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【ドラマ】「wecrashed〜スタートアップ狂騒曲〜」/世界的大企業WeWork社創業者アダム・ニューマンの一瞬の輝きと破滅

みなさま、こんにちは、こんばんは。久しぶりのnote更新です。
前回更新した映画『ブルー・バイユー』のレビュー記事が2月13日だったので、約3ヶ月あいてしまいました。
仕事の充実もありますが、とにかく映画やドラマと趣味に時間を全振りしていたこともあり、noteを書くことがかなり後回しになってしまっていました。

私自身、ビジネス関連の映画や書籍が好きなこともあり、大変興味深い作品に出合いました。今回紹介するのは、企業の創業記であり失墜の物語である『wecrashed〜スタートアップ狂騒曲〜』です。

ドラマの主人公であるアダム・ニューマンは、世界各地でシェアオフィスを展開するWeWork(ウィーワーク)の創業者。企業価値は一時470億ドル(約5兆2230億円)規模に達しましたが、その後大きく事業が傾いていきます。

アダムを演じるのは『ハウス・オブ・グッチ』でひと癖あるパオロ・グッチ、SSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)の『モービウス』で主人公の天才外科医マイケル・モービウスを演じたジャレッド・レト。
さらにアダムを語るに欠かせない妻のレベッカ役は、『マイ・インターン』のアン・ハサウェイと、それぞれが大スターです。

彼らがいかにこの興味深い起業家夫婦を演じ、どのように駆け上がり、そして失墜していったのか…作品紹介と共に、WeWork社のこと、キャストのこと、などドラマを観る上で重要なポイントを解説していきます!

①『wecrashed〜スタートアップ狂騒曲〜』予告動画とあらすじをチェック!(ネタバレなし)

まずは全体的な雰囲気を知っていただくため、予告動画とあらすじを紹介します!

実際の出来事と、その中心にあるラブストーリーにインスパイアされた物語。1つのコワーキング・スペースから始まったWeWorkは、10年足らずで470億ドルの価値を持つ世界的ブランドに成長し、そしてわずか1年足らずで400億ドルの損失を出したのだった。一体、何が起きたのか。
『wecrashed〜スタートアップ狂騒曲〜』AppleTV+あらすじ紹介より

あらすじは前段で説明したとおりですが、面白いのはこの二人のビジネスでの成長はアダムの革新的な行動力やカリスマ性だけでなく、この夫婦だからこそ成し遂げられたと言っても過言ではありません。

企業創業記ドラマとしてのお堅い感覚よりも、二人のラブストーリーとして観ると物語にも入りやすいかと思います。

もともとはポッドキャストの『The Rise and Fall of WeWork by Wondery』が原作となっており、AppleTV+のオリジナルドラマとして実写化が実現しました。

②WeWorkとは? どれぐらい凄い企業なのか(以下、ネタバレあり)

ビジネスに精通する人であれば、知らぬ人はいないであろうWeWork社。
今回はあまり知らない人にもわかるように、WeWorkがどんな会社なのかを簡単に紹介していきます。
なお、ドラマで描かれる事実に触れるところもあるので、ネタバレを気にされる方はお気をつけください。

WeWork LINKS UMEDA(大阪・梅田)©︎WeWork

WeWorkは日本には2018年に進出してきて、全国に37拠点、東京都内だけで28拠点にまで拡大しています。都心に住む人であれば、”wework”という看板を見たことがある人もいるのではないでしょうか。
全世界では120都市、828拠点で展開するシェアオフィス・コワーキングスペースであるWeWork(2022年1月3日時点)。

WeWorkの仕組みは、同社が不動産を借り上げてコワーキングスペースに改装、起業及びビジネス意識の高い人たちに会員として貸し出すモデルで収益を上げています。
スタイリッシュでかっこいいデザインのオフィスで自由に働きながら、時にはコーヒーやお酒を飲みながら新たなビジネスチャンスや顧客、協業者との出会いの場となっています。

アダム・ニューマンについては後述するとして、彼のリーダーシップや行動力を評価して、多くの大物起業家にも一目置かれていました。
その結果、前述の通り企業価値は一時470億ドル(約5兆2230億円)規模まで伸び、次のAmazonとまで目されるようになっていったのです。
しかし、その後WeWorkは大損失を被り(事実上は売上を上げるのと同時に散財しすぎで支出が異常に多かったことが要因)、創業者であるアダムはCEOを辞任することに。

そんな紆余曲折がありながら、2021年にはニューヨーク証券取引所にIPO(上場)を果たしたのです。アダムなき今でもなお、アメリカ、いや世界を代表する企業の一つであり続けています。

③アダム・ニューマンー起業家精神の強い成功者であり一種の教祖的存在

アダム・ニューマンはイスラエル出身の実業家。故郷のイスラエルからアメリカに、母親と妹と一緒に一時的に移住。その後、帰国してから海軍に入隊します。
軍を除隊後は、再び渡米して経営大学院で学び、子供服の会社であるKrawlersを創業しました。

ハイハイで進む赤ちゃんの膝当てを売っており、これまで膝当てなどを必要としていなかった赤ちゃんですが、「赤ちゃんが何も言わないからといって、膝が痛くないとは限らない」といった迷言を残しています。
この時から彼の口の上手さは発揮されていたようです。

演説をするアダム・ニューマン/Getty Images for WeWork

2008年には、建築設計士のミゲル・マッケルビーとの出会いによりWeWorkの前身Green Deskを創業。その後、コワーキングスペースのビジネスモデルを思い付き、Green Deskを売却しWeWorkを創業しました。
ミゲルについても後述しますが、ミゲルはアダムの共同創業者です。
外交的なアダムに対して、ミゲルは内向的。この正反対の性格が見事な化学反応を起こし、WeWorkはどんどん成長を遂げていきます。

アダムは起業家としての優秀さは、ソフトバンクグループの創業者である孫正義に認められたと言えば、日本人の私たちにはわかりやすいのではないでしょうか。
彼はWeWorkの拠点を全米一にし、そして世界的大企業にしていくという野望があったため、孫正義に頼み込んで多額の出資を受けることに成功。
この辺りはドラマでも詳細に描かれるので、是非観ていただきたいですが、私たちの身近な日本の企業代表である孫正義も登場人物の一人として出てくるため、注目していただきたいところです。

くわえて、アダムのカリスマ性ですが、彼は口が達者で、さらに人々を巻き込んでいく能力に長けています。
その最たるものが「WeWorkサマーキャンプ」です。社員総出で行なう研修と会員交流をかねたイベントのことで、その様子はドラマでももちろん描かれますが、YouTubeでも動画が上がっているので、興味ある人は観てみてください。
まるでカルト集団のようで、アダムは教祖にしか見えません。

彼のそばで働いたことのある従業員たちが共通して語るのは、人をその気にさせ、WeWorkで働く人生がいかに素晴らしいかを熱く語る能力は「ずば抜けていた」ということです。

実際、サマーキャンプでは「酒やセックス、ドラッグ三昧だった」と報じられることになりました。くわえて、会社の現場では従業員が遵守しなければならない「2つのルール」があり、まるでパワハラ同然の行為がまかり通っていました。
2つのルールとは、1つ目は「1本140ドル(約1万5000円)する、ニューマン氏お気に入りのテキーラ「ドン・フリオ1942」のショットグラスとケースを確実に手元に取り寄せておくこと」、2つ目は「必ずパーティ会場並みのボリュームで音楽を鳴らしておくこと」です。
前者は守られていなければ、アダムはブチ切れるといいます。後者は仕事に勤しむ従業員からしたらたまったものではありません。これらはBUSINESS INSIDERで詳しく報じられています。

ドラマを一通り観た私からすると、今回このnoteを書くために色々と調べましたが、ドラマで描かれていたことがおおよそ真実であるという確信に至り、大変驚いております。

④レベッカ・ニューマンーアダムを語るに欠かせないミューズ(女神)もしくは…

ドラマではアン・ハサウェイが演じているレベッカ・ニューマン。
アダムはドラマの中で彼女に絶え間なくアプローチし、なんとかデートに漕ぎ着けたものの、最初は相手にされていませんでした。
しかし、アダムのビジネス同様の熱いアプローチに心を揺さぶられ、彼女はアダムに恋してしまうのです。当時はお金もない、服装もダサい、見るからに成功者とは言えない彼に対してです。

アダムの妻レベッカ©︎WeWork

ドラマで描かれる彼らの関係性は、真の愛を感じさせ、そんな中でもカリスマ性でどんどん躍進し注目されていくアダムに嫉妬する時期もあったりと、とてもドラマ性に富んでいたと言えるでしょう。

もともと女優志望だったレベッカにとって、メディアから注目を浴びるアダムはとてつもなく眩い存在だったのです。
ちなみにレベッカには、女優のグウィネス・パルトローが親戚にいるそうです。アダムがWeWorkを躍進させる2010年代と同時期に、『アイアンマン』をはじめとした多くの映画に出演していたグウィネスの存在はある意味刺激になっていたのかもしれません(これは想像ですが)。

ただ、彼女はただの妻としてだけでは終わりません。

WeWorkの中で、何かを成し遂げるでもなく、取締役の一人となり、さらにWeWorkの評価額が200億ドル(約2兆1500億円)だった頃には、レベッカのワガママだけを通してWeGrowという教育事業を立ち上げました。
「世界の意識を高める」というビジョンを掲げながら、単純に自分の子供を通わせる学校が思い通りな教育をしてくれなかったことに憤り、アダムに相談してこの教育事業を立ち上げたという経緯がドラマの中でも描かれます。

コワーキングスペースの事業を展開するWeWorkとは事業的関連性がない上、特段収益性が高くもないお荷物事業会社だったことが容易に想像できます。
ビジョンは素晴らしいんですが、はっきり言ってレベッカはノープランで、その場しのぎの発想で事業を展開してきたので、かなり批判に晒されています。ちょっと気の毒ですね。

⑤ミゲル・マッケルビーーWeWorkの屋台骨…彼なしに会社の成功はあり得なかった

個人的にこのドラマの登場人物で注目をしていたのが、WeWorkの共同創業者のミゲル・マッケルビーです。
企業の成功には必ず目立たなくとも陰の功労者的存在がいるものです。
彼は前述した通り、性格的には内向的で、アダムのように演説で多くの観衆の目を引くことはできませんでしたが、建築設計士という自分の経験を活かして拠点を増やしていくWeWorkのワークスペース設計などに大きく貢献してきました。

ミゲル・マッケルビー/ロイター Bobby Yip

営業面や社員の意思統一は確実にアダムの力あってこそですが、じゃあメイン事業であるコワーキングスペースの設計や建築を誰がやるかっていうとこのミゲルなんですね。
アダムが次々に猪突猛進に新たな契約を勝ち取ってきたり、新たな計画を立てたりしても、それに従いながらコツコツと拠点を広げる手伝いをしてきたのが彼なのです。

共同創業者とは名ばかりで、口下手な彼は会議での発言権はほとんどなかったことがドラマを観ているとわかるのですが、アダムの才能を信じ、どんな状況でもついていった彼こそが真の功労者なのではないかと思うのです。
2020年、WeWorkが上場を果たす前年に退社が報じられましたが、彼の功績にこそ世間はもっと注目してほしいものです。

ちなみにU-NEXTではドキュメンタリー『WeWork / 470億ドル企業を崩落させた男』が配信されており、そこに実際のミゲルが映っているのですが、ドラマでミゲルを演じたカイル・マーヴィンが仕草まで完コピしているので是非比較して観ていただきたいです。

⑥ドラマ『wecrashed』のキャストについて

とてつもなくキャラの濃いアダム・ニューマンをはじめとして、彼らを演じた3人の俳優について、簡単に紹介します。

◆ジャレッド・レト/アダム・ニューマンの訛りからカリスマ性あるキャラクター性まで見事演じきった稀代のエンターテイナー

本作の魅力は間違いなくジャレッド・レトが、実在のアダム・ニューマンを見事に人間らしく演じたことにあるでしょう。

アダム・ニューマンを演じるジャレッド・レト

見た目を近づけているだけでなく、英語発音の訛り、イントネーションまで真似ているところが流石としか言いようがありません(真似ているというよりもやややり過ぎ感もありますが)。
さらに演説で聴衆の心を掴む教祖的な要素も、彼のセリフ回しで見事体現しており、彼の演技についつい釘付けになってしまいます。

妻レベッカへの愛の強さ、ミゲルや社員たちを巻き込むカリスマ性の説得力、これはジャレッド・レトだからこそできた芸当と言えるでしょう。
ドラマはただのお堅い企業物語に終始しておらず、いかに魅力的なのかという部分については彼がアダムを人間くさく、一種の憎めなさを表現したことにあります。
終盤にはミゲルとの堅い友情を見せつけるシーンもあり、そこでは目頭が熱くなったものです。

◆アン・ハサウェイ/レベッカの献身性と嫉妬心という対極にある感情を上手く表現した女優の妙技

夫アダムだけでなく、妻もメディアに多く報じられた有名人とあらば、映像も残っているでしょうから、彼女も演じやすかったのかもしれません。
実際に動いているレベッカの映像を見ましたが、アン・ハサウェイは仕草も上手く真似ています。
ドラマを観ていると「そんな大袈裟な」と感じるんですが、本物のレベッカ自身もジェスチャーを交えた話し方などが特徴的で、実に自分を大きく見せようとしていたことが想像されます。

レベッカを演じるアン・ハサウェイ

ドラマの中で、彼女はお荷物にしか感じられない部分も多く見せられるのですが、前半は献身的にアダムを支える妻として、後半は嫉妬心をあらわに自分も注目されたい欲望に満ちた一人の人間として、実に人間くさい演技を披露してくれました。

◆カイル・マーヴィン/アダムを陰で支えた男ミゲル・マッケルビーの雰囲気を完コピ

ちょっと自信なさげで、常に物憂げな表情をしているミゲル。
ドラマでは決して目立つ存在ではありませんが、登場シーンはもちろんアダムとレベッカに次いで多く、記憶にはしっかりと刻まれるキャラクター。

ミゲルを演じるカイル・マーヴィン

この両手を触りながらモジモジしている感じ、本当に自信がなさそうだけど、頭の中で常に何かを考えていそうな雰囲気です。
前述したドキュメンタリーでも実際のミゲルが登場するのですが、彼が両手でマグカップを持った動作や表情から仕草が瓜二つ。

ジャレッド・レトの役作りの凄さは知っていましたが、このカイル・マーヴィンは俳優をしていますが、本業はプロデューサー。
彼に関しては是非ともドキュメンタリーなどで動いている映像と比較しながら観てほしいです。

⑦まとめ

AppleTV+のオリジナルドラマの質の高さには毎度驚かされます。
映像面や美術面での素晴らしさはさることながら、配信ドラマで映画の主役級のスターが次々とキャスティングされていることが他の配信サービスとの差別化ポイント。

世界的にも有名なアカデミー賞受賞俳優が二人も主役級に名を連ねる本作『wecrashed〜スタートアップ狂騒曲〜』は、映画好きやドラマ好きには是非とも観ていただきたい作品です。

企業の辿った運命を見守るだけでなく、主要キャストたちで織り成される人間ドラマこそが本作の真骨頂。
実に質の高い伝記ドラマなので、これを機にAppleTV+に興味を持ってくださる方がいてくれたら嬉しいです。

今回も読んでいただいた皆様、ありがとうございます。


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