表現力は取材力
依頼を受けた講演会などで「どのようにすれば、インタビューで住民の思いを引き出すことができますか」と、よく聞かれます。
『広報うちこ』に登場する皆さんの言葉が良いらしく、「ホントにそんな熱い思いを持った住民ばかりなのか疑惑」が浮上しているようです(笑)。
最近では2023年10月号の「裏方のヒーロー」ですかね。皆さん、ホントに熱いです。私の愛弟子の特集で、ほぼインタビュー記事で構成されていますが、読み応え十分。捏造ではなく「熱増」で、取材力の高さを感じる特集でした。
愛弟子には「表面をなぞるような取材ではなく、しっかりと潜ってほしい」と教えているので、実践してもらっていることを嬉しく思いました。
さて、今回は「表現力は取材力」と題しまして、取材対象に深く潜り込む方法のお話し。2つあって、一つは五感で取材することの大切さ。
もう一つはレポートをラポートに! です。
【五感で取材することの大切さ】
私が尊敬する広報担当者の一人に、鹿児島県霧島市の美坂さんという人がいます。その方の講演で印象に残ったのが、次のような記事の話でした。
最後から2段落目に「かっぽう着」の話が出るのですが、その一段落で取材対象の胸の内にぐっと潜り込んだ文章になっています。自分が着ている「かっぽう着」のことを自ら話すことはないと思うので、美坂さんが気付いて聞いたはず。インタビューで思いを引き出すためには、その人と話すだけではなく、その人の表情はもちろん、庭先の雰囲気から部屋の中の様子までも見なければいけません。どんな佇まいの家か、畑に何を植えているか、どんな写真や花が飾ってあるか、などなど。五感で空気感や、人となりを感じながら取材することが大切です。事前に用意した質問を聞くだけの取材では、おそらくこんな記事は書けないでしょう。
美坂さんの記事を少し変化させて、「悲しみ」を伝える文章例を考えました。例えば、最初の例文のように、悲しみを伝えたいのに「悲しい」と書いたのでは表面的な文章になってしまいます。
▷例:取材しなくても書ける文章
その男性は3年前に妻を亡くしたが、今も悲しそうにしている。
では次に、美坂さんの取材内容を元に、深く潜り込んだ文章にしてみます。
▷例:取材しないと書けない文章
3年前に妻を亡くしたその男性は、今もその形見のエプロン を着けて料理をしている。「料理が好きだった妻と一緒に居るような気がするから」と、目を潤ませながら理由を語った。
どうでしょうか?
同じ内容を伝える文章ですが、後の例文の方が深い悲しみが伝わります。悲しみだけでなく、愛情までも感じられますね。こういう文章だと「お、潜り込んでるね」とハナマルをあげちゃいます。
「レポート」を「ラポート」に!
会話の手法には「レポートトーク」と「ラポートトーク」があるそうですね。レポートは情報中心の言葉で、ラポートは感情中心の言葉で話します。私自身はラポートという言葉は最近知って、使いこなしていたわけではありません(笑)。
ただ似ていると思ったのは、特集に関連する資料や記事で拾った表現を、自分の町の人々の言葉に変換することを心がけていたことです。言葉は知らなかったけど、自然とレポートをラポートに書き換えてたのがすごいですな。
さて、2017年12月号の特集「地域づくりの源泉」を例にお話しします。
石畳という地区の30年300人の挑戦を伝えるもので、地方創生を裏テーマとしていました。
私は特集の骨子を作る前に、本や資料などから基本的な情報を集めます。地方創生の記事は国や学者がいろいろな記事を書いているので、そこから気になる言葉などを抽出しました。例えば「地方創生は補助金を頼りにしない覚悟が必要」とか、「田舎に住む若者の人間らしい暮らし方が地方創生のカギになる」とか――。
すでに「ラポート」になっている気はしますが、こういう言葉を念頭に置いていると、さらに深い話を聞くことができることが多いです。掘り下げるべき話に気づきやすくなるのかな。「その話、もう少し詳しく聞きたい」というスイッチが自然と入っていました。
先ほどの「地方創生は補助金を頼りにしない覚悟が必要」という言葉は、取材対象の思いに変換。紙面では「私は、自分たちの労力とお金は地域への投資と考えています。還元される利益はお金じゃなく地域の発展、そしてみんなの心が満たされ、互いが豊かになることです。(中略)メンバー12人が5万円を出し合って、自らが汗を流して作業をしました」としました。
どうでしょうか。
「地方創生は——」の文章は、行政マンには響く感じはしますが、一般の住民には全く響かないと思います。一方、紙面に掲載した文章は住民自らの思いがこもった言葉を借りることで、より読者が共感しやすい内容になっていると思います。
「田舎に住む若者の人間らしい暮らし方が地方創生のカギになる」も、見事に変換されているので、どのように変わっているのか、ぜひ紙面を読んで確かめてみてください。
今回、取材対象に深く潜り込む方法を2つ紹介しましたが、結局は「いい質問ができるかどうか」だと思います。それをするための準備は必要だし、取材対象に興味や好意を持つことも大事です。慣れるまでは大変かもですが、町のすごい人とおしゃべりできる! くらいの感覚で楽しみながら取材すれば、案外いいインタビュアーになれるかもしれませんね。