すると予想されました。そこにおいても立ち位置を絶対的なものにするために、出場し勝つ必要がありました。
また、5月に負傷した肘の具合を考慮して一時は欠場を考えていましたが、世界選手権を前に増量による体の具合を確認する意味でも避けられない試合だったと思います。


今回は試合前日に東京へ向かいました。
体重調整のことなどを考えると計量の前日、つまり試合2日前に現地入りするのがベストですが、今回は計量にさして問題はないだろうとの予測から前日入りを決めました。

この考えが非常に甘かった。
計量日の朝、朝食後に体重を測ると75.7kg。完全に油断です。
朝食を抜くという選択肢はあり得ません。ですので、前日の夕食が食べ過ぎです。

1枚多く服を羽織って家を出ました。こんな時夏というのはありがたいもので、何もせずとも汗が出ます。適度に水分を取りつつ、飛行機と電車を乗り継ぎ講道館着。ここで再度計量。74.4kg。勝ち確です。大勝利。嬉々として軽めの昼食をいただきました。
後は、前日練習。余裕です。それほど激しい練習をせずともすんなり落ちてくれました。最近太ったせいか体重の振れ幅は異常です。予備計量は72.8kg。200g減らしすぎましたね。リカバリー、リカバリー。水を飲んで本計量。72.8kg。あれ? まぁ、いいや。リカバリー、リカバリー。試合当日朝は75.5kg。ヨシ!

計量の前には組み合わせ抽選がありました。
注目は60kg級。出場者は8人のトーナメント。優勝候補の東京パラ代表・平井選手とリオパラ銀メダリスト・廣瀬誠選手に対して、育成強化の兼田選手と阿部選手が対抗する構図です。いざ抽選。衝撃的な結果です。なんと、一回戦から平井選手対廣瀬誠選手、兼田選手対阿部選手。当事者には申し訳ありませんがもはや笑いしか出てきません。60kg級は5月の選考会に出場できる選手がいなかったためにシード権は誰も持っていません。これが抽選の面白いところでしょうが、あまりにも…笑

60kg級 組合せ


しかし、私のよその階級を囃し立てる余裕は一瞬にしてなくなりました。73kg級は4人の総当たり。1人3試合。私の初戦の相手は、藤本選手! しかも、大会の初戦での対戦です。シード権は総当たり方式には適用されないので仕方ありませんが、正直かなりしんどい組み合わせです。

73kg級 組合せ


その他に注目だったのは57kg級でしょうか。こちらは5人の総当たりですが、藤原選手、廣瀬順子選手、工藤選手の3人の東京パラ代表選手が出場します。また、5月の選考会では工藤選手が廣瀬順子選手を破っており、工藤選手はその後のグランプリで入賞しています。パリに向けてこの2人の争いは大注目であり、その2人と52kg級から階級を上げた藤原選手や石井選手がどう戦うかも見所だったのではないでしょうか。

57kg級 組合せ


試合当日はいつも通りのアップで準備。1試合目からということで、大道場に上がってなるべくギリギリまでアップをしました。開会式を終えて、試合開始。私にとっては最初からヤマ場です。

1試合目、対藤本選手。
藤本さんとの対戦はこれが9度目。お互いに手の内はほとんど知れています。いえ、正確に言うとこちらの手の内がほとんど知れているだけであって、藤本さんは常に新しいことを試してくるので、こちらが知っているのは巴投げが中心の組み立てであることくらいかもしれません。
背負い投げ以外の技が不十分すぎる私にとって、背負い投げに頼らずとも勝てるようにすることが、ここ数年の課題です。肘の不安もあり今回はこれを実践することにしました。投げる背負いは使わず、見せる背負いのみ、指導に気をつけながら足技を用いて時間をじっくり使いワンチャンスを逃さない、そんな作戦でしたが見事に打ち破られました。
早々にひとつ目の指導を受けます。いつも通り「消極的」。ここまでは様式美です。いつもはこの後投げて勝っていました。しかし今回は違いました。藤本さんに偽装攻撃の指導が2つの後、再び私に消極的の指導。そもそも出せる技が少ないうえに、背負い投げを含めこちらの技を組手や体捌き、技や引き込みで全て防がれています。唯一一本の取れそうな大内刈りはうまく逃げられ、組み立ての中心に持ってきたかった小外刈りは届かず効かず…
指導が2-2になっては常に消極的なこちらの方が圧倒的に不利です。とにかく攻めなければと焦りながら攻めて、お互い崩れた時に押し込んだ技あり、最後はうまく合わせた払い巻込みで一本でした。勝ち切れたことは良かったですが、試合内容としては課題ばかりが残ります。

1試合目

2試合目、対加藤選手
前の試合の反省からしっかり足技を使うことを確認して試合に臨みました。序盤から積極的に足をかけることができ、ポイントを奪うことこそできませんでしたが、有効な小外刈り、小外掛けが出せていたのではないでしょうか。あとはしっかりと腕でコントロールすることが課題です。加藤選手は元81kg級であることやJ1クラスであることもあり、比較的動きが多くはないタイプです。これが落ち着いて技をかけられた要因の一つだとは思いますが、元81kg級だけあって手足が長い。身長も私よりかなり高い。このサイズの選手と同じ階級として試合をしたのは初めてです。しかし、今後国際大会では同じように体が大きく手足の長い選手と対戦する機会は幾度となくあるでしょうから、その対策は改めて考える必要があります。
最終的には釣り手を切って小内巻き込みの素振りを見せた後、ちょうど相手の左手が前に出ていたので袖を掴んで袖釣り込み。完璧とは言わないまでも綺麗に回すことができました。この試合においての課題としては、もっと足を動かして、また釣り手を動かして相手の体勢を崩すような戦い方ができると良かったです。

2試合目

3試合目、対米田選手
米田さんとは18年の選考会以来4年ぶり2度目の対戦。この試合も初戦の反省から小外刈りをメインに組み立てようと考えていたため、開始早々、いくらかの間合いの確認の後仕掛けました。思っていた以上に相手の体勢が崩れたため、はずれそうになった足を伸ばして、しっかりと追っていくことができました。これはおそらく文句なしの一本勝ち。

3試合目

試合全体を通してなかなか満足とは言えない内容でしたが、それぞれの試合で収穫と課題とがありました。今後の試合で背負い投げを制限するといったことはもうないかとは思いますが、背負い投げを研究されて、使えない状況があることも想定されます。現に、今回の藤本さんはこちらの技を完全に封じに来ており、仮に背負い投げを使えたとしてもそう簡単には入ることはできなかったのではないかとも思います。今後は背負い投げ以外の技による組み立てを強化することが重要です。また、全体を通して現在の体重を扱いきれていないようにも感じました。特に足腰とスタミナの強化は11月の世界選手権を獲るためには必須です。残りの期間もわずかではありますが着実に取り組んでいこうと思います。


最終的に73kg級は加藤さんが準優勝、藤本さんが3位という結果になりました。
そして注目の60kg級は、一回戦で平井さんを破った廣瀬誠さんが優勝。2回戦、決勝と圧倒的な強さでした。育成選手同士の対決は阿部さんが兼田さんを破り決勝まで進みました。平井さん、兼田さんはそれぞれ敗者復活・3位決定戦を制し、3位入賞でした。
57kg級は順子さんが優勝。2位は石井さん、3位に工藤さんとなりました。
これらの階級は東京国際の代表選手選考が注目されます。

その他の階級の結果や試合の様子は視覚障害者柔道連盟のYouTubeにてご覧ください。


試合を終えるといつものパターンではメディア対応です。しかし、ちょっと疲れた私は3試合目が終わるとメディアに捕まる前に少し休もうと大道場を出て6階へ続く階段を降っていました。すると、後ろから声をかけられました。「捕まったか…」と諦めたところ、予期せぬ言葉が飛んできました。「ドーピング検査です」
私は愕然としました。メディアの方がまだ良かった。しかし、ドーピング検査からは絶対に逃げられません。これは選手の義務です。「またですか…」と不満を漏らしつつも指示に従います。1年前にもこの大会で検査を受けました。その時はかなり辛い目に遭いました。これが10ヶ月ぶり2度目のドーピング検査です。まだ慣れとは程遠い回数。検査にはネガティブな気持ちしかありません。

その後、メディア対応、表彰式、閉会式と膀胱に尿を溜めながら臨みました。その間、この大会で私に帯同してくれていた後輩は、検査員の方にドーピング検査についての話を聞いていたらしく、大変楽しそうでした。まぁ、普通に生活していて誰でも関わるものではないので、私も検査を受ける当事者にならない限りはアンチ・ドーピングやドーピング検査のシステムなどにはとても興味があります。

閉会式を終え順次解散となったため、荷物を整理してから検査場となっている視柔連事務局へ。書類の記入や器具の確認など決められた手順を進めます。せっかくなので後輩に帯同者として同行してもらい、器具のチェックなどをしてもらいました。
さぁ、いざトイレへ。正直、出せと言われて出るものでもないし、確実に溜まっていても人が見ている目の前でというのはなかなか精神的に難しいものです。去年は便器の前で十分ほど突っ立っていた記憶があります。あの時間は地獄でした。しかし今回は違いました。トイレに入って3分もしないうちにミッションコンプリート!!
容器に蓋をして意気揚々と事務局へ戻ります。ここからがまた大変な作業。自分の尿を人前で瓶に詰め替えるという恥ずかしいようなどうってことないような行為。こちらも無事コンプリート。
最後に書類の確認・記入などを行い、書類の写しを受け取って完了。ドーピング検査は違反があった時にのみ連絡が来ます。ですので今後一ヶ月はビビりながら生活することになります。


ドーピング検査への慣れも含めて、改善しなければならないことが多数あることが今回の大会を通してわかりました。
パリ2024に向けてひとつでも多くの課題を克服すべく稽古に励んでいく所存です。
今後とも応援のほどよろしくお願いいたします!

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