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学術論文執筆の10のタブー:具体例で学ぶNG行為
学術研究の世界では、論文の執筆において守るべき重要なルールがあります。これらのルールを破ることは「タブー」とされ、研究者としての信頼性を大きく損なう可能性があります。本記事では、学術論文執筆において絶対に避けるべき10の行為について、具体例を交えて解説します。
1. サラミ出版(Salami Slicing)
一つの大きな研究成果を意図的に小さな断片に分割し、複数の論文として発表する行為です。
例:ある研究者が、新薬の効果を調べる大規模な臨床試験を行いました。本来なら1つの包括的な論文にまとめるべき結果を、「若年層への効果」「中年層への効果」「高齢者への効果」と3つの別々の論文に分割して発表しました。
問題点:
研究の全体像が見えにくくなり、科学的価値が希薄化される
同様の内容の論文が増え、学術誌の紙面を無駄に占有する
2. 自己剽窃(Self-Plagiarism)
自身の過去の論文や研究から、適切な引用なしに文章やデータを再利用することです。
例:ある研究者が、5年前に発表した論文の「方法」セクション全体を、新しい論文にそのままコピー&ペーストしました。元の論文への参照や引用を一切行わず、あたかも新しく書いた文章のように扱いました。
問題点:
新規性が求められる学術界において、倫理的問題となる
読者に誤解を与え、研究の進展を正確に把握できなくなる
3. データの捏造や改ざん
存在しないデータを作り出したり、実際のデータを意図的に変更することです。
例:ある大学院生が、実験結果が思わしくなかったため、望ましい結果を示す架空のデータポイントを追加しました。また、仮説に反するデータポイントを削除しました。
問題点:
研究の信頼性を完全に失墜させる
科学の発展を著しく阻害する重大な不正行為
4. 選択的報告(Cherry-Picking)
仮説を支持するデータのみを選択的に報告し、反する結果を意図的に省略することです。
例:ある製薬会社の研究者が、新薬の臨床試験を行いました。10の試験のうち3つで良好な結果が得られましたが、7つでは効果がありませんでした。しかし、論文では3つの良好な結果のみを報告し、他の結果には一切触れませんでした。
問題点:
研究結果が歪められ、誤った結論が導き出される可能性がある
科学的真実の追求という研究の本質から逸脱する
5. ゴーストオーサーシップ
論文の執筆に実質的に貢献していない人を著者として記載したり、重要な貢献をした人を著者から除外することです。
例:ある研究室の主任教授が、自身は研究にほとんど関与していないにもかかわらず、研究室から出るすべての論文に自分の名前を著者として記載するよう要求しました。一方で、データ解析に多大な貢献をした大学院生の名前を著者リストから外しました。
問題点:
研究への貢献が正当に評価されない
論文の責任所在が不明確になる
6. 不適切な引用
他者の研究を適切に引用せずに使用したり、存在しない出典を引用することです。
例:ある研究者が、自身の論文の序論で、他の研究者の独創的なアイデアを自分のものとして紹介しました。また、自身の主張を裏付けるために、実際には存在しない研究論文を参考文献として挙げました。
問題点:
他の研究者の知的財産権を侵害する
学術的誠実性を損ない、読者を誤解させる
7. 二重投稿(Duplicate Submission)
同じ論文を複数の学術誌に同時に投稿することです。
例:ある研究者が、論文の採択率を上げるために、全く同じ内容の論文を3つの異なる学術誌に同時に投稿しました。
問題点:
査読者や編集者のリソースを無駄に消費する
同一内容の論文が複数掲載される可能性がある
8. 研究倫理の違反
人間や動物を対象とする研究において、適切な倫理審査や同意を得ずに実施することです。
例:ある心理学者が、被験者に心理的ストレスを与える実験を計画しました。しかし、倫理委員会の承認を得ずに、また被験者に実験の真の目的を説明せずに研究を実施しました。
問題点:
研究対象者の権利や安全を脅かす
法的・倫理的問題を引き起こし、研究自体が無効になる可能性がある
9. 利益相反の不開示
研究に影響を与える可能性のある金銭的または個人的利害関係を開示しないことです。
例:ある研究者が、特定の食品の健康効果に関する論文を発表しました。しかし、その研究が食品メーカーから多額の資金提供を受けていたことを論文中で明かしませんでした。
問題点:
研究の客観性や中立性が疑われる
読者が研究結果を正確に解釈するための重要情報が欠落する
10. 過度の自己引用
自身の過去の研究を必要以上に引用し、影響力を人為的に高めようとする行為です。
例:ある研究者が新しい論文を書く際、関連する他の研究者の重要な成果を無視し、代わりに自身の過去の論文を20以上引用しました。その多くは、当該研究と直接関係のない内容でした。
問題点:
自己の研究の重要性を不自然に強調することになる
他の重要な研究や文献が無視される可能性がある
まとめ
これらのタブーを避けることは、研究の誠実性と信頼性を維持するために極めて重要です。学術研究の世界では、正直さと他の研究者への敬意が基本的な価値観となります。これらのルールを守ることで、科学の進歩に貢献し、信頼される研究者として認められることができるでしょう。
研究者を目指す人々はもちろん、学術論文を読む機会のある全ての人々にとって、これらのタブーを理解することは有益です。科学的知見を正しく解釈し、評価する上で重要な視点となるからです。学術論文を読む際は、これらのタブーを念頭に置き、研究の信頼性や客観性を批判的に評価することが大切です。