見出し画像

カイドウの酒龍八卦はなぜあんな事になったのか

「長すぎる」と評判のワノ国編。

クライマックスはカイドウとルフィの一騎打ちだが、決戦のわりには終盤、苦笑の絶えない展開が続く。

久しぶりに本気で戦える相手に出会ったカイドウは、酒龍八卦に打って出る。酔態8種の「上戸」を駆使してルフィを翻弄。この辺りから勝負の行方と漫画の雲行きが怪しくなってくる。

酒龍八卦とは何なのか。

元ネタの一つは、ジャッキー・チェンの映画「酔拳」だ。「酔えば酔うほど強くなる」というコピー通り、カイドウも酒に酔って覇気を強めた。

映画では「酔八仙拳」と呼ばれ、中国の有名な仙人が酒に酔う姿を模している。八仙人それぞれに型があり、戦況に応じて使い分ける。

これを酒龍八卦では上戸で表しているのだ。

そして、もう一つのモチーフが、同じくジャッキー・チェンの映画「笑拳」だ。

酔拳ほどメジャーではないが、尾田栄一郎の世代には、これもかなりの引きがあったと思われる。

もちろん架空の拳法で、自身の「喜怒哀楽」をコントロールし相手を油断させる秘術だ。カイドウの「輪雷上戸」や「泣き上戸」など、まさにそれである。

酔拳と笑拳。それをミックスして、作中屈指の中だるみが完成したのである。


「酔拳」のテレビ初放送は1981年1月16日。当時の尾田少年は、明るく激しく楽しいカンフーアクションに夢中で見入ったに違いない。

そのラストファイトの興奮を自分の漫画で再現したかったのだろう。

原稿を渡され、酒龍八卦の仕上がりに目をむいたはずの編集者。しかし、作品はその手をすり抜け、読者の元へと届けられた。

思いついたものは全て入れ込むワンピース。構成力を放棄した尾田栄一郎の面目躍如だ。

人は頭に描いた全てを相手に伝えることはできない。クリエイターの中で発散された表現をそのまま見せられたら、そこには混沌しかないだろう。

だから、編集者が必要なのだ。

ワンピースは、これまで10人以上担当が代わり、ほとんど新人の編集者が付いている。

そして今のワンピースだ。

言われても思い出せない伏線、要所で繰り出す説明台詞、流れを止める「まめ知識」…

全てはワンピースを語る上で欠かせないマスターピースとなっている。

発行部数が億を超える漫画では滅多に見られない、エキサイティングな読書体験をぜひ味わっていただきたい。


ちなみに酒龍八卦は7つの形態しか披露していない。実は映画「酔拳」も主人公が修行をサボり、最後の仙人の型は見せていないのだ。

それも映画のオマージュかもしれない。

「もういいよ」と言われただけかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!