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72年前に外務省が作成した「草案」が浮き彫りにする日米地位協定の異常さ

 沖縄の地元紙「沖縄タイムス」は本日、1面トップと3面で日米地位協定に関係する記事を掲載した。私も取材に協力し、記事にコメントが掲載されている。以下が記事のリード文である。

日本政府が1950年、日米地位協定の前身となる行政協定の「草案」として作成したとみられる文書が14日までに確認された。在日米軍が駐在地区域外で訓練などを行う場合、日米両政府の事前協議を義務付けるなど、より対等な関係を模索していた状況がうかがえる。識者らは「米軍の日本駐留を想定した当時の外務省が協定の在り方を研究し、作成したものとみられる」などと指摘。15日は沖縄の日本復帰50年。米軍にさまざまな特権を認め、重い基地負担の大きな要因となっている地位協定の在り方が改めて問われそうだ。

『沖縄タイムス』2022年5月15日,1面
5月15日の「沖縄タイムス」1面

 現在の日米地位協定は1960年の日米安保条約改定と同時に締結されたものであるが、その大部分は1952年に結ばれた日米行政協定の内容を継承している。その最初の「草案」とみられる文書が、今年4月に公表されたのだ。 
 同文書のタイトルは「軍隊駐在に関する技術的問題の研究」。1950年12月に作成され、表紙には赤インクで「極秘」と印字されている。本文は101ページある。外務省が2021年9月30日に、過去の外交文書の公開を行っている外交史料館に移管した。 
 外交史料館に移管されたとはいえ、すぐに閲覧できるわけではない。閲覧するには、外務省に利用請求を行い、審査の上、承認されなければならない。私は移管されたその日に利用請求書を提出した。そして今年4月12日付でようやく閲覧が認められた。実際に東京・麻布台にある外交史料館で文書を閲覧したのは4月18日のことである。

外交史料館で公開された行政協定の「草案」とみられる極秘文書(筆者撮影)

「草案」は驚くほど「まとも」だった

 この文書が作成されたのは、日米両政府が講和条約と講和後の米軍駐留の根拠となる安全保障条約の交渉を開始する直前であった。交渉開始を前に、駐留米軍の法的地位などを定める協定について研究したものだとみられる。中身は、条文案と立法趣旨の説明、そして米軍が駐留する他国(イギリス、デンマーク、フィリピンなど)の「条約先例」で構成されている。
 文書を一読して、私は、その「まともさ」に驚いた。現在の日米地位協定が、この「草案」のように改定されれば、状況はかなり改善されるだろうと思った。
 本稿では、私が特に重要だと思った3つの条文について紹介したい。

提供区域外での訓練・演習は事前協議を義務付ける

 一つ目は、上記の沖縄タイムスの記事でも見出しになっている米軍提供区域外での訓練に関する規定である。

(演習)
1 合衆国軍隊がその駐在地以外の区域において訓練又は演習を行う必要がある場合には、合衆国は、右の区域の面積及び位置並びにその使用期間について、あらかじめ日本国政府と協議しなければならない。
2 合衆国は、右の区域において行動するには、公共の安全に対して充分な注意を払い、且つ、充分な防護手段を講じなければならない。

 米軍が、駐在地(基地)以外の区域で訓練や演習を行う必要がある場合には、使用する区域や期間などについて日本政府と事前に協議しなければならないと定めている。そして、訓練や演習を実施するにあたっては、公共の安全に十分な注意を払い、危険がある場合は防護手段を講じることを義務付けている。
 市民が生活する基地外の民間地域で米軍が訓練や演習を行えば、市民の安全に影響を及ぼす可能性がある。だから、これを規制するのは主権国家として当然のことである。
 しかし、現在の日米地位協定には、米軍の訓練を規制する条項はない。日本政府は、実弾射撃を伴わないものであれば、米軍が区域外で訓練することは「地位協定上認められている」という立場だ。
 実際に沖縄県では、ヘリが兵士や物を吊り下げながら飛行する訓練が基地外の民間地域の上空で行われている。過去には落下事故によって死者も出ていることから沖縄県や地元自治体が中止を強く求めているが、米軍は訓練を続けている。また、米軍航空機による低空飛行訓練は日本全土の上空で行われ、騒音被害や事故などを生み出している。
 現実に米軍のこうした活動が公共の安全に影響を及ぼしているにもかかわらず、一切規制しようとしないのは主権国家のとる姿勢ではない。
 ドイツの地位協定(NATO地位協定の補足協定)も、米軍に区域外での飛行訓練などを認めているが、ドイツ側の同意を条件にしている。これが「当たり前」なのである。
 その意味で、上記の「草案」の条文案を作成した当時の外務官僚は、今の日本政府よりはるかにまっとうな感覚を持っていたと言えるだろう。

国内移動も、あらかじめ合意されたルートに制限

 二つ目は、米軍基地への出入りや基地間の移動に関する規定である。現在の日米地位協定は、米軍は基地への出入りや基地間の移動の自由を認め、規制は設けていない。しかし、この「草案」では、日米両政府があらかじめ合意した経路に限って米軍の通過を認めているのである。

(通過、航行及び海運)
1 合衆国の軍隊、政府所有の軍用車両及び軍用航空機は、合衆国軍隊の駐在地区へ出入りするため又は合衆国軍隊の駐在地区相互間を移動するために必要があるときは、領水及び領空を含む合衆国軍隊の駐在地区外の領域を通過することができる。その通過は、両国政府の合意によって定められた経路によることを要し、且つ、平常状態においては、あらかじめその都度又は包括的に日本国政府に通告した上で行わなければならない。

 たいへん興味深いのは、基地への出入りや基地間移動の経路を限定する理由だ。「草案」は、その理由をこう説明する。

もし合衆国軍隊が日本国領域内のいずれの地域をも自由に通過しうるものとすれば、合衆国と交戦関係に入る第三国より駐在地区外の地域も駐在地区と同様に無差別に攻撃される可能性が増加し、日本国にとって不利だからである。また、特定の通過地域を除けば、他の地域が合衆国の軍事行動によって影響されないという安心も得られる。

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