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【かんたん量子力学⑩】量子暗号:絶対に解読できない通信技術

みなさん、こんにちは!この記事は、ふしぎな小さな世界を探求するする「かんたん量子力学」シリーズの第10回目です。私たちの目には見えない、原子よりもっと小さな世界では、とってもびっくりするようなことがたくさん起こっています。このシリーズでは、そんな不思議な世界について理解を深めていきます。


はじめに

今回は「量子暗号」というとってもすごい技術についてお話しします。これは、誰にも解読されない安全な通信を可能にする技術なんです。

量子暗号って何?

量子暗号は、量子力学の不思議な性質を利用して、絶対に安全な通信を実現する技術です。普通の暗号は、難しい数学の問題を使って情報を隠しますが、いつかはコンピューターの性能が上がって解読されてしまう可能性があります。でも、量子暗号は自然の法則を使っているので、理論上は絶対に解読できないんです。

どうやって働くの?

量子暗号の中心となるのは「量子鍵配送(QKD)」という方法です。これは、量子の性質を使って、安全に暗号の鍵を送る技術です。実際の量子暗号システムでは、2つの通信経路(量子通信経路と、通常の通信経路)を使います。

「通信経路」って何?

ここでいう「通信経路」とは、情報を送る方法や手段のことです。量子暗号では2つの異なる通信経路を使います

  1. 量子通信経路

    • 特別な装置を使って、光の粒子(光子)を送る経路です。

    • 主に光ファイバーケーブルを使います。

    • この経路では、量子の性質を利用して情報を送ります。

    • 盗聴しようとすると必ず痕跡が残るという特徴があります。

  2. 通常の通信経路

    • 一般的なデジタル通信技術を使う経路です。

    • インターネットや専用のデータ回線を使います。

    • この経路では、普通のデジタルデータをやり取りします。

    • 暗号化されていますが、理論上は解読される可能性があります。

量子暗号システムでは、音声通信は使用しません。全ての通信はデジタルデータとして送受信されます。

量子鍵配送の仕組み

  1. 光の粒を送る(量子通信経路):花子さんが太郎さんに通信したいとします。花子は特別な装置を使って、光の粒(光子)でランダムな0と1の列を作り、量子通信経路を通じて太郎に送ります。

  2. 偏光を使う(量子通信経路):光の向き(偏光)を使って、0と1を表現します。例えば、

    • 縦向き(|)の光 → 0

    • 横向き(―)の光 → 1

    • 斜め右上がり(/)の光 → 0

    • 斜め左上がり(\)の光 → 1

  3. 太郎が受け取る(量子通信経路):太郎も特別な装置を使って、届いた光を測定します。太郎は2種類の方法でランダムに測ります

    • 縦横(+)で測る:縦なら0、横なら1

    • 斜め(×)で測る:右上がりなら0、左上がりなら1

  4. 結果を比べる(通常の通信経路):ここで花子と太郎は、通常の通信経路を使います。「どの光をどう測ったか」をデジタルデータとしてやり取りします。例えば

    • 花子:「1番目の光は縦向きで送りました」

    • 太郎:「1番目の光は縦横方向で測りました」 このように、お互いの送り方と測り方を伝え合います。同じ方向で送って測った光だけを使って、秘密の鍵を作ります。

  5. 盗聴者がいないか確認(通常の通信経路):花子と太郎は通常の通信経路を使って測定結果の一部を比較し、盗聴がなかったことを確認します。途中で誰かが光を覗き見したら、量子の性質で光が変わってしまうので、それに気づくことができます。

このように、2つの通信経路を組み合わせることで、花子と太郎は安全に秘密の鍵を共有することができ、その後はその鍵を使って安全に通信することができます。

BB84プロトコル:量子暗号の礎石

さて、ここまで説明してきた量子鍵配送の仕組みは、実は「BB84プロトコル」と呼ばれる方法に基づいています。このプロトコルは、量子暗号の歴史において非常に重要な役割を果たしています。

BB84プロトコルは、量子鍵配送を実現するための具体的な手順を定めた最初の方法です。先ほど説明した光の送受信や測定の方法、そして結果の比較方法などが、このプロトコルで定められています。

なぜBB84と呼ばれるの?

BB84という名前には由来があります

  • BB:考案者であるCharles Bennett(チャールズ・ベネット)とGilles Brassard(ジル・ブラッサード)の頭文字です。

  • 84:この方法が1984年に発表されたことを示しています。

BB84プロトコルの重要性

  1. 量子暗号の基礎:このプロトコルは、量子力学の原理を使って絶対に安全な暗号鍵を配送する方法を初めて示しました。これにより、理論上解読不可能な暗号通信が可能になりました。

  2. 実用化への道:BB84プロトコルは、理論だけでなく実際に実装可能な方法を提示しました。これにより、量子暗号の研究と開発が大きく前進しました。

  3. 量子情報科学の発展:このプロトコルは、量子コンピューターや量子通信などの分野にも大きな影響を与え、量子情報科学全体の発展に貢献しました。

先ほど説明した量子鍵配送の仕組みは、BB84プロトコルを分かりやすく表現したものです。具体的には

  • 光の偏光を使って情報を送る方法

  • 送信者と受信者がランダムに基底(測定方法)を選ぶこと

  • 測定後に使用した基底を公開して比較すること

  • 一致した基底で測定したビットだけを使用すること

これらはすべて、BB84プロトコルで定められた手順です。

このように、BB84プロトコルは現代の量子暗号技術の基礎となっており、私たちが説明してきた量子鍵配送の仕組みも、このプロトコルに基づいているのです。

なぜ絶対に安全なの?

量子暗号が安全な理由は、量子の世界の2つの面白い性質にあります

  1. 測定すると状態が変わる:量子の状態を測ろうとすると、その状態が変わってしまいます。これは、封筒の中身を見ようとしたら必ず封筒が破れてしまうようなものです。だから、誰かが盗み見しようとしたらすぐにバレてしまうんです。

  2. 完璧にコピーできない:量子の状態は完全に同じようにコピーすることができません。これは、世界に一つしかない絵画のようなものです。偽物を作ろうとしても、必ずどこかが違ってしまうんです。

これらの性質のおかげで、量子暗号は理論上、絶対に破られることがないんです。

現在の状況と未来

現在、量子暗号はまだ研究段階ですが、一部では実用化も始まっています。例えば、スイスのジュネーブでは銀行の取引に使われたことがあります。

将来は、量子インターネットという、全ての通信が量子暗号で守られたネットワークができるかもしれません。そうなれば、私たちの個人情報やプライバシーが今よりもずっと安全に守られるようになるでしょう。

まとめ

量子暗号は、量子の不思議な性質を使って、絶対に安全な通信を実現する技術です。光の粒を使って秘密の鍵を作り、誰かが盗み見しようとしても必ずバレてしまう仕組みになっています。まだ完全に実用化されているわけではありませんが、これからの情報社会を支える重要な技術になると期待されています。

量子の世界は不思議でミステリアスですが、その性質を上手く使うことで、私たちの生活をより安全で豊かなものにできるんです。これからの量子暗号の発展に、みなさんも注目してみてくださいね!

かんたん量子力学:シリーズ概要説明

私たちの身の回りには、スマートフォンやコンピュータ、LEDライトなど、最新技術を使った製品があふれています。これらの製品の多くは、「量子力学」という物理学の一分野に基づいて開発されています。量子力学は、私たちの目には見えない、原子やそれよりも小さな粒子の世界を記述する理論です。この世界では、日常的な感覚では理解しがたい不思議な現象が起こります。

「かんたん量子力学」シリーズは、この不思議で魅力的な量子の世界への探検の旅にご案内します。本シリーズは、社会人の学び直しを前提に量子力学を初めて学ぶ方から、より深い理解を求める方まで、幅広い読者を対象としています。


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