【映画】2021年上半期ベスト!/生きづらい世界、人と自分は違う、家族のあり方ーこれだからこそ映画は素晴らしい
2021年は相変わらずコロナの状況から抜け出せず、やれ緊急事態宣言、やれ東京オリンピックと、日本国民は鬱屈とした日々を過ごしています。
だけど私たちには映画があるじゃないか、と。
配信で気軽に観られる超大作もありますが、緊急事態宣言の煽りを受け苦しい映画館もやはり特別な空間。ホームシアターを作り上げているような人もいるでしょうが、劇場には劇場にしか出せない大迫力なスクリーン、世界観に没頭できるつくり、そしてパワフルな音響設備と日常とは違った体験をすることができます。
今回は、2021年の中でも私が素晴らしいと思った映画をベスト10形式で簡単に各作品を紹介していきます。
くわえて、こういった自由度の高いnoteという形式を活かして、ベスト10を惜しくも逃した作品にも触れます。少しでも素晴らしい作品を知っていただきたいという想いでございます。
◆『BLUE/ブルー』/ボクシングを愛する主人公を松山ケンイチが好演! 愛らしい柄本時生や木村文乃にも注目
<評価ポイント>
主人公・瓜田(松山ケンイチ)が「持たざる者」、ライバルであり親友の小川(東出昌大)が「持つ者」という対比関係がありながら、「持たざる者」の瓜田が「持つ者」に映る瞬間、小川には超えられないボクシングに対する姿勢を演出でうまく見せた点に深く感動を覚えました。
あとは、ボクシングをただ軽い気持ちで始めた楢崎(柄本時生)が強く成長していく過程を見守る中で、真剣とユーモアのバランスが絶妙な点がとてもよかったです。
ボクシングの描写やジムでの各キャラクターのボクシングとの向き合い方など、長年自らがボクシングに打ち込んできた𠮷田恵輔監督だからこその演出が光る良作でございました!
◆『夏への扉 キミのいる未来へ』/手堅くまとめられたSF作品はSF初心者にもってこい
<評価ポイント>
ロバート・A・ハインラインのSF小説を原作とし、過去と未来を行き来するSF実写化作品は複雑化してしまいがち。本作はラブストーリーでその手腕を発揮し続ける三木孝浩監督が複雑化しそうな作品を、物凄く見やすく世界観を構築した点が大きく評価できます。
SF作品に精通している人には物足りないかもしれませんが、内容がきれいに整理されており、「今どうなっているの?」と迷子になることがありません。
近年『影踏み』や『浅田家!』といった原作小説や元の題材(実話)があるテーマを見事まとめ上げてきた脚本家の菅野友恵の大事な部分をうまく拾い上げる「整理術」が功を奏したといえるでしょう。SF初心者にはおすすめです。
◆『るろうに剣心 最終章 The Beginning』/原作ファンとして言いたいことはあるが、10年間に「ありがとう」!
<評価ポイント>
2012年に第1弾が公開されてから計5作品。最終章2部作として、『るろうに剣心 最終章 The Final』が先立って4月に公開され、完結編のシメを飾ったのが本作。
原作漫画でも主人公・緋村剣心の過去を知るには欠かせないエピソードではありますが、あくまで回想の一幕でしかありませんでした。
”殺さず”を誓いるろうにになった剣心が、殺戮の限りを尽くす緋村抜刀斎時代を一つの見応えある物語として作り上げたことを評価しました。
何よりも逆刃刀を手にして戦うことで血が吹き出ないこれまでのシリーズとは異なり、本作では大量の血飛沫が飛びまくります。殺陣の鮮やかさにも魅了されました。
あとは本作のテーマとして語るに欠かせない雪代巴の存在。剣心が過去に斬り殺した前妻…なぜ剣心は巴を殺さなくてはならなかったのか、2人の間に”愛”はあったのか。感情豊かでない表現が難しそうな原作のキャラクター巴を有村架純が見事演じ切りました。
◆『Swallow/スワロウ』/不自由な環境下に置かれた主人公の心の機微に耐えがたい切なさを覚える
<評価ポイント>
”異食症”という一般的には馴染みのない症状を抱える1人の女性の心の機微を丁寧に描いたスリラー作品。
裕福な夫と結婚し、何不自由ない生活を手に入れたハンター(ヘイリー・ベネット)でしたが、「妻を所有する夫」「嫁を見下す義父母」という構図が趣向を凝らした撮影も相まってあまりにも痛々しく映ります。
”異食症”は理解しづらくとも、裕福な生活を送りながら束縛されたかのような彼女の鬱屈とした日々は想像しやすいという演出の妙、何よりもヘイリー・ベネットの繊細な演技が心を揺り動かしてきました。
◆『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』/ジョセフィーヌ・ジャピの圧倒的なヒロイン感にやられる!
<評価ポイント>
やり尽くされたタイムトラベルをテーマにした作品ながら、斬新な設定に舌を巻きました。
高校生の頃に愛する女性と出会いそのまま結婚。愛し合いながらも、SF作家として成功を納めていたラファエル(フランソワ・シビル)は多忙により、妻のオリヴィア(ジョセフィーヌ・ジャピ)とはすれ違い。
すると突如”いま”とは異なる世界に迷い込んでしまい、ピアニストとして大活躍のオリヴィアと何者でもないラファエルと立場が逆転。2人は出会ってすらないというところから始まるラブストーリーが展開していきます。
何よりもヒロインのジョセフィーヌ・ジャピの魅力的な笑顔です。この映画を観れば、彼女に夢中になること間違いなしです。
では、前置きが長くなりましたが、2021年上半期の映画ベスト10を10位から順に発表します!
⑩『RUN/ラン』/閉鎖空間を最大限に利用したシチュエーションスリラーとして最高峰の出来
<評価ポイント>
間違いなく2021年を代表するスリラー。幼少の頃から下半身不随で車椅子生活のクロエ(キーラ・アレン)はある日から違和感を感じるようになります。
一見、幸せな母娘の生活。ただし、母ダイアン(サラ・ポールソン)には秘密があったのです。その秘密を知ったとき、クロエは母のもとから「逃げなければ!」という思いに駆られることに…。
家、薬局、病院など、限られた空間をうまく活用したシチュエーションスリラー。身の回りのことは満足にはできないけど、秀才であるという主人公の設定を活かした演出の数々に息を呑みます。
母親の抱える秘密、クロエ自身も知らなかった自分の秘密、解き明かされていくにつれ爽快感を味わえるうえ、スリラーとしてのハラハラも堪能できる最高の娯楽作でございます!
⑨『名も無い日』/大切な人の死に向き合うためにー大きな後悔とこれからも強く生きる意志を…
<評価ポイント>
私自身が家族とか兄弟を扱ったテーマに弱いというのもあるのですが、本作は「仲の良い次男が亡くなる」という衝撃的な展開を迎えながら、実はこれが日比遊一監督の実体験をもとにしているということ。
本来、写真家という監督の背景も相まって、一つ一つの映像で魅せる演出が光ります。
主人公の小野達也を永瀬正敏、次男の章人をオダギリジョー、三男の隆史を金子ノブアキという本当に兄弟と言われても違和感ない3人をキャスティングしたことが、私自身「観にいきたい!」と思ったきっかけでしたが、見事な融合でした。
家族・親戚背景など、説明不足との批判もある作品ですが、この説明を極力排除した演出が逆に作品の価値を高めているのですよ。エンドロール以降もずっと余韻に浸っていました。
『名も無い日』の考察も書いているので、こちらも合わせてお読みください。
⑧『モキシー~私たちのムーブメント~』/一つのムーブメントをきっかけに人生が一変する女子高生の迎えるラストに涙
<評価ポイント>
Netflixオリジナル作品で劇場未公開です。主人公のヴィヴィアン(ハドリー・ロビンソン)はクラスでも目立たない高校生。そんな彼女があることをきっかけに、”モキシー”という男女平等を訴えかける一大ブームを引き起こします。
モキシーが誰かというのは終盤まで他の生徒たちの間でも明かされないまま進行していくのですが、ブームに火がつけばつくほどヴィヴィアンは態度が変化していきます。
高校生ならではの友情関係の悩み、階級制度に対する対抗など、青春映画として触れられるテーマ性を帯びながら、決して主人公がヒーローになって終わりではない展開が良いです。
誰でも1人で生きることはできないというのは建前とも思えず、この作品は主人公を支えてくれる母親、恋人、友達という周りの人がいてこそ、主人公が殻を破ることができるという展開に涙を我慢できませんでした。
⑦『MISSミス・フランスになりたい!』/自分らしく生きるために…人生や人との向き合い方を学ばせてくれる作品
<評価ポイント>
フランス映画で、タイトルの通り主人公がミス・フランスを目指して奮闘する作品です。ただ、”ミス・フランス”という夢を持つ主人公アレックス(アレクサンドル・ヴェテール)は性別が男性。
子供の頃に語った夢は周りからは嘲笑され、それからは夢を胸のうちに封印したまま生活をしていました。
抑圧された日々を過ごす中で、またとあるきっかけでミス・フランスを目指し始めるアレックス。男性という事実を隠しながら。
ただミス・フランスを目指すというのは一つの作品としてのテーマであって、基本的には1人の人間の成長譚なんですね。だから、アレックスが「自分らしく生きるために」葛藤しながら、仲間ともすれ違いながら成長していく模様がとても心地よいのです。
特に劇中に語られる”完璧と普通の差は数ミリ”という言葉が印象的でした。
⑥『まともじゃないのは君も一緒』/抱腹絶倒の日本コメディ! 成田凌と清原果耶が愛しすぎてたまらない
<評価ポイント>
現在、朝の連続ドラマ小説『おかえりモネ』でヒロインを務める清原果耶と映画・ドラマに引っ張りだこな成田凌のW主演のコメディ作品。
最初は試写会で鑑賞したのですが、あまりにも面白すぎて公開されてからももちろんもう一度観に行きました。
”変わり者で理屈っぽい予備校講師”と”普通ぶっている女子高生”の一風変わった会話劇。テンポの良さやユーモアのある2人の掛け合いがクセになります。
成田凌史上最高にユーモラスで愛すべきキャラクター。この2人が対峙する小泉孝太郎と泉里香との掛け合いも含めて、全編にわたって笑いが止まりません。
2021年随一の腹から笑えるコメディです!普通を目指すよりも、個性的な人たちを愛せるようになりたいですね。
⑤『ファーザー』/アンソニー・ホプキンスの認知症演技に圧倒される…作品への没入具合は類を見ない
<評価ポイント>
「映画として」2021年一番圧倒された作品です。
フローリアン・ゼレール監督の長編デビュー作ですが、脚本も手掛けており今後の作品の期待値が高まってしまいます。もともと脚本もアンソニー・ホプキンスに演じてほしい想いで執筆したそうで、主人公の役名もアンソニーです。
この作品の凄さは「没入感」です。認知症をテーマにした作品ですが、認知症を患ったアンソニーの視点で進行するため、観ている側も認知症を発症したかのような疑似体験をさせられます。
そのため、観客側も常に「今どうなっているの?」と翻弄されてしまいます。何が正しくて、何が間違っているか。この作品を観れば、年代に関係なく、認知症が他人事とは思えなくなります。
本作でアカデミー賞主演男優賞を最高齢で受賞したアンソニー・ホプキンスの演技は圧巻というほかありません。2021年、すべての人が観ておくべき作品です。
④『街の上で』/下北沢を舞台にした恋愛群像劇ー1人の男と4人の女みんな好きになる
<評価ポイント>
特に何かに秀でているわけでもないどこにでもいる荒川青を演じるのは若葉竜也。今泉力也監督作品常連の若手俳優ですが、堂々の主演デビューでした。
この作品の良さはテンポの良さと「これは自分のための作品だ」と大切に思わせられる特別感です。主人公は特別な力を何も持っていません。
そこに目まぐるしく関わってくる4人の女性。荒川を中心に下北沢の街で様々な人間模様を見せます。4人の女性は穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚。
特にTwitterなどのSNS界隈では、城定イハという女子大生を演じた中田青渚がプチブレイクしています。彼女の持つ屈託のない笑顔と良い意味での人懐っこさがクセになりますが、2021年映画ファンが選ぶベストヒロインを開催したら上位入賞間違いなしな気がします。とにかく愛しくも楽しい群像劇。私の中でも今泉力也監督作品のナンバー1です!
③『ジャスティス・リーグ:ザックスナイダーカット』/贅沢すぎる4時間…というか映画館で観たい!!
<評価ポイント>
ジョス・ウェドン監督により制作され、2017年に公開された『ジャスティス・リーグ』。本来はザック・スナイダー監督がメガホンをとっていましたが、娘さんの死といった私生活の大きな変化をきっかけに、そのままウェドン監督にバトンが渡されました。
実際にウェドン監督版として公開された『ジャスティス・リーグ』はちぐはぐな編集のせいもあり、賛否両論どころかファンからは否定的な意見が集まりました。
そこでファン待望として発表されたのがこの『ザック・スナイダーカット』です。240分、つまり4時間もの大層な上映時間で完成した作品ですが、その完成度はファンからしたら眉唾物。
ウェドン版で人間描写が薄く感情移入しづらかったサイボーグやフラッシュといったキャラの背景まで丁寧に描いているため、全キャラに愛着が湧きます。
「あっという間の4時間」とは言えません。正直体感時間はそのまま4時間と長いです。ただ、ザック・スナイダーらしいビジュアルの美しさも相まって、ずっとその世界観に浸っていたいほど。間違いなくウェドン版とは別物と呼べる代物に仕上がっているため、新作の一つとしてランクインさせました!
❶『Arcアーク』/不老不死の人生とこれまで通りの人生ーあなたならどう生きる?
<評価ポイント>
芳根京子が17歳から100歳までの女性を1人で演じ切ったSF作品。
遺体を永久保存する技術”プラスティネーション”から始まり、その技術の発展系として”不老不死”を実現する世界を舞台としています。人類の永遠のテーマであり、夢の一つともいえる不老不死。その限りなく答えに窮しそうなテーマを追求していく作品です。
公開直後の肌感覚としては賛否両論ですが、やはり作品としての不老不死というテーマの投げかけ方とその答えに対する不明瞭さ、映像で魅せる世界観が中心ということもあるのでしょう。
ただ、私個人としては圧倒されすぎて、エンドロールが終わっても立ち上がれなかったのです。モノクロで進行する後半、投げかけたテーマに対してあくまで鑑賞者に委ねる投げっぱなし感が気になる人もいることでしょう。
とはいえ、実は前半部分でこの作品の提示したい答えは投げかけており、後半はその答え合わせをしていくという展開。「こういうことなんだろう」という仮説を立てながら、主人公リナの視点で進行してく物語には完全に没入してしまいました。
SNSでよく見る感想で、SF作品なのに世界観の作り込みが甘いという不満点に関してですが、私見では「不老不死になった人類は進歩や発展をサボり、結果的に世界が現状維持ならびに退化していっている」という考察です。
❶『すばらしき世界』/生きるのを諦めないでー我々の生きる世界は捨てたもんじゃない
<評価ポイント>
同率1位はこの『すばらしき世界』です。もはや映画としても圧倒的、作品への没入感も圧倒的、キャラへの愛着も圧倒的。
個人的にも『ゆれる』や『永い言い訳』といったその年の年間ベスト級を次々に生み出している西川美和監督作品ということで、観る前から期待値マックスだったわけですが、その期待値を軽く超えていきました。
まずは主演・三上役の役所広司の存在感。もはや日本映画界でも圧倒的と言わざるを得ない演技力と目力、愛着の湧く可愛らしいキャラの作り上げ方と全てにおいて最強の俳優でしょう。
殺人の罪で長年刑務所に入っており、スマホにすら触れたことのない社会からの爪弾きものが出所。社会で真っ当に生きるために奮闘する姿に応援したくもなりますが、元・暴力団員や血が昇りやすい性格という背景が働き、そう簡単に社会に順応できません。
ですが、彼の周りには彼を信じてくれる優しい仲間たちがいます。何度も涙を誘われる優しい人間たちの救いの手。まさか私も六角精児に泣かされるとは思いませんでした。スーパーの店長役ですが、この彼のキャラがまた良いんです!
過去犯した罪は消えることはありません。だけど、生きていく以上、前に進むしかない…そんなメッセージ性を帯びたこの作品は、誰にとっても優しく心地よい世界。現実でも「人はこうも優しくあれ」と言われているようで、人に優しくせねばなと考えさせられる作品です。間違いなく傑作!
<まとめ>
いかがだったでしょうか。ちょっと欲を出して、ランキング10作品以外にもいくつか紹介してしまいましたが、2021年も素晴らしい作品が盛り沢山です。
試写会鑑賞もありますが、新作鑑賞は上半期で90作品でした。
緊急事態宣言などで映画館に足を運びづらい地域の方もいらっしゃることでしょう。ワクチンも少しずつ接種が始まっていますし、下半期はもっと気軽に劇場に足を運びたいものです。
2021年の下半期は、『ゴジラvsコング』『ブラック・ウィドウ』『プロミシング・ヤング・ウーマン』『ジャングル・クルーズ』『ワイルド・スピード ジェットブレイク』『ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結』『オールド』『アナザーラウンド』『シャン・チー テン・リングスの伝説』『DUNE デューン 砂の惑星』『エターナルズ』『ウエスト・サイド・ストーリー』『キングスマン ファースト・エージェント』といったハリウッド超大作や海外の注目作品も次々と公開予定です。
『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』は劇場で観れる日は来るのでしょうか。
日本映画も『東京リベンジャーズ』を皮切りに、『孤狼の血 LEVEL2』『ドライブ・マイ・カー』『鳩の撃退法』『先鋭、私の隣に座っていただけませんか?』『マスカレード・ナイト』『燃えよ剣』『CUBE』などなど、楽しみな作品が控えています。
皆様も2021年下半期、素敵な映画ライフを楽しみましょう!
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