「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記) 第45房:風の感覚を思い出して。
彼はこの二日間、ずっと引きこもっていた。
その間、クラウドワークスを始めてみたり、健康食品について調べたり、詩を書いたり、小説を書いたり、映画を見たり、寝坊したり、ポテチを食べたり、コーラにハマっていたり。
彼の中には葛藤があった。
このまま在宅でライターをしていくのか、それとも外に出ていくのか。
家は落ち着く。
しかし、ずっと家にいると、居心地の良さに疲れてくる。
なんとも言えない疲労感。
たまったエネルギーが外に出ようともがいているような苦しさだ。
では、出るのか。
彼は他にプールのコーチもしている。
がっつり肉体を使う仕事だ。
だからバランスはいい。
とてもいい。
では大切なことは何か。
小説を書くことだ。
☆
丸山健二の「まだ見ぬ書き手へ」の二巡目。
決意は固まった。
☆
例えば今夜、カレーが食べたいと思う。
そのためにはカレーを知っていないと作れない。
材料を買いに行く。
買った材料を調理する。
それを食べる。
それでようやくカレーが食べたい、という夢は叶う。
では材料はどうやって買うのか。
まず材料費。
お金を稼ぐしかない。
だから働く。
または節約する。
投資でもありだ。
カレーが食べたいのなら、カレー屋さんに行くのもありだ。
決してカレーが食べたい、と思っているだけでは、夢は叶わない。
らしい。
小説になるには、書くこと。
応募すること。
書くこと。
応募すること。
そのための材料は経験だ。
経験は行動だ。
行動したときに伴う濃淡は性格で決まる。
よし、まずは身近な人から。
☆
久しぶりに会った彼女は、いい匂いがして、ふんわりとしていた。
後悔のないように。
なにが起きるのかはわからないのだから。
彼は今夜、一人でステーキを食べる。メガドンキで買ってきた激安の肉だ。それをさらに三等分して。財布の中身は数十円しかない。
彼はそれで幸せだった。
ポルシェもセフレも莫大な貯金も権力も、もちろんほしい。
けれど、それはきっと幸せに気づくための道具だと彼は思っている。
それがないと幸せになれないほど、彼は不幸でも不自由でもなかった。
幸せは本当の幸せと自由な世界を、少しずつ思い出しているのだ。
☆
初めての人生、欲に溺れてみたくなるときもある。
そういうときはまよわず溺れよう。
その経験がきっと大切だから。
大切なのは、そのまま溺れ続けないこと。
きちんともとに戻ること。
その経験を活かすこと。
だってそうじゃないか。
ぼくたちはみんな、
母親の胎内からこの世に出てくるという苦しみを
経験して
それをみんな活かしているから生きているんだ。
世界はこの瞬間に、
幸せにも自由にもなる。
思い出して。
優しい音、匂い、味、色、触り心地を。
そして言葉にはできない、
風の感覚を。
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