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冬と春の間に思い出す言葉

このころになると、
いつも思い出す言葉がある。


ある日、男の子が雪の精と出会った。
女の子の精霊。
ふぶきに乗って遊ぶ男の子と雪の精。

雪の精は、雪が消えると自分も消えてしまう。
だから、どんどん雪をふらし、
町じゅうを雪でうめつくす。

「あたしは、消えたくないの。
 いつまでも いつまでも」

でも、男の子は人間。
寒くて風邪をひきそう。

「ハクション!! そろそろ帰りたい」

「まだ いいじゃない。
 あなたが すきになっちゃった。
 いつまでも いっしょに いたいわ」

「おそくなると ママにしかられるんだ」

ようやく家に帰った男の子は、
風邪をひいて、ひどい熱を出してしまう。
だけど、大雪でお医者さんがこられない。
寝こんでしまう男の子。


その夜


枕もとに あらわれる 雪の精。

目をさました男の子が驚くと、
ひたいにそっと手をあてる。

「熱を吸い取っちゃうの。すぐによくなるわ」

「だけど… そんなことしたら きみが…」

「消えちゃうわ。でも いいの。
 雪は消えるのがあたりまえなのよ」

「……信じてほしいの。
 あなたに かぜをひかせるつもりなんて
 なかったのよ。
 ほんとに あなたが すきだったのよ」

「わかってるよ…
 きみと遊んでて楽しかった」

「ほんと?………うれしいわ」

よく朝、男の子が目をさますと、
うそのように熱はさがり、
雪はすっかり消えていた。


このころになると、
いつも思い出す言葉がある。


ぼんやりと空を見上げるのび太の横で、
ほほ笑むドラえもんの

「あたたかい南の風が吹いてる。
 もうすぐ春なんだね」

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