レコード会社担当氏による『PORTAS』ライナーノーツ
初めまして。
制作担当のテイチクエンタテインメント前田と申します。
今回は、待望の10THアルバム『PORTAS』の収録楽曲について、私なりの解釈でご説明させていただければと思います。
少々長文になりますが、是非お付き合いください。
2020年4月15日。中田裕二の9作目のオリジナル・アルバム『DOUBLE STANDARD』がめでたくリリースされました。
その1ヶ月半ほど前から、日本を含む世界中が新型コロナウィルスの猛威によって、これまでと同じ生活ができなくなり始めました。そんなコロナ初期、このアルバムはレコーディングを終え、そしてリード曲「海猫」のミュージックビデオもギリギリで撮影を実施することができ、完成させるところまで到達していました。
しかし、リリースのタイミングになってもコロナの影響は収まるどころか、更にその勢いを増し、街中から人影は消え、CDショップも休まざるを得ないような状況となってしまいました。アルバムは様々な方法でファンみなさまのお手元に届けることができましたが、その後に予定されていたツアーは軒並み延期・中止となり、前後のプロモーションも、できる範囲での限られた内容となってしまいました。つまり、本来は1年の中で最も精力的な活動をするリリースタイミングに、ほぼ何もできない状態となってしまったわけです。
誰もが想像すらしたことがなかったこの状況下において、我らが中田裕二は“音楽を生業とする者として何をすべきか?”、“なぜこのタイミングで、こんな時間が自分に与えられたのか?”を考え、すぐに行動しました。そして、すぐさま新しい楽曲制作に取り掛かったのです。
そして4月中旬、中田のSNS上でいち早く公開されたのが、本アルバムからの第1弾先行配信曲にもなった「君が為に」です。
この時点では、アコースティックギター1本の弾き語りによるものでしたが、曲の持つ雰囲気や内容が、絶妙にその時期の我々の心情にマッチし、私をはじめ関係各位グッと心を掴まれました。
その後、延期・中止を余儀なくされたツアーのバンドメンバー全員がリモートでレコーディングに参加、発表されたばかりの『DOUBLE STANDARD』に収録された楽曲とも、図らずも連続性のような不思議な感覚を与えたことも功を奏し、音楽家=中田裕二の現在の姿を、より深く知らしめるきっかけにもなったことは間違いありません。
ここで、目指すべき音楽の姿がはっきりと見えた中田裕二は、コロナ禍の真っ只中、我々もびっくりするほどのペースで次々と新しい楽曲を誕生させていき、夏を迎えた頃にはアルバムをリリースするに十分な数、そしてクォリティの楽曲が揃いました。
恐らく将来、2020年を振り返る時、“新型コロナウィルス発生の年”という事実は、確実に歴史に刻まれていくと思います。そんな状況の中、“その年に作ったアルバムというのは、やはりその年の内に世の中に伝えるべきではないか!?そして何よりも今の中田裕二の音楽を一刻も早く聴いて欲しい!”そんな中田自身の強い意思に、我々スタッフの総意も加わり、前作からわずか7ヶ月後の2020年11月に、10作目のオリジナル・アルバム『PORTAS』として世に放たれる運びとなったのです!
では、CD発売前ではありますが、収録されている楽曲について簡単なご説明をさせていただきたいと思います。
アルバム・タイトル『PORTAS』
ポルトガル語で「門」、「ドア」というような意味を持ちます。まずはその門をくぐって、そこにある楽曲たち1曲1曲に触れてください。
「プネウマ」
アルバムのタイトル候補にもなった、古代ギリシャ語(ギリシャ哲学)に由来する、“人間の生命の原理”という広大な意味を持つ楽曲です。シンプルなサウンドに、切なさを併せ持ったメロディアスなヴォーカルが印象的な作品ですが、タイトルの意味を理解して聴くと、登場する言葉の数々が、自然と明確に頭に刻まれていきます。なんだかとても不思議な作品ですね。世の中の動きにならい、中田裕二が組み上げたサウンドに、ベースの千ヶ崎学さんがリモートで参加。ミックスまで含め、全てオンラインで完成させています。
「BACK TO MYSELF」
アルバムからの第2弾先行配信曲。アルバムの中でも特にポップ色が強く、80’S POPを感じさせてくれる作品ですが、単なる回顧に留まらず、現代的な解釈も加わり、とてもDREAMYな空気感に包まれます。とりわけ、メロディラインと同じくらい印象的なエレキギターのリフやソロには、中田ならではのセンスを感じざるを得ません。本作中唯一、全パートを中田自身で仕上げた楽曲というのも特筆すべき点です。
「ゼロ」
本作のリードトラック。聴けば聴くほどハマっていく、中毒性のあるメロディが耳を惹きつけます。サウンド面では、アルバム全体の特徴でもある“シンプルながらも印象的な仕掛け”が随所に見られ、私はどんどんハマっていきました。イントロで印象付け、再びサビで登場するピチカートのような音色、1コーラス目が終わり、PAUL McCARTNEY & WINGSの「Band On The Run」を彷彿させるリフからソロへの流れなどは、音色も含めてセンスの塊のようなパートだと思っています。そして最強のポイントはサビ。メロディとハーモニーの醸し出すヴォーカルの艶気!
「おさな心」
どこか牧歌的な雰囲気の漂う、とても情景が見える作品。サウンドとメロディの穏やかな流れを終始感じることができ、とても温かい気持ちになります。が、歌詞の最後の部分では少々ドキッとさせられますね。やられました。
「あげくの果て」
sugarbeansさんの弾くピアノをバックに、たっぷりと情感を込めて歌うバラードです。ピアノだけで歌い切る1コーラス目の終わりから、バンド・インする2コーラス目の変わり目が非常にスリリングで印象的で、個人的には大好きな瞬間です。曲中でさらっと入ってくるユーフォニアムとフリューガボーンの音色が切なさを推し進め、素晴らしい効果を醸し出しています。中田のヴォーカルの感情の起伏との絡み合いが絶妙で、最後まで引き込まれたまま、曲終わりをを迎えることとなるでしょう。
「夢の街」
キャッチーで耳に残る短いイントロから始まる作品。こちらも情景の浮かぶ楽曲です。しかしながら、その内容は中田裕二なりの“悟り”のようです。ひときわ厳かな雰囲気を作り出している、美しくも大きなメロディが秀逸。
「Predawn」
往年のAORのような洗練された雰囲気の漂う1曲。ソフト&メロウなサウンドに、夜明け前のひと時の心情が軽やかに乗ります。それは2人のラヴ・ソングのようでもあり、もっと大きな、地球の夜明け前のラヴ・ソングのようでもあります。
「DAY BY DAY」
軽快なバンドサウンドが光るオーセンティックなロックソング。率直な心の声の吐露のようでもあり、多くの人が、それぞれのコロナ禍の心情をこの歌に投影することができるのではないでしょうか。そして“何その癒し系”という言葉が耳から離れません。
「ふさわしい言葉」
リズム、メロディ、ハーモニーが、タイトなタイム感で絡み合うことで生まれる緊張感、JOHN LENNONばりに韻を踏み倒す歌詞の耳心地の良さ、などなど、メロディメイカー、リリシスト、アレンジャー、シンガー、ギタリストといった中田裕二の全ての魅力が凝縮された1曲だと思います。
「君が為に」
4月中旬、中田のSNS上でいち早く公開された、本アルバムからの第1弾先行配信曲にもなっている楽曲。その頃は、アコースティックギター1本の弾き語りでしたが、曲の持つ雰囲気や内容が、絶妙にその時期の我々の心情にマッチし、心を奪われました。その後、延期・中止を余儀なくされたツアーのバンドメンバー全員がリモートでレコーディングに参加、完成に至りました。発表されたばかりの前作『DOUBLE STANDARD』に収録された楽曲とも、図らずも連続性のような不思議な感覚を与えたことも功を奏し、音楽家=中田裕二の現在の姿を、より深く知らしめるきっかけにもなったことは間違いありません。
なお、アルバムに収録に際して、配信シングルとは異なる新たなミックスが施されています。
短期間での制作、密を避けることを逆手に取ったシンプルなサウンドメイキング、更には、久々に中田が全楽曲のアレンジを手掛けることで、本作をより2020年に制作されたアルバムらしく響かせることに成功しているのではないでしょうか。また、全体を通じて所謂恋愛ソングはほとんどなく、広い意味での愛を歌った作品となっていることも大きな特徴ですね。
繰り返しになりますが、コロナでこれまでの生活を変えざるを得なくなった今だからこそ、必要な音楽があると思います。このアルバムは間違いなくその1つと言えます。みなさまいかがでしょうか!?
実は、既に11作目のアルバム分の曲も準備できているというから、その創作ペースには驚くばかりです。
そして、来年2021年は、椿屋四重奏解散、そしてソロになって10年の節目を迎えます。前進と変化を躊躇わない中田裕二には、これからもワクワクしかありません!