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ラッパーR-指定の説得力は絶妙な2軍感から生まれている

ヒップホップユニットCreepy NutsのMC R-指定。超絶的なラップテクニックを駆使するフリースタイルの猛者であり、今日本語ラップ界の若手シーンを先頭で引っ張る存在だろう。

ラップバトルブームの流れから今はヒップホップ自体にスポットライトが当り始めている兆しがあるが、数多いるラッパーの中で1番ラップをし始める時の期待値が高いのはR-指定だ。
ボキャブラリーの豊富さ、言葉のはめかた、ユーモア、ラップに全く興味がない人が聴いても別格だと感じるものがあるだろう。

R-指定というラッパー自体はテクニック論やバトルの強さで語られることも多いが、Creepy nutsの音源を聴く中で私はあることに気がついた。
最大の魅力はリリックのセンスだ。
トンチの効かせかたや、思わず感心するような面白さと一定の世代に刺さるくすぐりを自然に入れ込み、1曲に込めるエンターテイメント感が非常に強い。

そして、それは不良でもマッチョでもないR-指定だからこそ生み出せるリリックであり、学校でクラスの2軍に甘んじてしまう忸怩たる思いやルサンチマンが本人のキャラクターと融合し、実に絶妙なバランスを構成している。

日本語ラップ業界にはライムスターというレジェンド級のスーパーヒップホップグループがいるが、少しその系譜を踏襲している空気がある。
不良やマッチョではない目線で解き放たれるヒップホップという面において、ライムスターが表現してきた世界観とは少し似た部分がある。
だが、ライムスターは不良ではないしタトゥーも入っていないが、東京ナイズされたオシャレ感があり、2軍とは言い難い空気を持っている。しいて言えば、1.5軍だろう。
イケてるグループではないが、決してイケてないガリ勉グループでもない。
知的で博学でオシャレで都会的。だけど、決してモテてきたわけではない…というバランスがライムスターの持つ唯一無二の魅力(褒め言葉)

R-指定は関西の空気感と関西人っぽいユーモア、それにライムスターよりも、もう少し分かりやすい絶妙な2軍感があるのだ。オシャレさや洗練された空気より、とっつきにくいけど、しゃべったらめちゃめちゃ面白い兄ちゃんだった…みたいな、良い意味での普通さが魅力だ(褒め言葉)
ゆえに、その普通さがフリとなり、超絶的ラップテクニックが引き立つこととなる。
そして、クラスの人気者や幅をきかすヤンキーや運動部など、いわゆる1軍を批評する目線や、2軍ならではの感覚を類いまれなるセンスで表現するスキルが群を抜いている。

例えばCreepy Nutsの"トレンチコートマフィア"という曲のリリック。

美化されまくったヤンキー漫画じゃ描かれなかった迷惑かけられた側
逃げる側 譲る側 笑われる側 負ける側 
我慢する側 合わせる側 空気読む側 余る側
赤く染まるドブ川 眺め黄昏たところで誰もいない右側 それでもいつか見てろとほくそ笑んでた 俺にはコレがあるから コレがあるから

実にコンパクトなリリックの中に学校生活に良い思い出がない2軍の全てが詰まっている。それでありながら、強烈なパンチラインを落としている箇所「美化されまくったヤンキー漫画じゃ描かれなかった迷惑かけられた側」という部分にキッチリとドラマを入れ込む。
無視されがちな描かれない側にも当然物語はあるのだ。
その物語の行く末を「俺にはコレがあるから」に集約し、今いる場所が人生の全てではないとメッセージを伝える。
「コレがあるから」を2回重ねて強調するあたりのテクニックも秀逸だ。1回目は周囲の人間に届ける気持ちで伝えており、2回目は自分自身に言い聞かせていると私は解釈する。
そして、「誰もいない右側」で彼女もいないことを表現するあたりの日本語使いの巧みさ。ここにはライムスターのイズムを感じる。

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