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おねだられライスペーパー

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※これは「おねだりライスペーパー」を別視点から描いた”B面の物語”です。A面の物語はコチラから。

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我が家には
子どもたちに嬉しい制度がある。

誕生日には本人の食べたいものを
何でもリクエストしていい、というものだ。

普段どうしても同じような献立(それも冷凍食品で済ませてしまうことも多々あり)が並んでしまう中、誕生日だけは好きなものを食べさせてあげたいという親心で…


なんて気の利いたセリフを言える母親でありたかったが、実はこれ、わたしのわたしによるわたしのための制度なのである。

だって、子どもたちがリクエストする食べ物はある程度誘導できたから。

まず計画はこうだ。
誕生日の1ヶ月くらい前から、"わたしが食べたいもの"が載っているページを開いた雑誌をリビングに置き、グルメ番組の録画を子どもたちが帰ってくる時間あたりに流しておく。

すると、彼らは聞いたことのないカタカナの洋風な響きと物珍しさで、もう頭からそれが離れない。

ここまでくれば、もうこっちのものである。


ローストビーフ、ビーフストロガノフなど多少高価な食材を使って贅沢をしても「子どもの誕生日だから」という大義名分を振り回し、夫にも文句を言わせなかった。

誘導通りのリクエスト来るのは分かっていたが、子どもの前では少しだけ困ったような素ぶりもしてみた。ミッションを成功させるためなら主婦は名女優にもなれるのだ。

大人とはなんて悪い生き物なんだ、と思ったりもしたが、結局みんなが美味しいもの食べるんだからトータルで家族の幸福度は上がってるよね、と都合のいい解釈がどんどんうまくなり図太くなっていったのも、たしかこの頃だと思う。

そんな訳で、子どもたちの誕生日は、
同時に好きなものが食べられるDAYでもあった。
あの事件が起きる前までは…。


ある年の末っ子8歳の誕生日1週間前、それは前触れもなくやってきた。

な・ま・は・る・ま・き…?
「えっ春巻き??春巻きでいいの?
いつも揚げとるやつは、あれ生協のやつよ?冷凍でいいの??」と自分に都合のいい聞き間違いは、まったくもって通用しなかった。

末っ子「春巻きじゃなくて、なまはるまき!
揚げてなくて、ライスペーパーで巻くの!」

想定外の末っ子の発言に、わたしは戸惑った。おかしい、わたしは1ヶ月前から"牛肉のタタキ"をリクエストするように仕込んでいた。さすがに8歳には渋すぎたか、いや抜かりはなかったはず…!

計画は完璧だった、計画自体は。
そう、とうとう末っ子に自我が芽生えてしまったのだ。

こんにちは自我、と子どもの成長をうれしくも思う反面、どうにも困ってしまった。

なにせわたしは、ライスペーパーなどという異国の食材を知らないし、きっとこの田舎でそんなものは売っていない。

「どうだ、今回はお惣菜で手を打たないか?」と8歳相手に交渉してみたものの、どうしてもライスペーパーを自分で巻きたいらしく、彼女は大泣きしてしまった。ん〜これは探すしかない。

夫に聞いてもご近所さんに聞いても、誰ひとりライスペーパーを知っている人はいなかった。

見たことも聞いたこともない、謎の食材。あぁ、アメリカ大陸をみつけるまでのコロンブスもこんな気持ちだったのか、さならが冒険家のような気分に浸っていた。

結局のところ、謎の食材ライスペーパーは、車を隣県まで飛ばした先にある百貨店に売っていた。

苦労して手に入れ、やっとの思いでつくった生春巻きを末っ子が、ガブっと頬張る。しばらくの沈黙があり「味がしない…」と言う。後から知ったことだが、生春巻きにはスイートチリソースなどという、また甘いんだか辛いんだかハッキリしないものを付けて食べるのだという。

おいおい、勘弁してくれよ。という思いで、わたしは末っ子に醤油を差し出した。

「ん〜ん〜」となんとも例えられない表情で
生春巻きを噛み締めた末っ子は、きっと後悔しただろうと思ったのもつかの間、

翌年は、バルサミコ!翌々年には、ヴィシソワーズ!と叫びだし、もうそれは語呂がいいから言っているだけでは?という珍リクエストのオンパレードになるのであった。

そして、わたしが密かに隣県の百貨店までの道のりを、シルクロードと呼んでいたことは、末っ子が成人した今もなお誰も知らない。

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PS.実はわたしも幼い頃、
末っ子と同じようなことをしていた。

たまたま読んでいた小説の中に登場した「雪花菜」というキラキラした名前が頭から離れず、母にお願いしたものだ。

この奇麗な文字面が頭から離れず
当時はインターネットもなく、「雪」「花」「菜」という漢字だけで勝手な妄想を膨らましていた。

その結果はというと、これまた親子の血は争えず、自分の無知を恥じる私に、母がスッと醤油を差し出してくれたことは言うまでもない。

※この物語はハンフィクションです。登場する人物・団体・名称等はA面ストーリーを受けた著者の妄想が入っており、実在のものとは半分くらい関係ありません。

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