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【無料】おもしろくないだけで腹を立てられる不条理な世界だからこそ…

例えば、演技が下手な俳優さんがいたとして…
「棒読みだなあ…」と心の中で思ったとしても腹は立たない。

歌の下手な歌手がいても同様。
「音痴だなあ…」と思ったところで終了する。別にムカつきまではしない。

しかし、面白くないお笑い芸人にだけ世間はやたらと厳しい。
「おもしろくない」と思う感情は腹立たしい感情と直結している。
笑ってもらおうと思って一生懸命パフォーマンスしているのにムカつかれる仕組み。。。
学生時代から「なんて残酷な世界だと…」私は思っていたのだが、だんだんと意味がわかってきた。

「笑うこと」に人はエネルギーを使っているのだ。

エネルギーが必要なので、気持ちにある程度の余裕がなければゲラゲラ笑うことはできない。

感動させることは簡単だけど笑わせることは難しい。

数多のレジェンドたちが言ってきた言葉なので間違いないだろう。笑わせることは本当に難しい。

しかも、笑わせる相手は気心知れた友達や恋人ではない。知らない人たちを相手に笑わせることは想像以上にハードルが高い。
「オレの友達のほうがテレビ出てる芸人より面白い」と豪語する人が学生時代にチラホラいましたが、そう感じることは当たり前。
友達とは気心知れあう仲間なので笑う準備も整っているし話の共通点も多い。その場で意思疎通しながらワイワイ笑わせあっていることが楽しく感じるのはお互いを熟知している安心感からの感情。
双方向で繋がれる贔屓のユーチューバーに抱く感情にも似ているのかもしれない。

不特定多数の知らない群衆を相手に向き合っているプロの芸人と素人を比べること自体が物理的に不可能。
同じ世界に身を置いてから初めて比べられる場所に並ぶことができる。

ただ、「オレの友達のほうが面白い」と素人に思わせる低めのポジショニングこそ、お笑い芸人の所定の位置でもある。
笑いを崇高なものとして扱ってプラスはないので、その類の勘違いをさせることは、ある意味では正解。
潜在的に笑わせることを俗っぽいものだと感じているからこそ、面白くない人に厳しい側面もある。

どこか低く見積もった心理も手伝い、お笑い芸人には「とにかく笑わせてほしい」と常々感じているのが一般的な群衆心理。
そのシンプルな感情の先には面白さが常に求められ続ける茨の道がある。

いろんなエピソードをあちこちで話しすぎて引き出しはカラッポ…ネタを作りすぎてアイデアは枯渇する。
その上に次から次へと新世代は台頭し、自らは年齢を重ねていき時代とのギャップも薄々感じ始める。
それでも、一度客前に出れば目の前の人たちを笑わせなければいけない。
いつ何時であってもカメラの前に立てば人々を笑わせることを求められ、限界ギリギリの線でかろうじで生きる。

その常軌を逸した獣道を肌で知っているからこそ、プロの芸人は面白くあり続ける人を誰よりもリスペクトしている。
何十年と一線級で戦い続け、一線級で笑わせ続ける鉄人に一目置く。

お笑い以外の活動をやった時に「芸人がそんなことするな!」と、昔バッシングされたけど、ようやく今は時代が追いついた…みたいなことを語る人を時折お見かけしますが、それは論点がズレている。

みんなを笑わせようや!笑いのリングで戦おうよ!

それはバッシングではなく、「お笑い芸人はたくさんの人を笑わせる人でいよう!」という至極真っ当なメッセージなのだ。
人を笑わせる職業がお笑い芸人なのだから、笑いを追求していくのは当たり前。
先述したように想像以上に茨の道ではありますが、それでも芸人は笑いの凄まじさも素晴らしさも知っている。

「誰よりおもろい人やと思われたくて芸人になったんで…」と、ある漫才師さんが共にした酒の席でポロッと言っていましたが、この言葉が全てだ。
お笑い芸人は、おもろい人であり続けることにしか興味がない。
だから、笑わせなくなった芸人は尊敬されないのだ。

「あの人は映画監督もしてるのに」
「あの人はドラマにも出てるのに」
「あの人は小説を書いてるのに」

それなのに、なんで自分だけ叩かれなきゃいけないの!?
時折そんな愚痴も聞きますが、その答えは明確に1つだけ。

おもしろさで納得させていないから叩かれる。

冒頭にも記した通り世間は笑いにだけは厳しい。
おもしろさで世間を納得させている芸人なら、どんな異分野に手を出したところで全く叩かれない。
むしろ、「多才」「才能豊か」だと喝采を浴び、尊敬の念を抱かれる場合だってある。

おもしろければ芸人は何でもあり。
おもしろくなければやることなすこと批判される。
とても理不尽であり、身も蓋もないほどに残酷すぎる。

しかし、そんな残酷な世界だからこそ
笑わせることを諦めずに笑わせ続けた勇者には羨望の眼差しと笑いの強者たちからのビッグリスペクトが集められる。

おもしろくないと判断されれば世間から腹を立てられてしまう不条理な世界で生き抜くことの凄まじさ。勝ち抜くことの難しさ。勝ち残ることの尊さ…

不特定多数の群衆のエネルギーを使わせ、多くの笑い声を生み出した者が放つ言葉の一つ一つには唯一無二の重みが乗っかる。

笑わせようと挑戦し続ける人が2位。
本当に笑わせ続けてきた人が1位。

この順位だけは時代を超えて変わらない。


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ゆじりこ【放送作家・ライター】
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