沖縄・南西諸島を米軍の「盾」にするアメリカの戦略とは

海兵隊が「戦力設計2030」の改訂版を公表

 米海兵隊は5月初め、「戦力設計2030」の年次改訂版(Force Design 2030 Annual Update)を公表しました。
「戦力設計2030」は米海兵隊が2020年3月に公表した報告書で、今後10年間で取り組む組織変革の大枠を定めたものです。これをアップデートしたのが、今回の改訂版です。
 改訂版の中に気になる記述がありました。

In Japan, for example, III MEF exercised with 7th Fleet and our Japanese allies to develop command arrangements needed for Stand- in Forces operating in a coalition.

U.S. Marine Corps
Force Design 2030 Annual Update

 沖縄を本拠地とする海兵隊(第3海兵遠征軍)が、米海軍(第7艦隊)や自衛隊と共に、スタンド・イン戦力の連合作戦に必要な指揮系統を開発するための共同演習を実施したというのです。

米海兵隊が5月初めに公表した「戦力設計2030」の年次改訂版

中国軍の攻撃を受けながら損耗覚悟で戦う「スタンド・イン戦力」

 拙著『日米同盟・最後のリスク』で詳しく解説していますが、アメリカは台湾海峡有事などで中国と戦争になった場合、沖縄・南西諸島を「盾」にして中国軍を東シナ海に封じ込めようとしています。具体的には、南西諸島の島々に海兵隊の小規模な部隊を分散展開させ、そこに臨時の軍事拠点を置いて中国軍の動きを監視・偵察したり、東シナ海を航行する中国軍の艦船を地対艦ミサイルで攻撃したりする作戦を構想しています(Expeditionary Advanced Based Operations, EABO=遠征前進基地作戦)。

米シンクタンク「CSBA(戦略予算評価センター)」の報告書に掲載された、南西諸島の島々に地対艦ミサイルを分散配備して中国軍を東シナ海に封じ込める作戦構想を示した図

 そして、この作戦を担うのが前出のスタンド・イン戦力です。スタンド・イン戦力とは、敵の火力の射程圏内で作戦を遂行する戦力のことです。南西諸島が中国軍のミサイル攻撃などを受けることを前提に、生き残って作戦を継続するのがスタンド・イン戦力の役割です。
 アメリカは海兵隊だけでなく、日本の自衛隊も、スタンド・イン戦力としてあてにしています。ご承知の通り、日本政府は近年、南西諸島に陸上自衛隊の新しい駐屯地を次々と建設し、監視部隊やミサイル部隊などを配備しています。今後は電子戦部隊なども配備する計画です。また、2018年には、「日本版海兵隊」とも呼ばれる水陸機動団が新編され、東シナ海を臨む長崎に配備されました。台湾海峡有事など中国との戦争において、アメリカは自衛隊のこれらの部隊もスタンド・イン戦力として活用しようと考えているのです。
 冒頭で紹介した「戦力設計2030」年次改訂版の記述は、米軍と自衛隊が一体となってスタンド・イン戦力として南西諸島で作戦を行う態勢が着々と作られつつあることを示しています。
 昨年12月、日米の制服組が台湾海峡有事を想定した日米共同作戦計画の原案を策定していたことを、共同通信がスクープしました。スタンド・イン戦力の連合作戦に必要な指揮系統を開発するための共同演習の実施は、これと軌を一にする動きです。
 海兵隊は「戦力設計2030」を策定するにあたり、上記のような作戦構想に従ってウォーゲーム(戦争のシミュレーション)を行いましたが、その結果、「(米軍の)装備や人員の消耗は不可避」と結論付けています。このように、消耗覚悟で戦うのがスタンド・イン戦力なのです。

2019年に新設された陸上自衛隊宮古島駐屯地。地対艦ミサイル部隊や警備部隊などが配備されている。(筆者撮影)

沖縄を再び「戦場」にしてはならない

 しかし、米軍と自衛隊のスタンド・イン戦力が中国軍の攻撃を受けながら南西諸島で戦う時、南西諸島の住民はどうなるのでしょうか。
 陸路で避難できるウクライナと異なり、島の場合は船または航空機が必要となり避難は現実的に困難です。アメリカは自軍(プラス自衛隊)の消耗覚悟で南西諸島を拠点に戦うとしているわけですが、最も被害を受けるのは避難できないまま攻撃を受ける住民です。
 先の大戦で軍民混在の戦場となった沖縄では、当時の県民の4人に1人に当たる12万人が犠牲となりました。これだけ甚大な被害が生じたのは、日本軍が「本土決戦」を一日でも遅らせるために沖縄で持久戦法を採用したからでした。沖縄が本土防衛のための「捨て石」にされたと言われるゆえんです。
 私は、その沖縄を再び戦場にするようなことは絶対にあってはならないと強く思っています。『日米同盟・最後のリスク』は、その一心で書き上げた本です。この本が一人でも多くの人に届くよう、どうかお力添えをお願いします。

https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4377

[追記]アメリカは、南西諸島を中国軍封じ込めの「盾」として利用するだけでなく、日本全土を中国本土攻撃のための「ミサイル発射台」として利用しようと計画しています。よって、もし米中戦争が起きれば、沖縄・南西諸島だけでなく日本全体がミサイル戦争の戦場になる可能性があります。それが、この本のメインテーマである「米軍の新型中距離ミサイルの配備問題」です。


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