「あなたは有名人じゃないのよ」〜出版までの道〜中山祐次郎
(前回までのあらすじ)
気分のいい日には、いつもよりながめに散歩して暮らしていたぼく。携帯電話と野球の会社から来た出版依頼を受けたぼくは、本を出す前にクラウドファンディングをやることを思い付き編集者Sかぐちさんに電話をした。
***
「もしもし、Sかぐちさん。ご無沙汰しております」
「あ、お久しぶりです中山さん」
前回のメールを送ったその日の午後、ぼくは編集者のSかぐちさんに電話をした。相変わらず丁寧な語り口だ。
この人は、どんな恋愛をするんだろう。
そんな余計なことを考えながら、ぼくはクラウドファンディングをやろうと思っていることを伝えた。Sかぐちさんはやはり慎重に言葉を選びつつ、
「ええ、いいと思います」と言った。
よし。クラファンだ。クラウドファンディングだ。クラファンといえば、有名クラファンのひとつ、Makuake(マクアケ)の中山社長は苗字も同じだし、過去3回くらい会って合計4分くらいは喋ったことがある。きっとうまくいく。
ぼくは興奮しつつ、その夜帰宅すると妻にクラファンのプレゼンをした。ぼくの設計はこうだ。
・1500円の支援で、リターンは「サイン本1冊」と「本の内容を考えるfbグループへの参加権」と「本の巻末に名前が載る(希望者のみ)」
「・・・ふーん」
プレゼンをしたぼくを、明らかに冷ややかな顔で見つめる妻。
「で、何人くらいの支援を見込んでるの?」
「・・・ええと・・・(やばい考えてなかった)・・100人くらい、かな」
その根拠は?と言われる前に、ぼくは続けた。
「たぶん755で繋がっている人が20人くらい、ツイッターで10人くらい、あとはfbで繋がってるリアル友人が50人くらい、それと知らない人が20人くらいは支援して・・・くれないかな」
くれないよな。話しながら自分で、甘すぎる計画だと気付いて来た。
・・・。
ひと呼吸置いて、妻は言った。
「いい、あなたは有名人じゃないのよ。キンコン西野さんとは違うの。リターンって言うけど、そんなものがリターンになるのは有名人だけでしょう」
「た、たしかに・・・」
「しかも本の内容のアイデアを募集するなら、SNSだけでもいいんじゃない?クラファンはお金を払ってもらう訳だから、ハードルが高すぎる気がする」
なるほど。たしかにSNSでお願いしてもいいな。
ぼくがクラファンをやろうと思った理由は、「多くの人を巻き込んで、本作りというこれまでブラックボックスだったものをオープンソース化する」ことだった(オープンソースとは、開発・製作する過程とツールを公開して、誰でも開発・製作に携われることを意味する)。巻き込んでコミュニティー化するために、クラファンをやろうと思ったのだった。
しかしよく考えると、コミュニティーはクラファンでなくても作れる。そしてオープンソース化は、すでにこの連載で半分達成している。あとはSNSやここのコメント欄などで皆さんからの意見を募ればいい。
(写真は新婚旅行で行ったハワイ、ダイヤモンドヘッドから撮影)
ここでぼくは、方針を変えた。
クラファンはやらず、SNSを駆使して本を作ろう。
ここで、ぼくのSNSの内訳を暴露したい。
facebook:友達1,500人+フォロワーさん1,700人=計3,200人
twitter:フォロワーさん3,300人
755: フォロワーさん3,800人
(ちなみにinstagramはフォロワーさん400人だけど、ほぼ全員fbと重複なのでカウントせず)
合計すると、単純計算では1万人ちょっとになる。
ま、fbはすでにおじ/おばさんしかやっていないのでアクティブユーザーは1,000人くらいだろう。
twitterは「なんとなくフォロー」人口が多いため関係が薄く、少なく見積もって200人。
755も一時期はAKBでCMを打つなどして流行ったが、いまは幽霊アカウントが多いだろう。しかしぼくは丸3年やっており、他のユーザーさんとかなり濃厚な関係を作ってきたと思っているから、300人くらい。
結果、ぼくのSNSを現在アクティブにフォローしてくれている人は、1,500人程度だと思う。
1,500人のうち、いったい何人がクラファンをやったことがあるだろう。多く見積もって1割、150人。そのうち2/3の100人がぼくのクラファンにわざわざお金を払って参加してくれる・・・わけがない。
妻の冷静な意見は、どこまでも正しかった。
あなたは有名人じゃないのよ。
傲慢かもしれないが、ぼくは有名人になりたくない、片隅の人でいたいという願望でやってきた。そのこれまでの積み重ねが、いまこういう結果になったのだ。全ては因果応報。過去の自分がいまの自分を作ったのだ。
ぼくはSかぐちさんに報告するために、電話をしようとメールをした。
しかしお互い多忙すぎてこのやりとり。SかぐちさんはLINEもfbメッセンジャーもあまりやっていなさそうだから、電話番号を使う「メッセージ」でのやりとりとなる。ぼくはスピードを重視するため、仕事連絡のほぼ全てをLINEかfbメッセンジャーでしているから、メッセージには慣れていなかった。
しかしやっとお互いのタイミングが合ったある日、それは大吹雪の中、しかもぼくは当直(徹夜勤務)明けでもうろうとした意識の中だったのだ・・・
(第7回へつづく)
※この連載は、2018年8月に出版した「医者の本音」(SBクリエイティブ) の、執筆依頼を頂いたときから出版までのいきさつをリアルタイムに記録したものです。
アマゾンリンクは↓こちら。kindle版もあります。