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【無料】ラップスタア誕生から血の通った生命の音が聴こえる
ABEMAにて放送されているラップスタア誕生。
未来のラップスターを夢見る若者のラッパーたちがラップスタアの称号と賞金300万円を目指して争う番組だ。
私はヒップホップが好きだが、決してヒップホップに詳しくはない。本当に好きな人からすれば、にわか中のにわかなのは承知の上で…
それでも、この番組の見応えに関しては語らざるをえない。
何より作品としてのクオリティが高く、見どころがバラエティーに富んでいる。
ラップやヒップホップ自体に興味があれば楽しめるのは当然のこと、この番組は興味がなくても楽しめる。
一見さんお断りにならない絶妙なバランスで構成されており、関わる人たちの番組への愛を感じる。
まず、この番組の肝となっているのは応募してきた若者ラッパーたちの境遇やライフスタイル。
サラッと人となりを見せるのではなく、この場所では想像以上に深掘りする。
ここはさながらドキュメンタリーだ。
ザ・ノンフィクションですか?と見間違うほどに人間の芯の部分に迫っていき、いつしか応募者の子を身近に感じてしまう。
友達であっても触れにくそうなデリケートな部分にもスポットを当て、基本的にタブーはなし。地上波では掘りづらい部分もキチッと掘る。
そして、この番組は割り切りの良さが素晴らしい。
応募人数から考えると、人数の絞り方が豪快だ。
いきなり10人ほどに絞るのはオーディションとしてはかなりシビアだが、1人1人の人間にフォーカスしようと思えば妥当な人数はある。
30人〜50人、人間の内面を深掘りするのは難しい。
10人に絞るのは厳しく見えるが、これはラップスタア誕生という番組がヒップホップを通した人間ドキュメントであるがゆえ。
我々はヒップホップというフィルターを通して筋書きのないドラマを観るのだ。
そんな筋書きのないドラマの行く末を描くのが審査員5名。
ハードな境遇と、全身からみなぎる圧倒的ヒップホップイズム。
まさに、存在そのものが説得力のかたまりとして君臨する
ANARCHYさん。
独特の空気とオシャレなオーラ。
ヒップホップのカッコよさを体現し、審査員の中でムードメーカー的な役割にも見える
SEEDAさん。
ラップをロジカルに分析し言語化する力。
冷静なジャッジと熱い魂を両面併せ持ち
一見さんにも伝わりやすい解説を武器とする
HUNGERさん。
ヒップホップ誌の編集長であるがゆえなのか
情報量の多さと客観的目線で
ラップスターを輩出する上での考察は見応え十分
伊藤雄介さん。
審査員のまとめ役として番組全体を見渡した上でのジャッジとコメント。
場合によっては嫌われ役も買って出て盛り上げていく
Kダブシャインさん。
それぞれの審査員の個性とバランスが最高だ。
真摯に向きあい、真剣に若者たちの運命をジャッジしていく。
時に厳しい言葉が飛び交い、ピリッとする瞬間もある。
だが、それこそ本気の証拠であり、決してお茶を濁したようなことは言わない。
何でもかんでも否定はしないが、何でもかんでも褒めたりしない。
ラップスタア誕生の出演者たちは全員から好かれようなんて微塵も思っていない。
ヒップホップや音楽の枠を飛び越え
時代の空気をブチ破る世界がそこにはある。
今は平和なエンターテイメントを安心して観るのが主流な時代かもしれない。
それはそれでいい。
様々、時代背景という土台の上にエンターテイメントは成り立つ。
しかし、みんながリアルに生きている世界はそうじゃなかったりもする。
いろんな理不尽があり
いろんな過去があり
いろんな思いを背負って
辛抱したり、取り乱したり。
分かりやすくハードな境遇であろうとなかろうと
人生なんて
人には言えないことだらけなのだ。
若者たちがヒップホップと出会い、何かを変えようとしている。
だけど、自分たちの力だけでは届かない。
自分たちの熱意だけではスターになれない。
そんな
いろんな思いを背負った若者たちに寄り添い
時に優しく、時に厳しく
どうにかして引き上げようとしている。
ヒップホップで人生を変えた大人たちが
ヒップホップで人生を変えようとしている若者たちに
眩い光を浴びせようとしてくれるステージ。
この物語からは目を離せない。
そこにあるのは1verse 1kill。
若者たちの言葉の力が心の臓に突き刺さる。
そして、その大きな輪の中心にいるのは
ラップスタア誕生のオーガナイザー的立ち位置にいるRYUZOさんだ。
「何があってもどうにかしてくれる」
そんな安定感と包容力を感じる。
勝手に「アニキ」と呼ばせていただきたくなるほどにRYUZOさんの存在感は輝いている。
ラップスタア誕生の中心にRYUZOさんがいてくれることが、間違いなく番組に深みを与えてくれている。
冒頭でも言った通り、私はヒップホップは好きだが特段詳しいわけでもない。
専門的な知識などほとんどない。
だが、ラップスタア誕生が見逃せないソフトであることは理解できる。
これは単なる趣味趣向ではなく、肌感覚によるものだ。
題材はヒップホップであり、ヒップホップカルチャー。
ただ、その根底に流れているのは血の通った生命の音。
もう番組は佳境に入っておりファイナルステージを残すのみ。
その回が終わったらラップスタア誕生は終わっちゃうのかなあ?
バカヤロー、まだ始まっちゃいねーよ。
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