
人生初MRI記録 vol.2 〜花子は先手必勝をモットーとするサディストである〜
続き。
ファンク&ソウルのビートに合わせて、撮影機のトンネルの中へと入っていく。
撮影機の中は眩しいくらいに明るくて、なるほど、これも患者の不安を取り除く工夫なんだろうなと思った。
というのも、CTに比べてトンネルの径がかなり狭いのだ。寝返りはおろか、頭を起こして自分のつま先を見ることもできない。まさに『目の前』にトンネルの天井といった具合である(少なくとも主観ではそう思えた)。照明をガンガンに焚いてなければ真っ暗になるだろう。
事前の注意書きに『閉所恐怖を感じますか?』という質問項目があったが、納得した。確かにこれは閉所恐怖のある人には耐え難いかもしれない。
僕は狭いところが昔から割と好きだ。家の押し入れとか段ボール箱の中とかは定番で、わざと狭い路地(故郷の東京都某区には子供が横歩きしなければ通れないような通路が沢山あった)を歩きながら小学校から帰ったりした。
そんな僕でも少し不安になる狭さだった。この状況でなにかトラブルがあって出られなくなったらどうしよう、とかいう心配が一瞬だけ頭をよぎる。きっとこの心配がエスカレートすると具合が悪くなったりパニックになったりするのだろう。
そんな人も多いのか、気分が悪くなったら握ってください、とブザーのスイッチが渡された。昔よくあったタイプの、握るとチューブの先のカエルがジャンプするおもちゃの握る部分みたいなやつだ。不思議なもので、それを握った途端にスーッと落ち着いてきた。むしろ意地でも握るまい、と強気である。
おかげでありがたいことに最後までそれを握ることは無かった。
「息を止める検査です、20秒を何度か。」と技師さんの説明が聞こえる。
20秒?
…そうか。まあまあ長いけど、1分くらいなら息を止めていられる自信はある。
すかさず録音音源の女性(仮称:花子)のアナウンスが入る。うむ、かかってきたまえ。
『それでは息を吸って』
スウゥ〜
『吐いて』
フゥゥ〜
『20秒止めてください』
!?
えええええええ〜〜!
待ってくれ、存分に肺に空気を溜めた状態ならはっきり言って20秒など余裕だが、これはキツい。これが花子のやり口か。
しかも胸の上には推定5kgののし餅が乗っているというハンデ付きだ。これはマズいかもしれない。負けのイメージが頭をかすめる。が、すぐにそれを振り払う。
チキショウ、やってやるよ。漫画『はじめの一歩』の一歩が海人の島袋と無酸素打ち合いを繰り広げるが如く、潜ってやるよ、深海まで。
キメ顔で意気込むのはいいが、ヘッドホンから流れるのはうららかなポップスなので実に間抜けだ。せめてロッキーファンファーレ(映画ロッキーのテーマ曲)が良かった。
ほんの少し気が遠くなりながらもなんとか乗り越え、その後は吸って止めての繰り返しだったので特に苦しくはなかった。でも最初の花子アタックは効いたなあ。
そんなこんなで撮影は20分ほど続き、無茶な呼吸による手足の痺れを感じながら無事に帰還。
しかし先手を取られたので僕の負けと言って良いだろう。リベンジを誓い、撮影室を後にした。
一番緊張したのはこの後の診察だったかもしれない。大きな病気だったらどうしよう、と不安でいっぱいだった。
結論からするとなんでもなかった。放射線科医の所見には何も見つかりません、と書いてあった。良かった。まあ何かあったらnoteなんて書いていられなかっただろうけど。
長くなったけれど、これが僕の人生初MRIの記録である。これから検査を受けられる方、何かの参考になれば幸いです。そして、何も悪いところがないことを心よりお祈り申し上げます。
くれぐれも花子の奇襲にだけはお気をつけて。
ほな、さいなら。